夜逃げ案件を買収した話
皆さんが、仕事で大切にしていることは何ですか?
大切と思い始めたきっかけは何ですか?
僕は経営コンサルタントとして数字を見ることを大切にしています。これは、若いことの「ある経験」がきっかけです。
ぜひ、皆さんも僕の体験談から、数値を見ないと起こる悲劇、を感じて頂ければ、と思います。
1.破産案件の買収の話
まだ、僕が20代だったころの話。
医療系の総合商社の調剤薬局チェーン部門で勤務しておりM&A(企業買収)を担当していた。銀行やM&A仲介会社から紹介される薬局の売却案件の精査をして、自社で経営したら儲かるかどうか、を事業計画を作ってシミュレーションする仕事だ。
通常は、複数店舗を経営するオーナーが人手不足で薬局を手放したり、経営状況がかんばしくない薬局を売却したりなどの案件が多い。そんな仕事をしている中、年間10数件の案件を見ている中でも、ある日、初めての案件を目にした。
それは、破産した案件の話だった。
2.「美味しい」案件
破産したくらいなので赤字の案件。ただし、売上の内容を見ると悪くない。患者数も十分だし、処方箋の内容を見ても単価は高い。実際に事業計画を作ってみても十分な黒字で、物件の設備などを買い取っても十分におつりがくる内容だった。
「これは美味しい案件だ」と、現地を見る前から確信した。実績を積み上げるの大チャンスなので、ノリノリの気分で現地の調査に出発した。
3.目の当たりにした倒産の実態
しかし、実際の現場に行くと気分が一変した。そこには、初めて見る「倒産」のリアルな光景があった。
テーブルの上にはくさったミカン、新聞などが床に散乱しており、こたつの周りには座布団が置いている。まさに、今まで生活していた後が、そこにはあった。
子供もオモチャも床に転がっていた。柱を見ると、傷と子供の名前、年齢が書いており、子供の成長の跡が刻まれていた。小さな子供がいたことが一瞬でわかる。
もう、案件の美味しさというのは頭から飛んでいた。子供のいる幸せな家族。それが経営の失敗の結果破産し、夜逃げをせざるを得なかったのだ。
仕事をしていて、こんなにせつない気持ちになったことはなかったし、現在までこのような気持ちになったことはない。
4.改めて我に返る
ふと我に返った。なぜ、こんなことになったんだろう。
うちが買収したいと思うくらいの案件だ。正直、売上内容は悪くない。まともに経営をしていたら倒産することはなかったはずだ。
しかし、改めて現地を見てみると、事業規模に見合わない高額な機械が多く置いてあった。調剤を完全に機械で自動化する機械や高級なプリンターなど、明らかに過剰投資を思える設備が多かったのだ。これでは、経営が持つはずがない。費用を見ても過剰にお金を使っており、これでは黒字は難しいと思える内容だった。
どういう考え方で経営をしていたのだろうか?
・何となく儲かっていそうだから、ドンブリ勘定で費用を使った。
・何となく儲かってそうだから、メーカーのいうがままに高額の機械を購入した
きっと、こういう思考だったのだろう。
5.数字を見る大切さ
幸せな家族を突然襲った破産・夜逃げという悲劇。これは、決して天災のような不運ではない。厳しい言い方をすれば「自業自得」である。
ちゃんと数値を見て経営をしていれば、こんな悲劇は生まれなかったはずだ。
・儲かっているはず
・お金に余裕があるはず
と思い込みで数字で実態を追わなかったことが原因だ。
今、僕は事業計画を作ったり、「会社の内部の見える化」する管理会計制度構築という仕事をしている。クライアントに対して、しっかりと数字を見る仕組みを作って数字で経営判断することを支援する仕事をしている。
経営者によっては、「細かすぎて苦手」と反応する経営者も正直少なくない。しかし、苦手でも経営者は数字に向かい合うべきなのだ。
理由はなぜか?それは会社を守るため、そして大切な家族を守るためである。
数値を見ることが会社を守る。僕はそういう信念を持っている。