ベストなパッケージをつくる その1

ここ数年の流れかもしれませんが、製品の内部部分などの加工を請負う黒子に徹してきた中小企業メーカーさんが、新たなチャレンジとして自社商品を開発される事例が増えてきています。企画・製造・広報・販売にいたるまで自力で取り組むこと、しかも販売や広報など、不慣れな仕事が多くて、大きなチャレンジとなるはずですが、そのなかで販売用のパッケージをどう準備するのかという問題が立ちあがってきます。
たとえば、機械内部の部品を造ってプラスチックの通函(かよいばこ)に入れて納品するのが日常というメーカーさんが販売用パッケージを考えることになったりすると、戸惑ってしまうかもしれません。

開発した自社商品のためのパッケージはどんな形がいいのか、誰に相談すればいいのか、どういうふうに話を切り出せばいいのか、経験がなければイメージできにくいのではないでしょうか。そこで、そういう方々むけに、商品のパッケージをゼロから考えてつくるまでのプロセスを、自分なりに説明してみようと思います。


① 商品の理解を深める
ここがすべての基礎になる作業です。
だれが使うための商品か、だれに喜んでもらえる商品なのか。それが作られることになった経緯や背景、着眼点や発想、そこに込められた想いと熱をしっかりと把握することからパッケージの企画は始まります。どんなパッケージか想像する前に、その商品をしっかりと理解して把握するのです。

商品の意義や価値をしっかりと認識できれば、このあとに続く作業がおのずと充実します。これをなんとなくフワッとやってしまうと、あとにつづくすべての作業の焦点が合なくなり、時間ばかりかかって、ベストだと思えるパッケージがなかなかカタチにはならないでしょう。ベストだと思えるパッケージができあがったときには、”これいいね!これでいこう!”という自信に満ちた感覚がおのずと生まれてきます。


② 商品が売られる環境を検討する
数ある商品のなかから、認識してもらい、興味をもってもらい、気に入ってもらい、買ってもらう。どんなパッケージならそれら要件をフォローできるのかを考えます。いつどんなシチュエーションで、どのような人に見つけてもらえるか、手に取ってもらえるか、気に入って買ってみようと思ってもらえるか、売り場の環境、ほかのものとのバランス、考えがおよぶできるだけのことを洗い出して、なるべく明確にしていく作業です。また、買ってもらったあとも、その商品を買ってよかったと再度満足してもらうためにどうあるべきか、売り場を調べたり、買い手のモデルに近い人の行動や動機などを調査したりして、なるだけ具体的にしていきます。これが次にくるデザインをする際の指針となります。


③ デザインアイデアを創る
②はいわば、認知してもらうことから購入してもらうまでの経路設計でしたが、これを実現できるような意匠・デザインを実際に落とし込んでいく作業が③です。パッケージの構造設計、色や素材の質感、グラフィックや文字の表現を用いて②で設定された目的を果たせるデザインを創ります。
パッケージをデザインしてみることは誰にでもできます、もちろん自力でやってみていいことなんです。ただ、設定された目的を高いレベルで満たそうとする場合には、やはり専門の知識、技術と経験を持つデザイナーをチームに迎える場合のほうが、より高い完成度を期待できるでしょう。

④ 製造のダンドリをつける(コストや納期の管理)
デザインアイデアをリアルに立体物として造形する作業です。製造上必要な材料の特性・必要数量に適した加工方法についての知識が必要になります。加えて、コスト・納期・制作上のリスク・物流都合にいたるまでの知識が求められます。これはわたしたちのようなメーカーの立場がいちばん得意とする作業内容です。


中小企業の商品開発においては、このように時間とコストのかかる手順はなかなか採れないのが現実かもしれません。ただ、そのような事情を抜きにすれば、このような手順が商品にふさわしいパッケージを考える基本手順だと思います。

パッケージの準備は、商品リリースの瀬戸際になってはじめて意識されるケースが多く、限られたみじかい時間のなかで、大急ぎでやっつけてしまうケースは多いです。最低限として、お店に並べて恥ずかしくない雰囲気のものを、限られた時間内になるべく安くつくる。パッケージの意匠だけが、売上げや認知度のすべてを左右するわけでない以上、それは間違いではありません。

その一方で、①で把握できた、”商品のそもそもの目的”を達成するパッケージを手間をかけてつくることは、大切な場面で、大切な人に会うときの服装を選ぶことに例えられると思っています。第一印象で自分がどんなヒトなのかを想像してもらう、その服装でその場に臨む自分としても、こういう人と出会えるといいな、いい出会いが一つでも多く広がればいいなと思っている…

パッケージを商品が着るドレスだと思えば、どんな服装でその場に臨むことによって、未来がどんなふうに展開していくのかという感覚を想像しやすくなると思います。そのように捉えると、ベストだと思えるパッケージを考案することに、時間やコストをかける甲斐を感じられるのではないでしょうか。

パッケージを創るときの、ごく基本的な手順を説明するつもりで、すでに長文になってしまいました。基本的なことを説明するためには、まだもう少し書くことがありますので、次回に続けたいと思います。

続きでは、ベストだと思えるパッケージを準備するために、だれに相談すればいいかという話を書きます。デザイン会社、印刷会社、パッケージ商社、製造メーカーなど、それぞれの立場で、それぞれの特性や強みが違ってきます。よければ続きも読んでください。(続く)

2022.01.26



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