転職回顧録④而立
「ごぜう。お前、どっちにつくことにしたのよ?」と。ワタクシたらうたに問うたのは。
取引先のなじみの社長。通称『ミスター』。
この人と弊社の関係は深ーく長く。入社半年のワタクシたらうたより。はるかに弊社の社内事情にも詳しい。
3人で回している、ワタクシの部署。とあるメーカー。片田舎の、小さな営業所。
そこで繰り広げられる。弊社の先輩・歴8年のベテランと、弊社の大先輩・歴17年のドベテランの。
長年に渡るいがみ合いについても、ミスターは。絵巻の一つも描けるくらいには熟知している。
今。ミスターが問うたのは。
歴8年のベテランか、歴17年のドベテランか。
どちらにお近づきになって、その庇護を受けることにするのか?、ということ。
どうやら。慣例として、辞めていった兵どもも。
みな、どちらかに組しその傘下に入ることで。この職場に居場所を作っていたようだ。
なんとも。面倒臭きこと 山の如し。
「私はあくまでごぜう派ですよ」
「おい、ほんとか!?お前、どっちの味方にもならないつもりか?」
「まだそうと決めた訳ではないですけど」
「なんだ、まだ決めかねてるのか?」
「あの二人がごぜう派に入りたいって言うなら、入れてあげるかもしれないし」
ひとしきり笑ったあと。ふと、真顔に戻った、ミスター。
「しかしまぁ、ほんとにどっち派にもつかないとしたら…これまでそんな奴いなかったからなぁ。どうなるんだ?」
そうして押し黙った。心配しているのか。面白がってるのか。それはよくわからなかった。
この職場に入り。同僚二人が深いふかーい対立関係にあると気付いた時に。2つ取り決めた。
①どちらの味方にもならないこと
②仕事上で両人にとって有益な人材でいること
我が先輩である、歴8年のベテランと歴17年のドベテラン。決して。おかしな人ではない。
おかしくなくても。『同僚』という間柄は罪が深く。
精神面でも実害でも。利害がぶつかり合ってしまえば。即対立関係に発展する。
血や友情、愛情で繋がっていない、同僚という関係。精神は繋りはないが、利害だけは絡み合う、同僚という関係。
人と人が。『同僚』という間柄で出会ってしまうことが。そもそも破滅の始まりなのではないか、など。考えてしまわなくもない。
この頃から。毎日、退社するときに。「娑婆の空気はうまいなぁ」など。感じるようになっていた、ワタクシたらうた。兎にも角にも。『仕事上で両人にとって有益な人材』に早くならぬことには。ここに、居場所はない。