納得のいかない反対質問
この度、あまり納得のいかないことがあったので、後学のため色々整理したい。
前提となる事実は以下のとおりである。
当職が弁護人を務める否認の公判事件における被告人質問で、検察官が「***」について誘導尋問形式の反対質問を行った。
その「***」に関する証拠は、弁護人に対して一切開示されていなかった。
弁護人は、「***」に関する質問は未開示証拠に基づく質問であることを理由として異議を申し立てた。
裁判所は、検察官に対して、開示の有無を尋ねた。
検察官は、開示していないことを認めた。
裁判所は、少なくとも15秒くらい、机の上で何かペラペラめくりながら黙り続け、その後、「異議には理由がないと思いますが、必ず開示してくださいよ。」と述べた。
以上の前提事実に基づき検討する。
裁判所から「異議を棄却する。」と言われていないので、当職の異議がどうなったのか解らないが、多分棄却されているのだろう。そして公判調書には、しれっと「異議を棄却する。」と記載されるのであろう。
さて、今回のような検察官の反対質問は適法なのだろうか。裁判官がすぐ異議に対する判断をしなかったように、珍しい例であるように思われ、このような事態に直面することは多くないのではないかと思うが、念には念を入れて次の場合に備えて検討をする必要がある。
以下のような主張が可能なように思われる。
1 誤導の疑いがある質問
誤導の質問は許されない。「***」について弁護人に開示されていないし、もちろん証拠として取調べがされていない。そうすると「***」について弁護人には解らないから、「誤導質問だ」と断言形式の異議は不可能だが、「誤導質問の疑いがある」との異議は出せるし、「前提不存在だ。」との異議も出せるであろう。なぜなら「***」についての誘導尋問をするための前提となる「***」について何も取調べがされていないからである。
ただ今回の事例でいうと、これでは不十分だろう。前提不存在や誤導の疑いがあるなら、「***」の前提に関する質問を積み上げた上でもう一度同じ質問をされてしまう。
やはり未開示の証拠に基づいて質問すること自体が問題なのだといえなければなるまい。
2 関係がない事項であること
裁判長は、訴訟関係人のする尋問が既にした尋問と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる(刑事訴訟法295条)。
今回の件でいうと「***」は関係のない事項であるから質問が許されないと主張することが考えられる。理屈的には、もし「***」が事件と関係あるならば、検察官は、いきなり被告人への反対質問で「***」について聞くのではなく、もっと前に「***」に関する証拠調べ請求をしているはずであるが、これをしていないのは「***」が事件と関係ないからに他ならず被告人質問でも質問し得ないといい得るだろう。
もっとも、これは屁理屈感が凄く、すんなり関連性を認められそうな気がする。
これも未開示証拠に基づく尋問がそもそも不当なのだと正面を切って主張していないことが原因であろう。
3 防御権侵害にあたり不当であること
未開示証拠に基づく尋問がそもそも不当だというならやはり防御権侵害だとはっきりいうことだろう。
捜査段階ならともかく公判段階では被告人も当事者として扱われ、検察官と対等な立場で攻撃防御の機会を与えられるべきというのが建前である。しかるに未開示証拠に基づき質問をすることは、この建前に反するであろう。
刑事訴訟規則上、尋問事項書についての定めがある(刑事訴訟規則106条)。その趣旨は、色々あるだろうが、そのうちの一つには対立当事者側に反対尋問の準備の機会を与えるためである。現に検察官だって、被告人質問の前に被告人の弁解内容を開示するよう求めてくる。このように刑事訴訟規則上も対立当事者の準備のための定めが設けられており、準備の権利は尊重されなければなるまい。
さらに刑事訴訟規則上、書面を示すなどする場合には、あらかじめ相手方にその書面を開示している必要がある(刑事訴訟規則199条の10〜199条の12)。したがって、本件の被告人が「***」について「記憶がありません」とか「見ないと解りません」などと述べた場合、検察官は、「***」に関する証拠を示しながら尋問せざるを得ないだろうが、弁護人に開示していないから示すことができず、そこで質問を終えざるを得ない。このように「***」に関する証拠を示すことができない場合において、示すのはダメだが示すことなく聞くだけならOKなどということがあるかというとそんなことはないだろう。脱法行為に他ならない。
このように既に公判の段階になっている状況において、証拠請求もされておらず、証拠開示もされていない証拠に基づいて反対質問をすることは、武器対等に反するし、弁護人による証拠検討、つまり防御の機会が与えられていない点で防御権侵害に当たる質問であるから、刑事訴訟法295条1項にいう相当でない質問に当たると主張することになるだろうか。
ひとまずの結論としてはこんなところだと思う。未開示証拠による尋問が今後も行われる可能性はそれほど多くないと思われるが、今後は以上のような理屈で異議を唱えることになると思う。
さて、本件では異議が棄却された(ような)ので、「***」に関する反対質問が行われてしまったが、ただそれによって被告人の弁解が揺らいだかというと全然揺らいでいないし、不利になったわけでもないように思われる。
ただ、油断はできない。世の中には、どれだけ無罪にすべき事情があっても無理矢理有罪判決を書く裁判官が一定数いる。
例えば溝田泰之裁判官である。溝田泰之裁判官は、被告人のアリバイを裏付けるタイムカードの正確性を誰も争っていないのに、これを無理矢理否定して被告人のアリバイを否定し、有罪判決を書いた結果、名古屋高裁にひっくり返されたというトンデモ裁判官である。流石にこれほどまでに酷い裁判官はそういないだろうが、溝田泰之裁判官のように意地でも有罪判決を書く、無罪なんて書いたら死んでしまうかの如く無理矢理有罪判決を書く裁判官もいるので、今回の納得のいかない反対質問の影響を慎重に見ないといけない。
なお、以下のリンクに溝田泰之裁判官のトンデモぶりを詳細に書いているので、こちらもチェックされたい。https://note.com/hamhamohamu/n/n77cf5c6be381
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