見出し画像

夜行列車カレドニアンスリーパーに乗って「夜行列車の意味」を再確認する


①前書き

2024年2月27日。イギリスとドイツへの出張のついでに、ロンドン〜スコットランド間を走っている夜行列車Caledonian Sleeper (カレドニアンスリーパー)に乗った。

ロンドンのユーストン駅で停車中のカレドニアンスリーパー。上野駅13番線を思い出す。

趣味と言えるようなレベルではないが、鉄道に乗るのは好きな方だと思う。無作為に100人集めてアンケートをとったら、13人目くらいには入るかもしれない。

客車の外観。乗車する動画は下記YouTubeのリンクにあります。

若い頃は何度か夜行列車に乗った。最初は大学2年、JRのワイド周遊券(学割)で北海道に行ったときで、急行八甲田急行利尻と二晩連続車内泊をして、宿や友人宅を挟んで、また急行まりも急行八甲田で二晩連続車内泊をして帰ってきた。8泊中4泊が座席車で、体力があったものだと思う。他にも教育実習で故郷に向かう際に急行銀河を利用したり、就職祝いに18きっぷを使って快速ミッドナイト快速ムーンライトのハシゴを含む1泊5日の旅をしたり、奮発して寝台特急北斗星に乗ったりもした。

その後、国内の夜行列車が衰退し乗車する機会が激減したが、フリーランス後は海外に行くことが増え、2012年にバーゼル〜ベルリン間のユーロナイト - ジリウス号の座席車、2015年にケルン〜ポズナン間のユーロナイト - 客車三段個室(!)のヤン・キープラ号に乗ることができた。と言ってもその二回だけ。

「客車三段個室」を連結していたヤン・キープラ号。2015年撮影。そのうち内部も紹介したい。

②カレドニアンスリーパーをサッと紹介

カレドニアンスリーパーはイギリスを縦断する夜行列車で、ロンドンからスコットランドの5つの都市を結んでいる。最下段に「⑤カレドニアンスリーパーをザッと大紹介」があるので、寝台やラウンジ、食事、アメニティ、駅、雰囲気など、素人の切り口でよければ是非ご覧ください。

③夜行列車のグッとくるところ

夜行列車のグッとくるところは、やはり「目的地に時間をかけて近づいていくことでその地への理解が深まる感じがする」ではないだろうか。もし先述の「夜行急行×4」の北海道の旅が飛行機での往復だったとしたら(「赤羽駅の通勤客を見て背徳感を味わったり、大宮、福島、仙台、盛岡…やっと青森、やっと函館、やっと札幌、長かった!…って、まだこれから更に北に向かう…!」のシークエンスを経験していなかったら)、自分は北海道に移住していなかった気がしてならない。欧州も色々な都市に行ったが、ヤン・キープラ号に乗車した後のヴロツワフやルブリンは特別想い出に残った。

旅情を誘うユーストン駅の専用エントランス。

しかし歳をとると「夜行とかしんどいな」「時間ないから飛行機で」などとすぐ考えてしまう。コンサートの参加のついでだと旅程が長くなってしまいがちだし、出発ギリギリまで仕事に追われ渡航準備だけで精一杯になることも多い。

しかもこの時は、ロンドンで中編成オーケストラコンサート「A New World」に参加した後、国際特急列車Eurostarで英仏海峡トンネルをくぐってケルンに行ってピアノコンサート「Benyamin Nuss plays Masashi Hamauzu」に出演。そこから飛行機British Airwaysでまたロンドン戻り、カレドニアンスリーパーでグラスゴー、さらに特急でエディンバラ。そしてBritish Airwaysで三度ロンドン…で帰国、というかなり行ったり来たりの旅程になった。

今年は登壇を繰り返した

しかしカレドニアンスリーパーにはそれをさせるだけの魅力があった。また綿密に旅行計画を立てると、あちこち回っても疲れもあまり感じないし、「やっぱり家が一番」みたいなことも全然起きない。エディンバラ〜ロンドン間のフライトをエンブラエル190(という機種の飛行機)に乗るために敢えて「ヒースローではなくロンドンシティ空港に」などと旅行計画は強化され、楽しみもどんどん広がっていった。そうさせたのもこの列車だったと思う。

④カレドニアンスリーパーの強力な波及効果

今回も「時間をかけて訪れた」グラスゴーやエディンバラは、近年の海外の旅の中でも特別インパクトのある訪問地となった。あまりにエエ感じだったので「また夜行列車に乗りたい!」と勢いづき…。「夏(8月)のニューヨークとロッテルダム出張の間に数日、空白の時間がある。これは有意義に使いたい。どちらかの都市にだらだら滞在するのでは無く、面白い夜行列車に乗れる国を狙おう」と作戦を練ることに。

その後その計画は実現し、イタリアで「寝台列車ごとフェリーに乗る」(当noteにて近日公開)が出来た。

カレドニアンスリーパーという夜行列車の長旅が私に与えた影響は大きく、飲生活まで一変した。発車前の食堂車でスコットランド名物のハギスとエディンバラ・ジンを所望したのだが、その日を境に私は「毎晩のように」ジンを飲む人間に変貌した。それまでアルコールは一月に一度飲むか飲まないかというくらいだったのに。

2024年2月27日22時59分、その後の生活を一変させる瞬間

翌日エディンバラのレストランで飲み、その翌日はそれまで酷く無縁だったパブというものの敷居を進んで跨ぎ、またその翌日ロンドンに戻ってきてからもかのジェイミー・オリヴァーの店でジンを飲んだ。そしてエディンバラ・ジンを土産に買って帰国してからも毎日のように飲り、その後何度も国内で注文し、また多種多様なジンと飲み比べもし、オランダ出張でもジュネヴァという種類のヤツを買い、秋に再びロンドンに訪れた際も日本で手に入らないエディンバラ・ジンを3種買って帰った。

左からエディンバラ、エディンバラ、ロンドン、7ヶ月後の自宅

2024年12月26日現在、10ヶ月経ってもまだ飲むペースが落ちてないので、この変革はたぶん本物だと思う。「スコットランドではこんなものが飲み食いできますよ!」と、食堂車で時間をかけて乗客にプレゼンしながら走るカレドニアンスリーパーは、スコットランドの敏腕観光大使だったのかもしれない。帰国後もエディンバラに貢いでいる人間が士幌町にいる。

次回は「寝台列車ごとフェリーに乗る」を公開します。

⑤カレドニアンスリーパーをザッと大紹介

ここからは興味のある方向けかと思います。個人的な印象を思いついた項目から殴り書きしていきます。

豪華:近年の欧州はシンプルな今どきの感じの寝台列車が多くなったようだが、カレドニアンスリーパーは定時運行の夜行列車の中ではトップクラスの豪華さだと思われる。個室寝台や食堂車、ラウンジ、スコットランドの食やアメニティが売りで、リニューアルしてまだ日が浅くどの車両もキレイ。欧州列車あるあるかもしれないが、同列車を画像検索してもなかなかコレといったのが出てこない。ヘッドマークがなく、客車の側面を撮ることが多くなってしまうから?

これこのように。

客車:寝台車・座席車の内容はこんな感じ↓。他にクラブカー(食堂車)がある

Caledonian Double En-suite:個室。ダブルベッド。洗面台・トイレ・シャワー付。駅ラウンジ利用可。クラブカー(食堂車)の優先利用可。
Club En-suite:個室。二段ベッド。洗面台・トイレ・シャワー付。駅ラウンジ利用可。クラブカー優先利用可。
Classic room:個室。二段ベッド。洗面台付。
Seated Coach:座席車。
Accessible Double room:バリアフリーダブルルーム。トイレは共用。
Accessible Twin room:バリアフリーツインルーム。トイレは共用。

車内のイメージが伝わりにくいので乗車から個室の入り口までを10秒動画にした。

↑YouTubeへのリンクです

Caledonian Double En-suiteの室内:ダブルベッドで開放感があるが、床のスペースは普通のよくある個室寝台とそんなには変わらない。二段寝台にロマンを感じる者であれば、ベッド仕様以外は全く同サービスのClub En-suiteでも全然いいかも。アメニティも充実しており、シャワージェルセットやチョコレートはスコットランドのブランド。

左が廊下へのドア(全面鏡)。壁には調光、調温のパネルや小物置き、反対側には洗面台や電源も。ベッドの上にあるのはチョコレートと朝食メニューの注文シート。
石鹸の香りが強く、未使用のままアロマキャンドル的に作業場に置いて使っている。

トイレ&シャワールームの使用タイミング:Double En-suiteとClub En-suiteにはトイレとシャワーがついているが、シャワーは便座の上の大きな蓋を閉めて使うので、二名がそれぞれの用途で使用することを考えるとタイミングが大きな問題になってくる。

豊富なクラブカーのメニュー:ハギスやスコッチなどスコットランド産のものを取りそろえている。Double En-suiteとClub En-suiteはルームサービスも出来るが、狭い部屋よりクラブカーの広いテーブルの方が…運んでくる従業員的にもいいはずである。

食堂車。従業員さんが優雅にノートPCで仕事していた。そう、そうではなくては。
朝食からスコットランド感が強くて嬉しい。外はまだ暗い。

格安の座席車:飛行機と同じく日によって価格が違うが、安いときは50ポンド台。これは結構魅力的。シートも良さげ。クラブカーは利用できないが、前菜、メイン、デザートなど、下手な航空会社のビジネスクラスより良さそうなものが別料金で食べられるらしい(私はビジネスクラスでの飯体験は片手で数えるくらいしかないので違ってたらすみません。ただクラブカーのメニューの一部を提供しているようなので、かなりちゃんとしている?やはり違ってたらすみません)。

ラウンジ:ユーストン駅のラウンジは竣工して日が浅くキレイだった。クラブカーに準じた食事も可能。飲み物や菓子もあり、空港にある軽めのラウンジといった感じ。Double En-suite、Club En-suiteの乗客が利用できるが、「どうせなら風情のあるクラブカーで食おうぜ」「メニューの量も多いし」ってなると、ここでは「待つだけ」になりがちか。窓がないので駅ホームの雰囲気を浸る感じでもない。

出来たてホヤホヤのラウンジの入り口
手前にはドリンクカウンター、奥にはシングルソファもある。

「長距離列車の旅」を楽しむには?おすすめの編成:ユーストン→グラスゴー&エディンバラ間は約7時間45分。「食堂車も付いている豪華夜行列車」ということを考えると、結構短いかもしれない。

ユーストン→グラスゴー&エディンバラのスケジュール
 20:45 ラウンジオープン
 22:30 乗車・クラブカー利用開始
 23:45 ユーストン発
 07:30 グラスゴー&エディンバラ(それぞれ途中で編成を切り離し)
 08:00 車内退出

Double En-suite、Club En-suiteの乗客であれば、出発3時間前にはラウンジ、出発1時間15分前から乗車してクラブカーを利用できる。また終点到着後も室内に30分滞在できるので、全体としては11時間以上カレドニアンスリーパーの空間に浸れるわけだが…(座席車利用者はいずれも不可)。しかしラウンジも先述の感じだし、また終点到着後の室内滞在というのは(フェリーなんかでもよくあるが)結構落ち着けるものでなく、さらに車内の電源が落とされるからかトイレの水が流れなくなったりも。

ユーストンのラウンジのドリンクなど。ここで胃を膨らませてしまっては…。

一方、スコットランド北部方面行きの列車はユーストン21:15発で、途中分離していき、アバディーン7:50着、インヴァネス8:45着、フォート・ウィリアム10:00着で、乗車時間はグラスゴーエディンバラ行きより3〜5時間ほど長い。

またラウンジの利用時間の差も大きく、ユーストンのラウンジは、グラスゴー&エディンバラ行きの客は20:45からの利用ということで、それまでの時間、晩メシの時間帯をどう過ごすかという問題もある。クラブカーで食事をすることを考えると22:30以降の遅い時間帯とは言えあまり胃に詰め込みたくないし、カフェとかで茶でもシバいて過ごして繋ぐのもアリだが「どうせこの後ラウンジでシバけるんだからそれもなんかなぁ…」などと考えてしまうところ(私は)。しかしユーストン駅の待合所は(常に?)大混雑で、ベンチとかも見当たらない。ということで私は見事に駅二階のカフェで出費した。

ロンドン ユーストン駅内部。大勢の利用客が突っ立ったまま時間を潰している。
ユーストン駅前も人が多かった。屋外に電光案内板がある。

一方、スコットラン北部方面行きは18:00からラウンジが利用可能で、乗車は20:30から。クラブカーの利用も「遅めの夕食」で済む時間帯である。また終着のアバディーン、インヴァネス、フォート・ウィリアムにもそれぞれラウンジが用意されており、到着後もゆっくり過ごすことも出来る。グラスゴー、エディンバラ行きは遅くとも8:00には列車から退出しなければならず、朝からカフェに寄って時間を潰したり、また出費しがちになる。

「長距離列車の旅」を楽しむなら、ただ長いだけでなく、旅の始まりと終わりに余裕がある北部方面行きのDouble En-suite、Club En-suiteをおすすめしたい。多少価格は上がるが、距離と時間を考えても優位性があると思われる。

そう言いながら、朝早くからお目当てのグラスゴーのドーナツ屋でドーナツを堪能。グラスゴー大学もめちゃくちゃ楽しめた。あちこち回りたい派はラウンジ云々は関係ないかも。

カレドニアンスリーパーという会社:カレドニアンスリーパーを走らせているだけの案外小さな会社らしいので、なんとなく一体感があるように感じた(人口の少ない自治体みたいに自ずとそうなるというか。また一体感=いいことというわけではない(絆とか共感とか))。スコットランドの酒造会社とコラボで限定販売のジンを発売!とか、往復旅行プレゼントに応募しよう!とか、1年分のアイスクリームを当てよう!とか、なんかワクワクする企画をよくやっている。SNSのXでは乗客からのリアルタイムの質問等に一晩中対応しており、「今日は誰々と誰々が対応します!」などとやっている(2024.12.30追記)。社員募集の内容のメルマガが来たときも、結構楽しそうな仕事に見えた。給料もきちんと提示されていて(もちろん日本より高給)、つい「英語が出来たらよかった」と口走ってしまった(他社だがロンドンのバスの運転手とか初任給が日本円で800万くらいの広告を見たときも同じように口走った)。限定販売のジンが気になるも日本からは買えないと諦めていたが、10ヶ月くらい立ってもまだ発売している。

↑国外発送を行っていない、カレドニアンスリーパー・リミテッドエディション・ジン。ものっそ高い。

Wikipedia:カレドニアンスリーパーの日本語版Wikiの情報は結構古いままなので注意が必要である。

最後の最後までご覧いただき本当にありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!