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人事の方に私の提案をみせてみた:インタビュー③大手民間企業人事責任者 Eさん
こんにちは、はなです🌼
今日は新しい働き方ラボに関する記事になります。
現在私は、自主企画として以下のようなテーマで研究を進めています。
【実験】休み下手だった日本人の私が、ドイツ人の休み方・働き方を吸収したら、日本の働き方を変える道筋が見つかるのか。
研究計画書を含むこれまでの記事は以下の通りです。
・研究計画書
『【研究計画書】休み下手だった日本人の私が、ドイツ人の休み方・働き方を吸収したら、日本の働き方を変える道筋が見つかるのか。』
・実験第1弾
『日本とドイツの働き方はどう違う?データから比較してみた』
・実験第2弾
『ドイツ人の休暇を体験してみた:お休み上手なドイツ人の休暇を体験したら、幸せになる休み方が見えてきた!』
・中間報告書
『【中間報告書】休み下手だった日本人の私が、ドイツ人の休み方・働き方を吸収したら、日本の働き方を変える道筋が見つかるのか。』
・実験第3弾
『ドイツの働き方改革を学んだら、柔軟な働き方を実現するための個性的なアイディアが詰まっていた!』
・実験第4弾
『ドイツ人にインタビューしてみた:お休み上手なドイツ人と休み下手な私の価値観は180度違っていた?!』
・半年間を経て私の考察
『半年間の活動を経て、私が日本企業に提案したい6つのこと』
・実験最終弾①
『人事の方に私の提案をみせてみた:インタビュー①国家公務員 Sさん』
・実験最終弾②
『人事の方に私の提案をみせてみた:インタビュー②大手民間企業 Iさん』
今回は実験最終弾パート3!
ドイツ企業や日本の大手民間企業など、これまでに3社で人事責任者を経験され、現在4社目の人事責任者としてご活躍されるEさんにお話を伺いました。
Eさんは長年ドイツ系企業で人事職そして人事責任者を務められていた経験をお持ちで、ドイツ人の働き方や価値観を目の当たりにされたお話もお聞きすることができました。
はじめに
事前にこれまでの研究記事をお読みいただき、6つの提案を提示させていただきました。
【日本企業への6つの提案】
①傷病休暇の利用を推奨する
②労働時間口座制度を取り入れる
③短時間正社員制度を取り入れる
④ジョブシェアリングを取り入れる
⑤「休み=悪」の文化を変えるため、研修を催す
⑥「2週間以上の連続した休暇」を体験する機会をつくる
その上で以下3点を中心にお話を伺いました。
・6つの提案の中で、日本企業で人事として取り入れられると思うものはどれか。
・取り入れたくても難しい部分(課題)はあるのか。
・その課題にはどうアプローチできそうか。
Eさんは、現在大手民間企業で人事責任者を務められている方です。
【プロフィール】
大学卒業後、大手自動車メーカーに入社。ドイツ企業でも人事職ならびに人事責任者を経験。これまで3社にて約30年間人事職に携わり、うち、13年間は3社にて人事責任者を歴任。現在は大手民間企業で最高人事責任者を務める。
インタビュー
傷病休暇の利用を推奨する制度を整えることはできる。課題は文化やマインド改革。
ーー6つの提案をお読みいただいたかと思うのですが、①の傷病休暇の推奨についてはどう感じられましたか?
Eさん 私が今まで経験してきた会社だと、傷病休暇は通常の有給休暇を全部とり切らないととれないという会社が多いです。そうじゃない会社もあるとは思いますが。
ーーそうなんですね。詳しく知りませんでした。
Eさん だけどそれは規則だけの問題なので、「病気の時は有給休暇が残っていても傷病休暇を使ってください」という制度にすることはできると思います。(逆に、「病気の時に有給休暇を使うな」というのは日本の労働法上難しいと認識しています)。制度は変えられると思いますが、どちらかというと課題はマインドの方かなと思いますね。
ーーやはりマインドに行き着くんですね。
大前提が違う、ドイツ人と日本人の休み方。
Eさん 今までドイツ人と一緒に仕事をしてきて、私の感覚ではドイツ人はちょっとした病気のために有給を使うという感覚がまずないというのをすごく感じていました。
ーー私もそれは感じます。
Eさん そうですよね。
私が知っているドイツ人の場合は計画的に長期休暇をとるので、おそらくバカンスとかのために有給休暇を使うというのが基本的な考えだと思います。
でも日本人には基本的にそういう考え方ってないですよね。だいぶ変わって来てはいますけど、基本的にはワーキングカレンダー通りに働いて、有給休暇は家庭の事情や突発事象のために使う感じ。
だから、前提として休み方、考え方がドイツと違うというところはあります。
ーーたしかにおっしゃる通りだと思います。わかりやすい違いですね。
日本はかなり受動的な文化。会社が主導しないとなかなか休まないのでは。
Eさん 日本には長期休暇をとろうっていう感覚がまずないんですよね。会社が指定した長期休暇があれば休むんですけど。
「日本人は会社から言われたこと、認められていることはやるけど、自分の権利を積極的に行使しようとしない」というのは、多分日本の社員全般に言えると思います。これ実は全てに通じると思っていて、キャリアとか学びとかも全部そうですね。基本的にかなり受動的。だからそのマインドを変える必要があるだろうなと。
だいぶ変わってきているとは思いますが、なかなかそこまで舵を切っている会社は純日本企業では少ないと思います。法的には休暇の用途を指定することは難しいのですが、「傷病休暇は病気の時に使いましょう。普通の有給休暇は、長期休暇に使いましょう」ということを会社としてアナウンスしていくというのはできると思います。
一方で職場の雰囲気によるところも大きいと思います。
例えば「カレンダー以外で休むなんてありえない」という考えの上司がいると休暇をとれなかったりするので。結構、マインドを変えるのはハードルが高いと思います。
ーーたしかに直属の上司がそういった考えだと現場は影響を受けますよね。
そうですね。
でも例えば、私がいたドイツ系の企業だと、連続した休暇はとっていました。というのも、ドイツ人上司が(当たり前ですが)ドイツ的な休み方をするんです。結果としてドイツ人上司がいないから、会社に来てもしょうがないという状況になって、日本人も一緒に休んでいましたね。もちろんデイリーオペレーションがある人は別でしたが。
この時の休み方はまさにドイツ的な休み方で、有給休暇を自分のリフレッシュ、バカンスのために使っていました。
私が休むと、私の下の部長とかも休むようになって、そうすると結構そういう使い方ができるようになるんですけど。なかなか外資系じゃない日本企業となると難しい。
日本人ってみんなが働いてるのに自分だけ休むとか、そういうのすごく嫌がるんですよね。例えば「夏休みにお盆を外して2週間休みとります」なんていう人は、業種にもよると思いますが、なかなかいないんですよね。
ーーたしかに。前職では私もあまり見かけたことはありませんでした。
Eさん でも永年勤続休暇とかで、会社が「勤続10年で5日とってもいいですよ」となると、それは会社が認めているからみんなとるんですよ。というか、とらないと会社や労働組合からフォローされるのでとらざるを得ない(笑)
ーー会社側が発信して認めますとなると、日本人は休暇をとりやすいということですね。
Eさん そう。そこがもう根本的に違うと思います。
ドイツの労働時間口座制度と全く同じものを導入するのは、以前は法律上難しかったが、素地が整ってきてはいる。
ーー②の労働時間口座制度についてはいかがですか?
Eさん これは、ドイツと全く同じようにというのは、日本では以前はなかなか法律的に難しかったのですが、できる環境が整ってきたと理解しています。
今、日本企業のオフィスワークではフレックス制度を導入している企業がほとんどなので、出勤退勤時刻は自由です。そうすると、1日の労働時間って8時間とは限らないわけです。月末で締めて、合計何時間働いたかでお給料が支払われる。
例えば所定労働時間が160時間勤務のところ、月末で締めて160時間だったら時間外手当ゼロの金額ですし、月末に締めて170時間働いていたら、10時間分の時間外手当がつく。
以前はその清算期間が1ヶ月で、繰り越せなかったんです。「今月は業務に余裕があって140時間でした」となると、規則上は20時間分給料がカットされるんです。もっと言うと、欠勤扱いになって評価にマイナスな影響がでてきてしまう可能性もある。だから日本では、「140時間で終わったとしてもあとの20時間はダラダラ過ごして、合計で160時間勤務にする」ということが起きていたんです。
実際に十数年前、私が当時働いてた企業のドイツ人社長から、「20時間働いていないんだったら、それを翌月に繰り越せるようにしろ。ドイツではできる。」という指示がありました。
管轄の労働基準監督署にも相談したのですが、労基署によって判断が違った、ということを覚えています。
2019年4月に働き方改革の一環としてフレックスタイム制に関する法改正が施行され、清算期間の上限が「3ヶ月」に延長されました。これにより、当時のドイツ人社長が言っていたことが可能になると思います。日本の労働法制も少しずつ進んできているということでしょうね。
ーーこれは現場で実際に導入のために働きかけたEさんだからこそわかる実態ですね。ありがとうございます。
短時間正社員制度、ジョブシェアリングは制度を作る上での難しさはない。課題は概念の変容。
ーー③短時間正社員制度と④のジョブシェアリングについてはいかがでしょうか。
Eさん これはできます。とくに今後、週休3日が出てきたり週休何日かを選べるようになってきたりすると、必ず出てくる話だと思います。
ドイツではよくやっていますよね。ドイツをはじめ、海外にはFTE*という概念があります。
*FTE
FTE(Full-Time Equivalent)とは、パートタイムスタッフの仕事がフルタイム勤務の仕事に換算して何人分にあたるかを表すものです。「フルタイム当量」とも呼ばれます。センターに必要となる人員を測定し、人員コストを削減するために用いられる考え方です。
例えば、1日の所定労働時間が8時間であれば、8時間×週5日=週40時間が1FTEなんですよね。ドイツはおっしゃる通り、一つのポジションを短時間勤務の二人でシェアしていることがあります。0.6FTEと0.4FTEで、AさんとBさんで1FTE、つまり1ポジション=1FTEをシェアしているというのは、ドイツでは普通にありますよね。私もドイツ人の同僚でそういう人をたくさん知っています。
いわゆる総合職的な仕事における日本の短時間勤務って、かなりレアなんですよ。でもドイツでは企画的な仕事をする人、戦略的な仕事をする人でも、1ポジションを複数人で分けるというのは普通にあります。
日本もだいぶ変わってきてはいますけど、日本の企業にはFTEっていう考え方があんまりない。「一つのポジションには一人が入る」という暗黙の前提があると思うんです。人数(ヘッドカウント)だけじゃなくて、社員の仕事量でマネージする考え方が日本にも入れば…。厳密に言うと、この制度を導入するにあたって考え方を変えていく必要はあると思います。
自分の人生のどれだけを仕事に割くかは、人それぞれ。その観点を根付かせることも必要。
ーーなるほど、ありがとうございます。
この短時間正社員制度に関しては、すでに育児など用途を限定した短時間勤務制度はあるじゃないですか。だからそこまで幅を広げる必要性を感じないという意見もあるかなと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
Eさん それはいわゆる日本的人事感かなと思います。
育児以外にもニーズはないのか、そのニーズは少ないのか。もしかしたら、週2日は山登りをしたい人がいるかもしれない。「山登り大好き。別にお給料は5分の3でもいい」っていう人がいてもいいと思うんです。実際にドイツにはそういう人がいて、それを認めているわけです。
日本って趣味とかで短時間勤務をとりたいとなると「サボっている、怠けている」と思われやすいところがありますよね。
私もドイツ系企業で働いていなかったら、そう感じていたかもしれないです。「育児、介護で短時間勤務制度があればいいのでは」と思ったと思います。でも実際ドイツ人の仲間でそうじゃない人をいっぱいみてきたんですよね。それを目の当たりにして、こういう方が正しいだろうなって思ったんです。
ーーそうですよね。仕事が人生のどれくらいを占めるかは、個人によって変わっていいものじゃないかなと、私もドイツ人の働き方を見ていてすごく感じます。
Eさん そうですよね。そもそもなんでフルタイムで働かなきゃいけないのか。給料が下がったとしても、本人がいいって言ってるわけだから、自分の人生のどれだけを仕事に割くかっていうのは人それぞれですよね。
そういう働き方を選んで偉くなれなかったら、それはそういう選択をしてるんだからしょうがないわけですよ。でも偉くなることだけが人生じゃないから。
偉くなれなくてもいいけど、そこそこの仕事とそこそこのお給料で楽しいプライベート。そういう感覚は多分まだ日本人にはあまりないと思います。
ーーそこの概念、文化の違いにもまたアプローチする必要が出てくるんですね。
Eさん やっぱり日本には一種の固定概念がある。「こうあるべし」みたいなものがあって。そこから外れる人たちのことをすごく冷たい目で見るというか。よっぽど覚悟がないとなかなかそっちに行けなかったりしますよね。だから結局そういった概念や文化に行き着くかなと感じます。
文化を変えるためには、ある程度強制的な制度+自ら動く人を増やす。
ーー続いて⑤と⑥が文化を変えるアプローチになるんですが、「休み=悪」のような固定概念を変えるためのアプローチだったり、連続した休暇をとる習慣を根付かせるためのアプローチについてはいかがでしょうか。
Eさん 多分日本の場合には、自ら変えましょうっていうのはなかなか難しいと思います。
文化を変えるにはある程度強引に制度でやるのと、自ら動く人を増やすためのアプローチの両方が必要になると思います。時間はかかると思いますが。
まず日本の場合はフロントランナーが出づらい。
SNSの発達もあって、だいぶ変わってきたとは思いますが、やっぱりまだお互いに様子を見て動かない部分があると思うので、最初は会社が主導してやるしかないと思います。
例えば、「5日は絶対連続休暇をとりましょう」とか、半ば強引なことを最初はやらざるを得ない。そこからだんだん変わってくる。だから最初は制度で強制的にやるというのが一つです。
もう一つは、自ら動く人を少しずつ増やすということ。
例えば、今うちではキャリアワークショップというものを始めています。これは自分の生き方を見つめ直すワークショップなんです。
日本人、とくに会社員は、あんまり自分の生き方を見つめ直すとかしないんですよ。会社の言われた通りに過ごしていれば、今までは60歳まで生きていけていたわけだから。でもそこであえて今までの人生を振り返って、「これから自分の人生どうするの?」ということを考えてもらうワークショップをやってます。
ーー立ち止まって考える機会を設けているんですね。自分で考えて動く文化を醸成することに繋がりますね。
Eさん そうですね。これは100人やったからって100人全員が気づくわけじゃないんですけど。例えば5人でも気づき出すと、5人が動き始めるわけです。例えばそういった人を社内のSNSで紹介していくと、「あ、あの人こういう風にやってるんだ」って、ファーストペンギンが出てくるわけですよ。
日本人は追従しだすとグワーッと行く傾向にあるので、ファーストペンギンを出すところが大切になってくるかと思います。
あとは社内公募制度(自分で手を挙げて社内で異動できる制度)とかで実際に異動した人のインタビューを社内SNSに載せたりすると、「あ、この人こういう挑戦してるんだ。じゃあ私もしてみようかな」って動き出すんですよね。
だから、その2つですね。制度で強引にやるのと、草の根運動的に自ら考えて動く人を増やすこと。
ーー制度とマインドの両面からのアプローチ、とてもわかりやすいです!ありがとうございます。
結論
日本の働き方を変えるには、とにかく文化変容が重要になる。
今回私が提案した6つのうち、①②③④の4つが制度改革に関するものでしたが、制度としては多くが可能とのことでした。労働時間口座制度においては、以前は1ヶ月を超えた繰越が難しかったようですが、法律も変わって月をまたぐ繰越ができるようになってきたこともわかりました。
しかしこれらの制度全てに、ドイツと日本での大前提の文化の違いが関わっており、どの制度を設定するにも、文化面、マインド面の変容がカギになるということです。
制度に強制力を持たせつつ、自主性を育てるアプローチで変えていく。
文化を変えるために必要なのは、会社主導の強制力をもたせた制度と、社員一人ひとりの自主性を育てるアプローチだということもおっしゃっていました。
日本人の特性であるファーストペンギンが出づらいという部分をカバーするため、「半ば強引に制度を使わせるような仕組みを作り」、「自ら考え、手を挙げて動くような人材を育てるワークショップや制度(社内公募制度など)を回していくこと」が必要になるとのことでした。
さいごに
私は大学生の時に「ドイツの働き方っていいな」と漠然と感じ、今回の実験に至りましたが、今日までずっと「私はこう思う、こう感じるけど、日本社会では受け入れられないのかも」と少し弱気になっていた部分がありました。なぜなら周りの日本人の会社員の役員レベルの方で、こういった考えをしている人に出会ったことがなかったからです。直属の上司や同僚、友人にも多くはいませんでした。
しかし今回、ドイツ企業・日本企業の両方で人事責任者を担当されてきたEさんの、豊富なご経験からくるお話には説得力と力強さがあり、大変大きな勇気と感動をいただきました。
これは前回のIさんとのお話でも感じたことですが、やはり体感と経験が伴った言葉には人の心を動かす力があります。
Eさんのご経験に比べれば私の体感や経験はわずかなものではありますが、「これが世の中にとっての正解かどうか、受け入れられるかどうか」というところに留まって弱気になるのではなく、「私はこういった場面からこう感じ、このように考える」という一つ一つの自分の体感を、小さくても自信を持って発信していくことが最初の一歩なのではないかなと感じました。
ドイツと日本の文化的な違いとそれらのハードルを越えるための道筋が見えたのと同時に、私自身の在り方、姿勢にまで刺激をいただいたインタビューとなりました。
この度はご多忙の中お時間を捻出くださり、貴重なお話をたっぷりお聞かせくださったEさん、誠にありがとうございました✨
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![はな|ライフコーチ🇩🇪](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/99133017/profile_b4e32d1823fc6f3be763a0d2a49b4975.png?width=600&crop=1:1,smart)