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薄闇 序章

序章でない始まり

 はい、軍事秘書官のリリ厶・アンティです。
 今の上官が体験した記録をこれから書いていきます。
 何やら上官が今の地位につけたのは、この案件を片付けたからですね。
 その件が終わったころに自分、ここに着任となったのです。

 今から、一月ほど前に、それは起きました。
 ラナーグ公国とかいう、人間の国の西に森がありまして、薄闇の森とかなんとか。
 人間の国の領域は、そこら辺で一端終わって、広くはないけど、私と同じ者たちが生活していたところがあったのです。それでですね、そこの、まあ、トップがですね、
 いろいろやらかしたとこから、始まるんです。
 


聖女ナルディア

序章:崩れゆく境界

 陽の光が届かぬ森、「薄闇の森」は、深い霧 に包まれていた。

 風は不気味に静まり返り、木々の間から漏 れる光は血のように赤い。遠くで何かが呻く音が聞こえ、地面には無数の裂け目が走 っている。

 ナルディアは祈るように聖杖を握りしめなが ら、足を進めていた。彼女の後ろには若き女性騎士、フリーデが慎重に周囲を警戒し ている。
 彼女らは、ラナーグ公国第二公女と、その護衛。
この薄闇の森の調査にきたところ、襲撃を受けて他の部隊と離れ離れになった。
 
 この薄闇の森は、ある種族との境界の役目をこれまで果たしていた。
 だが、この森を越えてその種族が、付近の街や村に襲撃をかけ、また、薄闇の森自体も不気味な変化の報告が相次いでいた。

 〘魔族、そう呼ばれる種族とは、薄闇の森を境にして不可侵、そうした取り決めがあったのに〙
 ナルディアは、心のなかでそっと息をつく。
あまりにもいきなりだった。

 フリーデは鍛え抜かれた甲冑をまとい、その端正な顔立ちは疲労の色を浮かべながらも使命を果たす決意に満ちていた。

「ここまで荒れ果てているとは......この森は公国の防壁そのものだったのに。」
 フリーデが低く呟く。

 ナルディアは少しだけ振り返り、優しい微笑みを浮かべた。

「私たちでできる限り探ってみましょう。まだ希望はあるわ。」

はじめての遭遇 レオル

 彼女たちが進む先に、影が立ちはだかった。長身の男、レオルだった。闇のような髪が風になびき、その瞳は金色に 輝いている。

「止まれ、人間の聖女よ」

フリーデは剣を抜き、レオルに向かって叫ん だ。

「立ちはだかるなら、討つのみだ!」

ナルディアは慌てて手を伸ばし、フリーデを 制止する。

 「待って。彼の気配.......これまでの魔族とは違う。
戦意が感じられない?」

 レオルは小さく笑いながら、闇の中からさらに一歩踏み出した。

「その通りだ、聖女。俺はお前たちを狙うつもりはない。一つだけ取引がしたいだけだ」

 聖女とは、ナルディア公女の二つ名、癒しなどの神聖術を使いこなすことから由来したものだ。

 ナルディアは警戒をしながらも問い返す。
「取引?」

 「俺の目的はザナグルを倒すことだ。それに協力するなら、お前たちの命を守ろう」

ザナグルの計画

 レオルは彼女たちを木の陰へ導き、話を続けた。

「ザナグルーーかつて俺が仕えていた魔族の王だ。奴はただの破壊者ではない。この世界そのものを分解し、次元を越えるためのエネルギー源にしようとしている」

 フリーデは眉をひそめた。
 この話も、いきなりといえば、いきなりの話だ。信じる信じないの前に、理解が追いつかない。

「そんなことが可能なのか?」

 レオルは短くうなずく。

「可能だ。そしてその準備はすでに整いつつある。この森がこうなったのも、その余波だ」

 ナルディアは胸の奥に冷たいものを感じながらも、毅然と問いかける。

「もし、あなたの言うことが真実ならば、 あなたは何のために戦うの?」

その問いに、レオルの目が一瞬だけ揺れた。

「...... かつて俺が守ると誓った者たちがい た。その全てをザナグルに奪われた。今はただ、奴に対する復讐のために動いているだけだ」


 第一章:薄闇の契約

 薄闇の森を抜けた先に広がる荒野は、まるで世界が崩壊の兆しを示しているようだった。
 大地は黒く焼け焦げ、瘴気のような煙が空へと漂う。陽光は霞み、空は赤黒くに染まっている。
ナルディアとフリーデ、そしてレオルの小さな一行は、異様な静けさの中で足を止めた。

「これは……ザナグルの影響がここまで環境を変化させるなんて……」
 ナルディアが口を開くと、フリーデが剣の柄を握りしめたまま応じた。
「公国の防衛線はどうなっているんでしょうか? もし奴が直接攻め込んでくるようなことがあれば、持ち堪えるのは難しいはず」

「防衛線など意味がない」
レオルが冷たい声で遮る。
「ザナグルは兵をほとんど使わない。奴はこの大地そのものを武器に変えてしまう」
 「?どういうことだ?」
 フリーデが、よくわからないといった顔をする。
 「そのうちわかる」

 その言葉にフリーデが剣の柄をいらただしげに叩き、ナルディアは小さく眉をひそめた。

 「では、私たちだけでなんとしても止めるしかないわ」
決然としたナルディアの声に、レオルは苦笑を浮かべる。

「無謀にもほどがあるな、聖女」

 その時、突如として風が変わった。霧のような影が彼らの周囲に集まり、ひとつの形を成していく。それはしなやかで威圧感のある女性の姿だった。

「ようこそ、『薄闇の領域』へ」


レーネの登場

 黒いローブに包まれた女性、レーネがそこに立っていた。その瞳は深い紅色に輝き、彼女の周囲に漂う空気は、また違う雰囲気を纏っている。
 優しげな顔という、第一印象を受けるものが多いだろうに、その雰囲気はどこか重さを感じさせた。

 「ザナグルの命を受けて……と言いたいところだが、あの愚かな主君には飽き飽きしている」
 彼女の声は柔らかく、それでいて心を鋭く抉るような響きを持っている。

 ナルディアは一瞬身構えたが、レオルが一歩前に出た。
「レーネ。貴様がここに現れるということは、俺達に話があるのだろう?」

レーネは微笑んだ。
「さすがね、レオル。私がただの使者としてここに来たわけではないこと、理解しているでしょう。」


レーネの提案

 レーネは手を広げ、大地に魔法陣を描く。瞬間、周囲の空間が歪み、幻影が現れた。
 
 ザナグルの要塞城、そこから巨大な植物の根のようなものが四方へ伸びてゆく。その伸びゆく先は、薄闇の森、そしてラナーグ公国へ。行く先のものを、全て光の粒に分解して吸収してゆく。

「これがザナグルの計画の一端。彼はこの世界をエネルギーに変え、次元を越える力を手に入れようとしている。そして、それを阻止するには……私の助力が必要」

「何を考えている?」
レオルの鋭い問いに、レーネはその紅い瞳を輝かせた。

 「ザナグルが倒れれば、当然次の支配者が必要になる。私がこの世界を統治するために、彼を排除する協力をしてあげてもいい、というだけの話よ」

フリーデが剣を振りかざし、怒声を上げた。
「結局、私たちを利用しようとしているだけではないか!」

「その通り。」
レーネはあっけらかんと言い放つ。
「だが、私が助けなければあなたたちに勝ち目はない。私の魔力があれば、ザナグルの力を封じる手段を見つけられるかもしれないのだから」

 ナルディアはその言葉を聞き、慎重に応じた。
「もしあなたが協力してくれるというのなら、条件がある」

レーネの微笑みがさらに深まる。
「聖女様の条件とは?」

「ザナグルが倒れた後、公国に手を出さないと誓って」

その瞬間、レーネの瞳に冷たい光が宿った。
「誓いを求めるとは滑稽ね。自分の置かれた状況が分かっているのやら……けれど、面白い。では、協力の証にあなたたちに贈り物をしましょう」


 試験

 レーネが手をかざすと、空間に異変が起こり、巨大な影が現れた。それは獰猛な魔獣であり、ザナグルの配下が放った追手だった。

「これを倒せれば、あなたたちに協力してあげるわ」

 レーネの言葉に、フリーデは剣を構え、ナルディアも戦闘の準備を整えた。
 「とんだ贈り物だ」
 剣の柄に、フリーデが手を伸ばす。
 だが、レオルが彼女たちを制止する。

「いや、俺がやる。これは俺がどれほどかを見るためのものだ」

 彼の身体が変わる。腕が変形して巨大な刃と化す。次の瞬間、彼の剣は獣の喉元まで1つの鋭い線を描き、激しい戦いを繰り広げた。

 レーネはその様子を冷静に見つめながら、密かに呟いた。
「やはり、ザナグルに反逆する者としては最低限のものはある。だが、その力がどこまで通用するのか……」


契約

 激戦の末、魔獣は倒れた。レーネは満足そうに拍手をしながら近づく。

「見事ね。では約束通り、協力しましょう。ただし、あなたたちが負けたとき、そのあとの公国とのことは何も保証しない」

 レオルは冷ややかな目で彼女を見据えたが、ナルディアが頷いた。

「その時は、その時よ。けれど、私たちは必ず勝ちます」

 レーネの微笑みが深まり、彼女は一行に背を向けて歩き出す。
「では、私たちも次の段階に進みましょう。ザナグルを倒すための行動を」



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