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子ネコ


マサチューセッツ工科大学の二人の研究者、リチャード・ヘルドとアラン・ハインは、内壁に縦縞が描かれた円筒に二匹の子ネコを入れた。どちらのネコも、円筒内を動くことによる視覚入力を受ける。しかし両者の経験には決定的な違いがあった。一方の子ネコは自分で歩いていたが、もう一方の子ネコは、中心軸に取りつけられた吊りかごに乗っていたのだ。この設定ではどちらの子ネコも同じものを見ている。同じときに同じスピードで動く縦縞である。視覚に関係するのが目に当たる光子だけなら、二匹の視覚系は同じように発育するはずだ。しかし驚くべき結果が出た。動くために自分の体を使っていた子ネコだけが、正常な視覚を発達させたのだ。吊りかごに乗っていた子ネコは、きちんと見られるようにならず、その視覚系は正常な発達をとげなかった。

ディヴィッド・イーグルマン著 太田直子 訳
「あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎」
ハヤカワノンフィクション文庫  p66




最近購入した未読本。手元にあったので、ぱっと開いてみたら、上のページだった。


こういう動物実験が科学の発展にとって有用であることは理解するけれども、私は学者ではないので、「子ネコ」たちの「その後」について、きっぱりと割り切って受け止めることは到底不可能である。


どちらの「子ネコ」も、発達の違いがはっきりするまでは、慎重に飼育されただろうけれども。


以下略。


書いても仕方がないことだ。


あ、でも一つだけ。

なんで縦縞だったんだろう。他の模様じゃダメだったんだろうか。そこはちょっと気になる。


「あなたの脳のはなし」の著者、デイヴィッド・イーグルマン(David Eagleman)は、ウィキペディアによると、1971年の生まれで、屋根から落ちた経験から、脳神経科学に興味を持ったらしい。詳しい状況は分からないけれども、頭が無事でよかった。


Youtubeで講演の動画を見つけたので、少し聞いてみたけど、私の英語力では半分も分からないので、おとなしく著作を読むことにする。


この人の著作をもう一冊持っていて、三年ほど前に読んだ。

面白い本だったと記憶しているけれど、内容はほぼ忘却している。そのうちまた読み直そう。

「あなたの知らない脳 意識は傍観者である」


重い知的障害を伴うASD(Autism Spectrum Disorder 自閉スペクトラム症)の息子の影響で、脳神経科学の一般書を書店で見かけると、つい買い込んでナナメ読みする習癖がある。

最初のころは、息子の療育に有用な情報を探すために買いあさっていたのだけれども、そのうちに、脳そのものの面白さに魅了されて、半端な知識をあれこれと集めながら、息子の発達の問題について考えるのが、半ば趣味のようになってしまった。

上の子ネコの実験の話を読んで、幼児期の息子が、自分の左側にあるものを手に取ることがうまくできなかったことを思い出した。ひょっとしたら、左側が見えていないのではないかと思うほど、左側にあるものを無視するのだ。


息子は身体機能には異常がないと言われていたけれども、どういうわけか遊びで手を使うことが少なくて、全身的な行動のパターンも、同年齢の発達障害の子どもたちと比べても、だいぶ単調だった。


そのままではまずいと思って、さまざまな遊具を自宅のなかに用意するなどして、とにかく体を動かすようにしていたら、その影響があったのかどうかは分からないけれども、視覚についての問題は少しづつ薄れていった。


その後、学校に上がって校庭を駆け回るようになってからは、左側のものを無視するというようなことは、ほぼなくなった。


22歳になった息子は、家のなかのどこにお菓子を隠しても即座に発見できるほど、視覚に長けた大人になった。


縦縞の檻の悪夢を踏破する子ネコに続け人のおさなご


以下は蛇足。

引用文中の「子ネコ」という、漢字+カタカナ表記が気になった。

私自身は「子猫」あるいは「子ねこ」と書くことが多く、「子ネコ」と書くことはない。

google検索で表記別の件数を調べてみたら、次のような結果だった。



子ネコ  約 85,700,000 件

子ねこ  約 72,400,000 件

子猫  約 44,300,000  件

こねこ   約 3,420,000 件

コネコ  約 305,000 件

コ猫   約 23,700 件


「子ネコ」がトップ、「子ねこ」が次点、「子猫」はそれらの半分ほど。

ちょっと意外な結果だった。心にとめておこう。




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