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転職回顧録⑤中悪

36歳、人生最後のつもりで転職してきた先は、某メーカー。片田舎の、小さな営業所。

ワタクシ入れて。定員3人の我が部署には先輩社員2名。職歴8年のベテランと。職歴17年のドベテランがいて。

挨拶もしない、目も合わせない程に。いがみ合い、憎しみ合っていた。

弊社と長い長ぁいお付き合いのある取引先社長・通称『ミスター』から。新人で入社した者は皆、先輩どちらかにお近づきになり。

その庇護下に入ることで。この会社に居場所を作ってきた伝統があると。聞かされたワタクシたらうた。

しかしながら。面倒に巻き込まれるのは御免、と。ワタクシたらうた。どちらにもつかない決断をする。

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ワタクシの部署は人員3人。定休日なしのため。

忙しい週末には3人全員が出勤。平日は順番に休みに入り、残り2人で部署を回す。

本日。ワタクシたらうたが出勤すると。珍しく。先に着いていた歴17年のドベテラン。

まだ電気もつかない暗いオフィスで何やら。モゾモゾモゾモゾと。蠢いている。

「おはようございます」と挨拶すると。

スタンガンでも当てられたかの如く。或いは水揚げされた海老の如く。

明らかにぎくりとし。ちらと。こちらを一瞥したドベテラン。

「おはよう」とか「お弁当を冷蔵庫に入れなきゃ」とか。

何やらゴモゴモゴモゴモ言いながら。

ソソクサソソクサと出て行く。


ドベテラン去りしあと。

電気もついていない。ロールカーテンも開いていない。暗いオフィスで。

前夜電源を切って帰ったはずの、ワタクシたらうたの業務用パソコン。煌々と光っている。

それを見た、ワタクシたらうた。思わず。溜め息が口をついた。

歴17年のドベテラン。この人には。

人のメールやTEAMS(業務で使う社内チャットツール)のやり取りを盗み見る癖があり。

とは言っても。どの道、社用パソコン。勿論。社用のやりとりしかないもので。

何がために。そんなものを見たがるのか?見て何の得があるのか?皆目見当も付かなかったが。どうやら。

歴8年・犬猿の仲のベテランと。ワタクシたらうたとが。

ドベテランの悪口など。何か秘密のやり取りをしているのでは、と。かなり本気で疑っている模様。

これには流石に。

「この手の疑いを掛けられるのは中学生の頃の部活動の時以来じゃあ」と。

出雲阿国も言ってたわぁ。

まっこと、面倒くさきこと 山の如し。


さて、弊社内先輩方によって繰り広げられる戦い。年齢を重ねた女同士の戦いなので。殴り合いなど荒々しいものではなく。嫌がらせや無視など。大合戦よりは『冷戦』。

かたや東軍総大将・歴17年のドベテラン。通称『地軸』は。

・40代半ばの独女
・陽キャ
・ポジティブの仮面を被ったネガティブ
・ジャイアンの次に、ジャイアニズムを体現している
・必ず先制攻撃をしかける、相手に戦闘の意思があってもなくても攻撃する
・攻撃力は高く、戦闘は真正面から行う

「自分を中心に世界が回っている」が如く。自己中心的な振る舞いにより、その称号を得た。

一見、どSに見えるのだが。弱い自分を守るための先制攻撃で。攻撃されないために相手を威喝する『M極まってSとなる』タイプである。

豪快さへの憧れから鷹揚な態度を取るが、その裏の繊細で不安がりな一面は消せるわけなく。

結果、人のメールを盗み見る、など姑息な手を打ってしまう。

また。特筆すべきはその「雑さ」。トイレに入り個室内の掃除ブラシ・汚物入れ等の全てが倒れていると。

彼女が一生懸命掃除機をかけてくれんだな、と。もはや微笑ましく思えるくらいガサツで。

ようするに。憎み切れない人なのだ。


一方の、西軍総大将・歴8年のベテラン。通称『嘆き節』は。

・40代半ばの独女
・陰キャ
・ネガティブ界の帝王
・突然キレる、キレ出したら収集がつかない
・突拍子もない言動で周囲の耳目を集めようとしてしまうことがある
・根回し力は高く、戦闘は遠隔攻撃を行う

病気や怪我をして。親切に手当てされて味をしめ。構って欲しい時に仮病を発動する、という現象。子供時代にやった経験がワタクシたらうたにもあるが。

不惑を越えたこの人は。それが生涯に渡って常態化しているようで。

いつも「何か自分が可哀想な部分はないか?」探し。何でも悲劇と捉え。嘆いて見せるところから、その称号を得た。

一見、ドMに見えるが。自分を被害者と演出し。相手を加害者に仕立て上げ執拗に関心を寄せるよう仕向ける『S極まってMとなる』タイプである。

一方で。必要とされること・慕われることが大好きで。年下の面倒見が良い、細かいところによく気が付くという面もあり。

入社したてのワタクシたらうたに。いろいろの仕事を。手取り足取り教えてくれたのも彼女であった。

ようするに。憎み切れない人なのだ。

だが。『嘆き節』の。「突拍子もない言動で周囲の耳目を集めたい」性質が。

弊社社内史に名を刻む『嘆き節の乱』を。のちに。引き起こすことになる。

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業務が始まり。向かいの席に着座した、歴17年のドベテラン・通称『地軸』。

メールの盗み見が。バレてしまった疚しさか。

今日は。目も合わせず。言葉も発しない。

「前からメール覗き見られてるのには気付いてたから、今さら気にするな」とは。ワタクシも勿論言わず。

「『嘆き節』もよく私のメール盗み見てるから、気にするな」とも。言わないでおいて。

「昨日も飲み過ぎて。脱水してるのか今日は喉がカラカラなんですよ」と。敢えて。全く関係のないことを。明るく話しかけた、ワタクシたらうた。

どちらにも組せず、敵にもせず。

疚しいことはない。社用メールを見られるくらいのことは。それで彼女らの気が済むのならばさせておく。それよりも。無害なことを無駄に謗ったりして。関係性が面倒臭くなる方が、余程やっかいだ。

罰は、せいぜい。また盗み見ようとして。ワタクシのTEAMSを開いた時に。

『覗き見は痴漢の始まり』という。ワタクシの格言が表示される程度にとどめよう。

先にこのメッセージを見るのは。『地軸』か。『嘆き節』か。とりあえず。何でも。面白がれる余裕があるうちは、面白がっておくのが良かろう。



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