愛されおにぎり屋さん「キラキラ」から見える浜松町の人たちの輪郭
ー浜松町駅の金杉橋方面出口を降りると、世界貿易センタービルディング南館の1階に、お昼どきいつも行列が絶えないおにぎり屋さんがあります。ガラス越しに見えるのは、丁寧に握られているおにぎりと、笑顔で接客するスタッフ。お店に行けばつい笑顔になってしまうその秘密は、おいしさへのこだわりはもちろん、浜松町で働く人たち、家族連れで訪れる地元の方との心温まるたくさんのエピソード。
そんな「キラキラ 浜松町店」スタッフの山室さん、宮崎店長にお話を伺いました。
「新店舗を任せたい」突然の打診からはじまった第二の人生
–– お店を始めた経緯を教えていただけますか?
山室さん:店名の「キラキラ」は、もともと、会社の名前でもあるんです。横浜で1983年(昭和58年)に創業し、東京モノレールの駅の売店にもずいぶん納品していました。2008年(平成20年)、東京モノレール側から、「駅構内に空き店舗が出るので、そこに入居してくれないか」と打診があり、それがきっかけでお店を開くことになりました。
キラキラは、親族で経営している会社なんです。私が店頭に立ち始めたのも、当時の社長であるわたしの兄から、ある日突然「浜松町駅でお店を開くことになったから、任せる。」と言われたのがきっかけです。とても驚きましたが、やらないという選択肢はありませんでしたね。やるしかないと決めて今に至ります。
接客もお店の運営も、すべて初めてでした。それを一緒にやってくれたのが、姪っ子(宮崎店長)です。第二の人生が、こんな形で訪れるなんて夢にも思っていませんでした。
–– 初めてのお店の運営、滑り出しはいかがでしたか?
山室さん:ホームページもなく宣伝も一切していない中でお店をオープンしましたが、転機が訪れたのはオープン1年後くらいでしたね。テレビ番組「いきなり黄金伝説・特番」(2009年10月1日放送)で紹介いただきました。プロデューサーの方がうちの明太マヨのおにぎりを食べて感動したのがきっかけで、番組で取り上げられることになったんです。そのおかげで、多くの方に知ってもらう機会になりました。
その後も、お客さんに恵まれました。お客さんが次のお客さんを誘って一緒に来店してくれて、「セットはこれで、これにお味噌汁をつけて」と、うちの商品説明までしてくれるんです。そのやり取りを見ていると、嬉しくて温かい気持ちになりました。
お店の外で、お客さんの背中をばしーんと叩いて気合いを注入
–– 口コミで広がっていったんですね。どんなお客さんがよく利用されていましたか?
山室さん:駅構内の店舗は、販売だけでなく店内で飲食もできるお店でした。有線で「オールディーズ」を流して、音楽を聴きながらゆっくり飲食することができました。特にしゃべりかけるわけではありませんが、お客さんと過ごす時間がありましたね。
あるとき、男性のお客さんがストレスで円形脱毛症を作ってしまったと憔悴しきった様子でいらっしゃったんです。だから、私、お店の外で背中をばしーんと叩いて、気合を入れたりもしました。その後も、時々、「これから、会社や学校の面接にいくので」、と心配と緊張した顔の方にも、気合いを入れたこともありました(笑)
また、いつもは元気なお客さんが、すごくさえない顔をしていたことがあって。お仕事の話もよく昔から聞いていたんです。「良い資格を持ってるんだからそれを活かして、他の所で挑戦してみたら。」って。その後、辞められたことを決心したそうで。
でも後日お店にいらっしゃった時、本当に晴やかな良い顔になったのよ。その後、ちゃんと勤め上げられて、今はどこかの館長をやっていらっしゃると聞きました。今でも新店舗にもお見えになりますよ。
閉店を伝えられないまま移転。ようやく見つけた!と泣き出すお客さん
––そんななかで決まったお店の移転。移転先探しに苦労されたそうですね。
山室さん:お客さんとの繋がりが本当にたっくさんあるから、移転先は、どうしても浜松町がよかったんです。浜松町を離れたくなかった。田町や新橋などの一駅離れたエリアまで結構探したんですが、なかなかいい移転先が見つからなくて。
そんな時に、お声かけてもらったのが世界貿易センタービルさんでした。3月に閉店し、6月には声をかけてもらった。もう奇跡ですよね。浜松町を離れずに済みました。
宮崎店長:ただ、モノレール駅での店を閉じる時には移転先が決まっていなかったので、閉店ということしかお客さんに伝えられなかったんです。だから、今でも近くで再オープンしたことを知らずにいる昔のお客さんも多いと思います。
山室さん:外見もガラッと変わって、新しいビルの1階だし、看板も少しわかりにくいかもしれない。ただね、ショーケース自体は昔のままですし、こだわりのラップ包みのおにぎりも変わっていません。あと、看板娘の私も変わっていませんから(笑)。それで見つけてお店に入ってきてくれるお客さんも多いですよ。
ある日、女の子がお店に入ってくるなり泣き出したんです。聞いてみると、「キラキラさんはどこかで再オープンしているはずって信じてた!」と言うんですよ。本当に感動しましたね。
バギーや車椅子も入りやすい立地。近所に住む親子やお子さんのファンも
––新店舗は路面店ですね。ガラス張りで中の様子が見えるのも印象的です。
宮崎店長:お客さんの層が広がりましたね。以前の店舗は、仕事勤めの方がほとんどでしたし、お店の前に階段が2、3段あったので、足の不自由な方が入りにくいという不便さも実はありました。今は1階でフラットなので、そのまま車いすで入っていただいたり、杖をついて入ってもらったり、近くにお住まいの親子がバギーで来てくださったり。お子様のファンも増えて楽しいです!
山室さん:ひじきのおにぎりが大好きな子がいて、まだ話せないぐらい小さいんだけど、店の前を通ると立ち止まってひじきおにぎりを指さしするの。ひじきおにぎりがないと、泣き出しちゃったり。夏休みに入るとお子さん連れの方も増えますね。
後は、浜松町から勤務先が変わったという方が、わざわざ途中下車をしておにぎりを買って帰られることもありますよ。「今日は夕飯作りたくないなあ」と、夕飯と旦那さんの晩酌用にお惣菜を買って帰宅する方もいらっしゃいます。
たくさんの方がきてくれて、毎日すっごく楽しいです。こんなに楽しくていいの?って思うほど。私、第二の人生を謳歌してます!
移転の閉店期間中に研究したお味噌汁
––ちなみに、気になる売れ筋を教えていただけますか?私は唐揚げおにぎり一筋です!
宮崎店長:メニューは今20~30種類ありますが、看板商品は、ツナ明太と高菜昆布と、今は甘辛生姜、肉味噌かなあ。メニューの入れ替えも随時やっていて、新発売のドライカレーが、今とても人気です。昨日はお昼までに完売しちゃいました。
特に、新店舗でお味噌汁は一段と美味しくなったので、ぜひ召し上がってほしいです。
山室さん:一部のおにぎりと味噌汁はショーケースの裏で作ってます。お店のオープンは6時半で、始発でいつも通ってるんです。
特に閉店から移転先へのオープンまでの7ヶ月間はお店もお休みだったので、その期間にお味噌汁の研究をたくさんしました。食べ歩きをして他店の味も研究して。お出汁の取り方や、お味噌の量を変えてみたり、具材もいろいろと工夫しました。
手間がかかっても、管理が大変でも、おにぎりはラップ巻き。
––お話を聞いているだけでお腹が空いてきそうです。美味しさの秘訣は何でしょうか?
山室さん:本当に体にいいものを手作りで、ということを大事にしています。唐揚げマヨおにぎりや、サンドイッチに使うマヨネーズは自社で手作りしています。あまり酸っぱさのない、軽い味わいです。
あと、握りたての温かいおにぎりって、やっぱり美味しいですよね。その美味しさを保つために、うちはラップ巻きにこだわってます。手で握るから、コスト高くなっちゃうんだけどね。
しかも、管理が大変なんですよ。おにぎりがカサカサにならないよう、時々全部チェックしてます。おにぎりの頭をトントントンとなでて、「まだ大丈夫」ってね。
宮崎店長:玄米おにぎりは、有機玄米の契約農家さんとうちの社長で考えて、パサパサにならないよう水分が入り込みやすい玄米を作ってもらっています。
–– 細やかなこだわりの1つ1つに愛情を感じます。最後にキラキラさんの今後挑戦したいことをお伺いできますか?
山室さん:健康志向の方がすごく増えてるのを感じますね。なので、お惣菜のバリエーションを増やしたり、そういった要望にお応えできるようなメニューをいろいろ考えなくちゃって思っています。これからも、美味しくて健康的なものをもっと追求していきたいですね。
お客さんの中には、「このあたりで食べられるところありますか?」と聞かれることも多くて、芝公園を紹介するんですが、少し遠いんですよね。海外旅行客の方も多いですし、困ったなと思うこともあります。店内のイートインコーナーや、お店の近くのベンチでもいいので、座って食べられる場所をこの地域に作ってほしいですね。
店舗情報:
キラキラ 浜松町店
住所:東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービルディング南館 1F
営業時間:6:30〜18:30(定休日:土・日・祝)
店長:宮崎明世さん
スタッフ:山室マサさん
HP : https://www.kirakirafoods.com/
取材・文:後久大樹(世界貿易センタービルディング)・土屋明子/撮影:鶴岡丈二(世界貿易センタービルディング)