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彼女の胸のエイリアン2

刺し子さん

バスマティライスが美味しいカレー屋は当たり、私の勝手な法則。池のほとりのまだ新しい店内で新緑の木々の眩しい歩道をランニングする人を窓の下に見ながら、バターチキンカレーを頬張る。向かいの席に8か月前一緒に入院していた同世代の女性がいる。名前を刺し子さんとしよう。

退院後、まだ仕事を開始していなかった時期に一度お茶に行き、すぐにまた会おうと別れたが仕事が忙しい彼女と都合が合わずようやくランチの約束が出来たのが今日だった。

お互い手術後8か月が経過し今のところ再発の兆候もなく生きているだけで概ね成功な日々を過ごしている。そんな私たちだが、乳がんの種類も術後の治療方針も違う。傷の具合など天地ほどもの違いがあり、乳がんは一括りにできないなぁと改めて思う。

私の胸のエイリアンは、昨年九月下旬にお風呂上がりの鏡の中に皮膚が引きつれたような箇所を目視で発見し、ネット検索で病院を選択、受診と生検の結果、ルミナールAタイプ、2センチ以下、Ki67値は低かったものの、原発になっている2センチ以下の腫瘍から腋窩方向に子供と思われる部分があり、さらにそこから伸びていきそうな感じがあるという初見だったため、部分切除ではなく全摘を希望した。センチネルリンパ節生検でリンパ節転移なし、術後のオンコタイプDXの数値も低く抗がん剤治療の効果は極めて低いためアロマターゼ阻害薬の服用のみとなった。

一方、刺し子さんはというと、市の健診で乳がん疑いとなり、詳しい検査の結果、非浸潤癌という診断で全摘、一時はその種類がトリプルネガティブかもしれないと眠れぬ日々を過ごしたそうだが、そうではなくホッとしたのも束の間、術後の傷の予後が芳しくなく、痣のような色素が広がり主治医に相談すると「これは皮膚科受診をお勧めします」と言われ皮膚科にかかったところ「これはカビですね」と診断されてしまった。

刺し子さんの不安神経症っぽい性格のもっとも困ったところは、病状について詳しく聞かないところ。
「カビ?皮膚にカビってどんなカビなの?」
と聞く私に「怖くて詳しいこと聞けなかった」という。

「じゃあ治療は?」
「治るまでに時間がかかるよって言われた」
そんなざっくりした感じでいいわけ?

彼女はとても心配性なタチだ。
入院中、毎日鏡越しに傷の具合をiPhoneで撮影する私にすごく驚いて「私なんて一度も傷を見たことないよ」と言った。
私にしてみれば知らないことの方が恐怖だ。知らずにいて傷がひどいことになってたらどうする?
傷口の具合はしっかりどんな感じなのか鏡で見るべきという私と、怖くて見れないし洗う時も目を閉じて洗ってると言う刺し子さん。私は心配だからこそ知りたい。刺し子さんは心配で不安に陥る要素のことは知りたくない、そういうタイプ。

乳がんの種類が違う上、個々の性格も違う。治療方針は患者の数だけ違いがあるような気がする。

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