20年前の私へ -オメガの時計ー
20年前の私へ
あなたは友人のお父さんの車で送ってもらい初めての海外旅行に出発するために空港にいますね。行き先はアメリカ。ロサンゼルスのディズニーランドです。
初めての国際空港、初めての免税店。国内ではお店に入ることすら躊躇するブランドの商品が目の前にずらっと並んでいます。安くなってるから何か買えるかもと浮かれたあなたは免税店に入ります。安くても高級ブランドです。学生が気軽に買えるような額ではありません。身分不相応の商品ばかりです。あなたはそこで少しがっかりしながら、アメリカで良い買い物ができると自分に言い聞かせて我慢します。でもそこであなたは運命の出会いをします。真っ赤なベルトのオメガの時計です。
あなたは迷います。だってまだ旅行前です。飛び立ってすらいません。いいなと思って我慢した財布の何倍もする時計。もしかしたら海外で同じ時計をもっと安く売っているのかもしれない。あなたは悩みます。フライト時刻がどんどん迫ってきます。公衆電話を探して母親にも電話します。当然やめなさいと止められます。なぜならあなたはいつも時計を無くすから。高校入学祝いの時計、従姉妹からもらった時計、全部全部なくしましたよね。母の心配は最もです。
でもあなたは決断します。12万8千円の時計の購入を。現金は足りません。だから初めての高額カード支払いです。内心の震えを笑顔で誤魔化してカードを渡し人生初の高級時計を手に入れます。そのあとの旅行は気が気でなかったですよね。盗まれないかと心配して常に袋を持ち歩き、記念写真はいつも時計の入った袋を抱きしめて持って行かれないかと心配してましたよね。時計はあなたの初の海外旅行を一緒に旅しましたよ。そしてあなたと一緒に無事に日本に帰ってきました。
20年前の私へ、あなたが買う時計はあなたのその後の人生を一緒に歩き続けています。安心してね。20年経っても時計は動き続けて、あなたの手首を飾っています。