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ポイ活と減税
気づいたら身の回りのあらゆる決済がキャッシュレスになっていてふと思ったのだが、
このポイント還元の規模は、実質的にトータル1-2%の減税効果をもっているのではないか。
クレカやQR決済、ポイントカードで1%ほどキャッシュバックされ、またセブンイレブンに至っては三井住友のクレカ決済でなんと10%も還元される…というような消費環境において、いわゆる消費税の主観的感覚というのは、10%ではなく正味9%、場合によっては8%ぐらいの「歩留まり」になっているのではないか。
消費税の税収は令和6年で約24兆円なのだが、一方で、「ポイ活市場」の規模について調べてみると、およそ2兆6千億にも上るという。これは10%消費税の約1割に相当するから、正味の消費税は9%。先ほどの実感とも合致する。
消費税には逆進性があると言われ、低所得者ほどその税負担を感じやすい。累進的に課税される所得税とは対照的だ。
だが同時に、国の税制とは別に、私企業によって展開されるポイント経済圏が乱立し、系列のサービスを選好的に利用してある種の「ロイヤリティ」を示すことで、1%程度の減税再分配を享受できる…という状況がうっすら成立しているようでもある。
税金や社会保険料で家計が苦しい。そんなとき手っ取り早く取り組みやすいのがこのポイ活であり、経済的不安の大きい層が積極的に参加することで、消費税の逆進性が少しでも緩和されている…ということもあるのかもしれない。
企業にそんな再分配的な機能を任せるなんてけしからん、減税にせよ無駄の削減にせよ、本来は国が着手すべき問題のはずだ。こういう声もあるだろう。
しかし、当為ではなく事実のレベルで考察すると、また別の風景が見えてくる。
ポイント経済圏を展開している巨大テック企業(ソフトバンク、楽天、三井住友など)は、同時にグローバル企業であり、法人税の低い国に子会社を置いて節税したり、グループやホールディングスを組んで上手いこと課税を回避したりしている。企業の利益からいかに税金をとるかということは国も万策を尽くして取り組んでいるが、基本的にはいたちごっこである。企業が利益率を上げようと節税に取り組むのはそれはそれでリーズナブルなことであり、良い悪いは別として、完全にそれを食い止めることはできない。
完全に食い止めることはできない、という前提で考えると、ここである種の妥協案が浮上してくる。
すなわち、国からすれば、法人税などグレーな部分はある程度見逃す代わりに、ポイント還元などを通じて公益に貢献してくださいよということになるし、また企業からすれば、国の代わりにボクたちが再分配やるんで、課税の手をちょっと緩めてくださいよという「交渉」ができるというわけだ。
ポイント経済圏を通じて国民(消費者)に還元しているんだから、法人税の安い国に移転したり、子会社からの非課税配当で節税したりということを、あんまり厳しく問い詰めないでくださいよという妥協的な構図が(意図や自覚の有無に関わらず)、しれっと出来上がるのだ。
そもそも税を取るのは広く社会に再分配するためである。目的は徴税そのものではなく、あくまで再分配・還元にある。その目的を果たすためなら手段は必ずしも問わない…ということなら、法人税強化の代わりに私企業のポイント経済圏でもいいわけだ。
ポイ活の市場規模は、前述のように2兆6千億にも達するのであり、これは正味消費税1%減税に相当する。しかも、家計に不安を持つ層が選択的にポイ活に積極的になるのだから、税の逆進性も緩和され、再分配が効きやすくなる。国の税制とは別に、結果として、国民への再分配という目的が果たされる格好になるわけである。
これは実はあらゆる「ステークホルダー」にとって絶妙に居心地がいいものかもしれない。
企業は節税を実現しつつ商圏を拡大できて、さらにポイント還元によって社会的信用(一種のCSR)も得られる。国民も自由に経済圏を選びながら、実質的な減税の効果を得る。国も、反対や抵抗の多い増税に頼ることなく、富の再分配を間接的に実現することができる。
「ポイ活と減税」というテーマは、まさに近江商人の三方よしの理論を地で行くものと言えば言い過ぎだろうか。
まあ、たかが1%程度ではあるんですけど。