馬花 118 母と祖母とリンゴ 2年4組
「何やってるんだ、お前」
「あっ、ヤベッ」
「何してるんだ」
「ヨガだよ、ヨガ」
「いい歳した熊が何やってんだ」
「そりゃあ、むくみや冷えの解消、免疫力アップその他もろもろ」
「ふーん、なんでそんなの知ってるんだ」
「前に人間が置いてった雑誌に書いてあったんだ」
「そうか、ハミルなんで字が読める」
「教えてもらった」
「誰に」
「ばあちゃんだ、全部ばあちゃんだ」
「ばあちゃん?人間か」
「そうだ、俺は・・・」
熊は単独行動の動物だ
「1歳と半年くらいだった。俺はママに連れられてリンゴのなる場所にいた。林檎の木は豊富に果実を垂らしていて、丁度今くらいの秋の深まる頃だった、りんごは旬を迎えていたしうまかった。俺は夢中で食べたさ。20個くらい食べたかな。ママが気になって、ママもたくさん食べたかなって、振り向いたら、振り向いたらさ・・」
「いなくなってたんだな」
「はい、そう・・それから俺は1人ぼっちになった」
「そうか」
熊は群れない
行動を共にするのは母が子を育てる時だけ
子熊は子育てが終わると母熊に捨てられる
オス熊は他の熊とコミュニケーションをとるのは交尾か闘い
オスは子連れのメスを見つけた時は、まず、子熊を殺す
子連れのメス熊は発情しない、発情させるために子を殺して交尾する
メスは子連れの時は、オスに出くわさないように留意する
子熊を捨てたあとはメスも1人になる
子ができれば育てて捨てる、また、育てて捨てる、育てて捨てる、オスに出くわせば子を殺されて、犯されて、子を生んで、また捨てる
「俺は熊嫌いのクマだ」
「あゝ、言ってたな。俺も人間嫌いのヒトだ」
「この森でばあちゃんに出会った。人間のばあちゃんだ。もう、80幾年とか言ってたかな」
「うん、それで」
「ばあちゃんは、俺を見てうっすらと涙を浮かべた。俺に殺されると思ったんだろう。そのあと小さく微笑んだ。どうぞ、と言われたような気がした」
「うん」
「俺も泣いた。俺は殺すつもりなんてなかったのに・・・2人で泣いたんだ」
「・・・」
森の家屋根に雨音が響き出した
「ばあちゃんと俺は一緒に暮らし始めたんだ。この家ってのを教えてくれたのもばあちゃんだし、人間の言葉を俺に教えてくれたし、人間の文化も。俺はばあちゃんと接していて人間が好きになった」
「そうか、そんなことがあったのか」
「1年半でばあちゃんは・・また俺は捨てられた」
「そうか。どうした、そのあれは」
「できるだけ沢山の花々を集めた。一緒に燃やしたよ。ばあちゃんが死ぬ前に俺に一輪だけ花を添えておくれって言ったんだ」
「そうか」
「あの、アップルパイうまかったな」
「ん?アップルパイ?」
「ばあちゃんが作ってくれたんだ」
「リンゴあるか?」
「1つくらいなら、確か」
ちょっと待ってろ
「できたぞ、ハミル」
「あっ、ばあちゃん・・・ナオトちょっと待ってろ」
「ん?」
「ベリーだ、ばあちゃんはこうしてた」
「そうか」
「食おう」
「うん」
ばあちゃん
いただきます