「豊かな海は、豊かな森から生まれる」2024.7.24 持ち寄り勉強会@はまぐり堂 その②
2024年7月24日(水)に、石巻・牡鹿半島「はまぐり堂」にて、今年度 第2回目の持ち寄り勉強会を開催しました。
今回は、今年の地域の冊子づくりのテーマ「里山」にちなんで、牡鹿半島・桃浦を拠点に林業・森づくりに取り組んでいらっしゃる森優真さん(合同会社もものわ代表)をお招きしてお話を伺いました。
この記事は前回の記事(その①)のつづきです。
※講師の森優真さんと、持ち寄り会に参加してくださった地域の方々とのやりとりも会話形式でお楽しみください。
(文中での表記・・・森優真さん:森、参加者の方々:参)
水産業だけじゃなかった!? 「林業の町」としての石巻
森:皆さん、山とかお持ちだったりしますか?
参:歩くだけで持ってはいない。山菜とか、食材求めて山歩きしたりはするけどね。
森:意外とお持ちの方はいらっしゃらないんですね。これぐらい人数がいると、どなたか一人くらいは山を持ってるかなと思ったんですが(笑)
参:昔うちの本家が製材所を渡波でやっていたんですよ、蜂谷製材所っていうんですけど。
親父たちの代がやっていて、だいぶ前にやめたんだけれども。
森:そうでしたか。だいぶ今は減りましたけど、昔は石巻にも製材所が何十軒ってあったらしいですね。
参:昔は魚を入れるための木箱を作ってたんですよね。今は発泡スチロールの箱に変わったでしょ。
森:ああ、なるほど!
参:発泡スチロールの前は、木箱だったから。
森:なるほど。この牡鹿半島でも、今でこそ一軒だけですけど、もうちょっと製材所があったっていう話は聞きました。
石巻というと圧倒的に「水産の町」というイメージがあるんですけど、意外と農業や林業も、強いんですよね。
イメージでいうと、「石巻魚市場」が有名でギネスにも(全長が日本一長い魚市場として)載っていますけれども、たとえば「石巻青果市場」ってありますよね。あそこも実は年間の売上高でいうと、全国でトップ10くらいに入るんですよ。
それぐらい青果市場もけっこうすごいところで、それと同じように、実は石巻は林業もけっこうすごいぞというところを、お話したいなと思います。
まず、石巻港の周辺って、実はほとんど林業関係なんですよね。魚町(石巻魚市場エリア)のもっと手前に、日本製紙や山大などの工業地帯があって、この辺はほとんど、木材関係の所なんですよ。
参:私ね、このあたりを通って、確かにたくさん木材は見かけるけれども、製紙工場があるから、海外から木材とかチップとかどんどん輸入してそれが山積みになってるんだな、っていうイメージでいたんだけれども、あの木は日本の木なの?
森:それはですね、輸入材と国産材、半々くらいです。
日本の各地からも、特に東北からなんですが、東北6県から運ばれてくる木が、正確な割合がちょっと分からないんですが、何割かあります。
あとは特に日本製紙では、米松が、カナダなど海外からとんでもなく大きなタンカーで運ばれてきていますね。とにかくものすごい量の木が、実は石巻には集まってきているんです。
またベニヤ板の工場に関しても、石巻って実は全国的にも相当な生産量を誇っています。
一つ例を挙げると、「石巻合板」という工場を見学させてもらったのですが、完全なフルオートメーションで加工されていく様子が本当にすごいんですよ。
まず3メートルもある丸太を、大根のかつらむきのように回転させながら薄く2〜3mmくらいの板に加工して、その薄い板を重ねていって、接着して、厚さ9〜12mmのベニヤ板を作るっていう工程になるんですが、完全オートメーションなので、ほとんど工場に人はいないんですよ。本当にすごい最新式の工場だな、という感じです。
ちなみに皆さんこういう工場を見に行かれたことってありますか?
参:見に行ったことないなぁ。これって一般の人でも見れるの?
森:見学コースがちゃんとあるので、一般の方でも、ある程度人数も揃えば、頼めば見学できると思います。
参:へえ〜、見てみたい!
森:持ち寄り会の番外編で、ツアーをやりましょうかね(笑)。これは本当にすごいんで、絶対見たほうがいいと思います。木材加工の現場ってこんなすごいことになってるのか!って思いますよ。
まさに先ほどお話に出た山大さんは、石巻で唯一の上場企業なんですよ。
水産のイメージが強い石巻なんですけど、実は上場企業は林業の山大さん1社なんです。山大さんも、そのルーツから辿ると100年以上も林業に携わってきた企業なんですね。
見学した中で、プレカットといって、要は現場で大工さんが組み合わせてはめるだけで家が建てられるようにあらかじめ工場で木材をカットしておく工法があるんですが、このカットを、機械に丸太をつっこむと全部自動でやってくれるんですよ。これもすごい技術ですよね。ドイツの加工機らしいんですけれども、すごく細かいカーブなども機械が自動で作っちゃうんです。
参:ほんとにねぇ。職人さんが何十年かかって修行したことをこんなに簡単にね。
森:そうなんですよね、本当に機械が全部簡単にやっちゃって、現場の職人さんは組み立てるだけみたいなところもあって、そこで伝統的な技術の継承が途絶えてしまうということも言われていますので、オートメーションも一長一短はあるのかなと思いますね。
いずれにしても、石巻港付近の林業関連の工場にはそうしたすごい木材加工の技術がある、というところは押さえておきたいところです。
あとは日本製紙さんにも先日行ってきたんですけれども、こちらも、敷地も工場内も、ものすごく広いんですよ。
工場内に全長200mくらいある機械があって、これで木材チップが溶かされて、紙の原料ができて、それを薄く伸ばして、接着して漂白して…といった加工が行われるそうなんですが、この全長200mの機械が工場内に5、6台も並んでいるのですから、本当にとんでもない規模です。
ちょっと細かいデータの話になるんですが、東北の木材の流通量を林野庁がまとめたデータを見てみると、東北6県のうち、宮城県は他県から入ってくる木材の量がとても多いんです。そして他県へ出ていく木材の量は少ない。つまり、東北各地から木材が宮城県にたくさん集まってきていて、それを宮城県内で加工しているということです。
そして、実はこの宮城に入ってくる木材のほとんどが石巻に関わってきています。つまり石巻の林業がストップしたら東北全体の林業が止まってしまう、という構造になっていて、そのくらい石巻は林業の重要な拠点となっているわけです。
なので、林野庁の職員の方とお話していても、「石巻」と言ったら「ああ、合板の町ね」と言うくらい、石巻に来たことがない人でもそのことを知っているくらい、林業の関係者の中ではものすごく有名な土地なんですね。
参:石巻は、魚・水産で有名だけど、製紙工場もあるもんね。
昔は十條製紙って言ってたけど、それが合併とかで日本製紙になって、すごい大企業になってるものね。
森:昔は、”(石巻で)石を投げれば日本製紙の社員に当たった”って冗談で言われるぐらい、それだけ人数がいたって言いますよね。
参:だから震災後に、石巻が町としてこれからやっていけるかどうか、それとも崩れるかっていうのは、日本製紙があそこ(工業港)で再建するかどうかにかかっている、っていうくらいの、そういうニュースだったんだよね。それだけ社員も多いのよね。
震災後に、日本製紙の工場が稼働して、煙突から煙が上がった時に、「これで石巻はがんばれる」っていう風に、みんな泣いて喜んだっていうよね。本やドラマにもなってるくらいだしね。
だからいつも”石巻といえば魚”っていうのは話しているけど、木のことはすっかり忘れてたね。ここ(持ち寄り会)でもこれまで木のことや紙のこと話題になったことなかったんだけど、これも大事な足元のお宝なんだと、今、認識し直しました。
森:それはよかったです、ありがとうございます。今回の話でそれが分かっていただけて嬉しいです。
参:石巻は宮城でも屈指の”工業地帯”って言われているんだものね。港も”工業港”っていうくらいだしね。
森:石巻で工業といえば、やはり木材関連の会社がほとんどを占めていますよね。そして木材の物流もだし、機械のメンテナンスなども含めて、機械屋さんもたくさんいますし、溶剤の会社や、溶接屋さんもいますし。運送会社がその商品を運んだり。全部、日本製紙関連が多いですよね。日本製紙が止まると、みんな止まっちゃうっていうくらい、町にとって大事な産業になっていますね。
日本の林業の現状と課題
①森に若い木が育っていない現状
森:最後に、林業の課題について、少しお話して終わろうと思います。
そもそも、日本の国土の面積の66パーセントくらいが山林なんですよ。だから、ほとんどが山で、その間のちょっとした平地に人間がぎゅっと集まって住んでいるっていうのが日本の構造なんですね。
さらに、国土面積の約30パーセントくらいが、人が杉やヒノキなどを植えて作った人工林なんです。
なのでざっくり言うと、日本で人間が住んでいる土地の面積の割合と人工林の面積の割合がだいたい同じくらいとも言えます。
そして人工林の林齢(木の年齢)のデータをみてみると、当たり前なんですが、60年前はたくさん植林されているので、当時の人工林には若い木がたくさんあったことが分かります。
それが時が経って、現在は林齢60歳を超える木が多くなり、若い木がほとんどない、という状態になっています。つまり、最近は全然植えていないということです。今は植えてもお金にならないから、誰も植えなくなってしまっています。
昔植えた木は今、60歳とか70歳とか、ちょうど"伐りどき"と言われる年齢になっているのですが、問題は、それを伐ったとしてもそのあとに新しい木を植えない、というところなんです。
現在の日本の平均の、切った後に植える割合は、30パーセントくらい。だから、100箇所伐ったら、そのあと30箇所しか植えていない、という状況です。
ですから、残りの70箇所は禿げ山のままで、場所によっては雑木などが自然に生えてきてまた森になっていくんですけれども、鹿が多い場所だと、鹿たちが新芽を根こそぎ食べてしまって森の再生が難しい場合も多いです。
ここ牡鹿半島もそういった状況がひどいですけれども、全国的にもそういった状況になっていて、課題となっています。
もちろん山の整備のためにはどんどん伐っていかなきゃいけないんだけれども、伐った後のことも考えないとちょっとまずいぞ、というのが課題のひとつです。
②山の所有権にまつわる課題
森:もうひとつ、私が一番の課題だと感じていることは、ひとつの山でも地権者がたくさんいて、山の土地配分がものすごく細切れになっていることです。
そうなると、たとえば私が「このあたりの木を伐りたいな」と思ってそこの持ち主の方にも許可を得たとしても、その木を運ぶための道を通すためにも何人もの地権者と連絡をとって交渉しなくてはいけないわけです。
さらに言うと、もうほとんどの地権者がすでに亡くなっている場合が多いんです。今まさに、私たちがこれから切ろうとしているある山の山主さんがもう亡くなっていて、その方の息子さんとやりとりをしているんですが、その場合の手続きをどうすればいいのかなどを、役所と何度もやりとりしているところです。
山主さんが亡くなっている場合、当然提出する書類も増えてくるので、伐採の許可を取るまでの手続きがものすごく大変になりますし、かつ「伐り出した木を売り払っても全然お金にならないんだったら、手続きも大変だし手間ばかりかかってしまうからやめておこう」っていうことになってしまって、林業から人が離れていく、という状況が加速してしまうんです。
なので、木を伐る技術などもすごく大切なんですけれども、そもそもこのなかなか伐採までたどり着けない状況というのをどうにかしていかないと、ちょっとお手上げ状態になってしまう、というのが現状です。
こうした状況に関しては国も問題視していて、山林だけでなくあらゆる土地について、つい先日(2024年4月)、相続申請が義務化されました。( 参考:法務局https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html )
山林だけでなく、所有者不明の空き家なども同じように問題になっているので、こうした義務化がスタートしています。
日本全体としての山林の課題としては、こうした現状があります。私の話としては、今日はこういったところで終わりとさせていただきます。ありがとうございました。
参加者一同:拍手
(つづく)