ミケと付き合うのは俺が許さない
ミケについては書くつもりはないから、ここで書くが、高校二年生の少女だった。
少し、恋の感情を持っただけで、何がという間柄でもない。たぶん前田の一件がなければ記憶にも残すことのなかった女子高校生だったんだろう。
劇場に入って数か月たった時、どうやらミケが私に恋をしたらしいと気付いた。それを前田に言った。
「ミケと付き合うのは俺が許さない」
突然ゲームは回り始めた。お前は女と付き合う資格はない。お前の彼女は俺が決める。それから前田はミケに接近し始めた。
「早くミケ、俺のセーター編んでくれねーかな―」
前田がそういって、朝から晩まで話題はミケのことばかり。ミケに毎日電話をかけて、ミケさあ、おれ、吉川の親友だからさあ、俺を頼れよなあ。
前田はミケとドライブをする日々。大学生の前田だというのに、学校も行かずにミケミケミケ。百キロを超えたからだの前田が折れそうなほど痩せたポニーテールの少女をいつも連れまわしている。
27歳ころ、ミケに電話をした。
「ミケってどこの高校へ行ってたの」
「親友が知ってるよ」
十年たって、まだこんな言い方している。
「前田とミケって、結婚して北海道行くんだってね。聞いたよ」
そう言ったらミケはぎょっとして黙っていた。
本当か嘘か知らないが、そういうミケの人生だった。
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