アベノミクスを振り返る~リフレ派と経済学界隈の不毛な批判合戦
ツイッター上でここ最近、話題になってたっぽい。それはアベノミクス批判であり、推進勢力だった所謂「リフレ派」への批判ということである。主に日銀の金融政策にダメ出しと、昨今の過剰に進んだ「円安」という副作用に対する批判が主なものであるようだ。
で、経済学徒?界隈からすると、元から「リフレ派は異端集団だった」、「主流派経済学者はアベノミクスに反対してたし、黒田日銀の政策なんざ相手にしてなかった」という感じの意見も多数出ていたようだ。
簡単に言うと(個人の感想ですw)、
○リフレ派
・旧来型: 主に「金融政策重視」で財政政策に否定的、増税に批判的立場
(=財務省に対し敵対的立場、福井・白川日銀総裁にも徹底攻撃だった)
・消費税増税に転向型: アベノミクスは成功したと強弁=「アベ総理は偉いサイコー」を堅持するべく消費税増税を正当化した⇒財政政策もやると言ってきた説をも唱え始める?
○自称主流派経済学者・学徒勢
・財政破綻で日本は消費税増税待ったなし型:デフレなんて関係ない、兎に角増税しろ、しか言わない
・不良債権処理しないとデフレは治らない型:銀行や金融システム問題だから、それを治さないとデフレも続く
・人口減少だし財政再建しなきゃダメ絶対の自虐型:個人が生産性上げろ、国家成長戦略ガー、無駄を省いて緊縮財政+消費税上げろ、etc
で、当方にとってはどっちもどっち的な印象です(笑)。ある意味、悪いとこどりの経済学界隈としか思えず。
当方はアベノミクス当初から警告を繰り返していましたが、当時のアベ万歳派の連中は、リフレかその他かを問わず、経済学者が何ら役に立たないなとしか思えなかった。
日本の財政破綻危機を煽っては消費税増税と財政再建こそ至高とか掲げるような、害悪しかない主流派(政府側の御用)学者勢とて、リフレ派よりもはるかに甚大な悪影響を生み出したと思う。
確かに昨今の物価上昇が庶民の生活には厳しい、というのは分かるが、昭和年代では毎年それが普通だったんだぞ?
物価上昇率が低くなったのは90年代後半以降であり、97年金融危機までは2~3%の物価上昇率で今みたいに大袈裟に騒いだりはしてなかった。70年代の狂乱物価時代だけが特殊だったが、ここ2年程度の欧米の10%超を記録した上昇率に比し、日本の4%未満なんて大した話ではない。コロナ馬鹿騒ぎと似てて、大袈裟に騒ぎ過ぎ。
日本は通貨安=円安が大きく進んだ割には非常によく耐えている。これがトルコあたりだったら、敏感に物価に反映されるだろうが、日本では予備力が高いのである。
この25年程度が特殊な経済環境だっただけで、本来的には概ね物価上昇は年率2%で継続していても「平常運転だ」という感覚に戻す必要がある。狂ったCPIのセットポイントを、以前の健康体の時代に戻す必要があるということ。
逆に、円高を過度に心配していたことに対して批判したことがある。
リフレ派などが事ある毎に悪夢の民主党だの円高で日本企業が株価が云々と批判してたが、米国企業がドル高で通貨高を攻撃してるかね?
通貨安は困るが、通貨高で経済的に大問題となるようなことは割と少ないと思うぞ?
他の国々では、現在の日本の物価上昇率は普通の状態なので、特に対策する必要性もないが、日本人の場合だと消費者側の「感度が敏感」の為、消費減退となるのが「デフレ体質」の染み着いた国民性なのだ。また、賃金上昇幅が乏しい(=実質賃金低下)為余裕がなくなり、経済失速を招き易い。
そこそこカネを得ている層はこぞって「資金運用熱」が高い為、消費に回さず投資額を増やしてしまったりする。
カネを使う人があまり多くない、ということだな。率先して値上げする人がいなかったからこそ、大手企業群は努力に努力を重ねて値下げを頑張ってきたわけだが、いよいよ値上げするかとなった途端に、雪崩を打って続々と値上げしてみたよ、となったわけだ。
横並び意識の弊害、ですよ。これも日本特有の、他の国々ではかなり少ない現象なのではないかな。
リフレ派批判も、アベノミクス批判も、好きにやればいいとは思うが、日本最大の不幸は「円安を招いた金融政策のダメさ加減」なんぞよりも、ありもしない財政破綻説を散々焚き付けて消費税増税を強行したり、社会保険料の引き上げで国民負担率を上げさせた、日本の主流派経済学勢や経団連を筆頭の財界、財務省やマスコミの無能の腐敗構造の方が圧倒的に害悪だと思う。
欧州先進国だと負担率が高いなら高いなりに、社会保障や教育の安心感があるが、日本はそれが一切ない。自助努力でやれと言われ、国に召し上げられた税金や保険料は、カネに色が付いてないので回りまわって米帝の分捕りに貢がされてるだけなのだ。
害悪の順で言えば(個人の感想です)、
主流派経済学者勢
政府霞が関
マスコミ
財界
一般国民
リフレ派
日銀
である。
2013年以降に日銀の実施してきた金融政策の結果、現時点ではインフレ率が数年連続でプラス側を記録し、名目GDP成長率も連続でプラスを達成できたことは、全くの無駄ではなかった、とは思う。
円安やエネルギー価格上昇という外部的要因もあったのは確かだが、それでも07~08年頃や14~15年頃にも類似の状況にあれど、CPIがマイナスに逆戻りしたことがあったでしょう?
それほど日本人に滲み込んだ「デフレ気質」は強力だったわけで、現在は離脱開始時期なのだから慎重に行くのは当然と思うぞ?
円安が亢進したのは単に日銀の失敗だけではなく、西側先進国の「経済ビジネス村」における政治的な「恣意的円安策」が講じられている為だろう。金利差要因とか、マネーストック増加率の差とか、輸入量の増加とか、そういった経済指標から説明可能な円安水準ではないとしか思えないから。
通貨取引量のウェイトで日本円より少なく、比較的低金利通貨として知られてきたスイスフランとの通貨の増価・減価の圧倒的な差は、一般的な経済現象・経済学的原理による説明は甚だ困難だろうと思う。
これは日銀の金融政策が酷いから、ということだけでは説明不可能だ。日本人だけに与えられた人為的な「国際的協調策」でもない限り、通貨クラッシュ国レベルの減価は生じない。
例えば、世界銀行が実施したウクライナへの融資について、「日本政府だけ」が債務保証を強いられたが、これは連帯保証人という意味であって、円安が十分進んでいた時点での決定である。
他のG7国などは「日本人は円安で貧乏なのだ」と十分熟知した上で連帯保証を負わせたということは、GDPで日本より上のドイツや米国に次いで金融資産保有額の多い英国などは1ペニーすら引き受けないわけで、一般常識的にはどう見ても「貧乏人イジメ」でしかない。これが国際的協調策の意味、ですよ。
恐らく米国主導の「ドル高円安委員会」でも何処かにあるのでしょう(陰謀論)。
話が大きく逸れたが、アベノミクス批判ね。
当方の2015年6月当時にまとめた批判記事がこちら。
黒田日銀総裁が、2年でデフレ脱却だとぶち上げていたが、「日銀当預残高を2倍に増やしても、物価上昇率がマイナスに戻っただろ」ということで失敗と批判された。円安が悪い、とかいう話ではなかった。
その後もCPIはゼロ近傍を行ったり来たりで、2%の目標が達成できないままだったので、YCC導入となって行った。
当時から、経済学者勢やエコノミスト勢がどういう批判をしていたか忘れたが、「まず消費税を増税しろ」と「金融緩和では需要が作れずプラス成長にならない」ということだったのでは。
要するに景気が悪いからどうにかせよ、という話で、金融政策の学術的検討なんて主要報道上では殆ど見たことがなかった。
あと、増税の元凶は、主流経済学者勢とか大手マスコミ、財務省系族議員・財政再建こそ正義派の知識階層、等による国民への洗脳工作だろうね。事ある毎に財政破綻危機を煽り続けた。その効果で、世論調査でも国民の少なくない割合が「増税すべき」論へ傾いた。
国際機関もIMF(財務省の人間がいる)やOECDなどを使って、増税正当化論をぶち続けた。
それが自民党内の消費税増税派閥=例えば谷垣麻生など容認派が増加したことと、民主党政権となって「財務省官僚・霞が関増長」が濃くなり、野田政権時の「消費税増税を決定」付けた「3党合意」自公民の悪の結託が達成された。
野党時代の自民は谷垣総裁の10年参院選で、既に増税を公約に掲げていた。
野田総理の解散からアベ政権誕生と、消費税増税路線はアベノミクス開始前から運命決定論的に不可避だったのだ。
党内力学でも、国会内の増税派も、まんまと財務省の掌で転がされただけだ。
小泉政権が財務省に対決姿勢だったこともあり、竹中平蔵が嫌ってたのもあるし、増税論議は凍結されていた。当時中川秀直幹事長(追記;見返したらお名前を間違って秀一と記載してしまいました。お詫びして訂正します)ら「上げ潮派」が増税に批判的でリフレ派に親和的だったこともあり、13年アベ政権誕生以降にリフレ派の復権がなされた。
だが、その後竹中平蔵でさえ消費税増税派に転じたので、主流派経済学界隈では増税すべし・が「米帝のご意向」であることはほぼ間違いなかったろう。
その延長に、日銀による株(ETF)買い、GPIFも海外株・債券買いへの拡張があった。これらは、政治的要因によるもので、原初のリフレ派が主張していた金融政策とは何ら関係がなかった。
小泉政権下の元経済財政諮問会議の議員で、その後財政審の分科会座長だった吉川洋教授は、消費税増税推進派として社会的に影響を及ぼしたわけである。例えばこれ
2011年5月>
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai9/siryou3-2.pdf
消費税増税は、経済全体にほぼ中立で、マイナスには大して作用しない、という「主流派経済学の屁理屈」を構築しエビデンスとしたわけである。で、その実証はどうだったか?
アベノミクスで案の定、マイナス成長を連発したろ?
これが奴らの言う・掲げてた「主流派経済学」の戦果だったのだろ?
リフレ派がアベノミクスの失敗を招いたのではなく、大多数の経済学者が主張していた「主流派経済学」のせいだろ?
消費増税推進派は吉川教授以外にも、例えば、池尾和人、土居丈朗、伊藤隆敏、小黒一正、小林慶一郎、野口悠紀雄、などがいたわけだが、彼らは予測に反して増税後にマイナス成長を記録した事に対して、何ら反省の弁も説明も一切ないだろ?故人となられた先生は無理だけど。
リフレ派批判をやるにしろ、まずはその前にやるべきことがあるんじゃね?
分科会会長となって、更に緊縮財政と増税を言い募るが、過去の自身の主張なり分析なりの、実証がどうであったか反省したのか?
当方は、アベノミクス開始以前から、日銀の「長期国債買入の増額」をやるべき、というリフレ的政策を支持していた。
白川総裁の後任問題の時も当方は黒田総裁に賛成していたが、リフレ派標榜の田中秀臣は「嫌財務省」の歴史から黒田総裁を真っ向否定していた。
13年3月の記事
13年4月
15年9月
これより以前から、リフレ派と池田信夫のバトルを度々目にしてたが、今になって勝ち誇る姿は哀れではある。インフレ率1%が達成されたら、日本の銀行が潰れると豪語していたのは、嘘確定ということでいいですか?
12年4月
現在リフレ派やアベノミクスが批判されようとも、池田信夫の主張の正しさが実証できたわけじゃない。主流派経済学者勢の意見が正しかったとか、より正当だの望ましいだのとは、到底思えない。
むしろ、出発時点から嘘八百に等しき主張を続けていた多くの経済学者勢の方が、消費税増税を容易にした分、害悪は大きい。
当然増税推進派の池尾教授にも批判的立場だった。
10年4月
岩本康志東大教授の、国債買入を増額すると「ハイパーインフレになる」説に対しても批判的だった。
別に、リフレ派以外の経済学者勢が、実践において正しくまともであったとも思えない。屁理屈以下の主張しかできぬことに幻滅したわ。
その後も、リフレ派だけじゃなく、増税推進の緊縮財政脳の連中にも、絶望したわ。
13年9月
15年1月
増税したら、また失敗で奈落に落ちるから止めろと何度も警告したが、日本全体が無能とバカの支配する国ゆえ、案の定マイナス成長連発であったのだ。
小手先の、「たった今、目の前の数字」だけどうにかしたい、というアホというのは、増税すると「物価上昇」効果は形式的には生じるから、それをホイホイとやるわけだよ。
一時の目先だけ、成果を挙げたふりができる。そして、増税しろというバカな財界(米帝の手先)の言い分にも沿うわけで、効果剥落でまた物価指数がマイナスに逆戻りするわけです。
16年6月
16年12月
まあ、いくら嘆いてもしょうがないが。
大雑把に言えば、誰かが借金を増やすことで世の中全体に通貨供給が増えるわけだが、日本のここ25年の低迷期では民間企業がなるべく借金を減らそうと躍起になったわけです。
銀行の貸し剥がしを恐れて、手持ち現金を増やし、借入を減らして、無借金経営に勤しむ企業も多く存在した。それは必ずしも悪いことではないが、一斉にそれをやると経済規模の収縮が生じてしまう。
個人(家計)も企業も借金を減らそうとする=資金フローが黒字化してしまうので、その同額分のマイナス(赤字)を政府か海外部門が引き受けることになるのは必然だった。海外投資分が今ほど多くなかった(経年的に円高になることが数十年の経験則で刷り込まれていたから)のもあり、結果的に殆どの赤字を政府が負うことになったわけである。
他の国だと、これほど貯蓄しようと努力を継続できないんだよ。
日本人に特有の勤勉性が逆にデフレ体質を強固にし、病状を悪化させた。政府赤字が積み上がったのは、そのせいである。
賃金を上げろ、庶民にお金を持たせて使えるようにしろ、と何度も指摘してきたが、その警告が主流派経済学勢に認識されることは殆どなかった。
特に強力だったのが、竹中平蔵大臣と財界連中による「3つの過剰」、賃金が過剰(人員整理しろ、賃金下げろ)、設備が過剰(設備投資が無駄なんだ)、借金が多いのがダメなんだ、という、「雇用・設備・債務」を減らせと経済白書での豪語で、長年にわたり経営陣などに浸透してしまった。
企業が成長するのに、借入とか資金調達して、設備投資して、人材を雇って仕事をしてゆくだろ?
それを全部一斉に止めていったのさ。
だから、成長の翼をもがれたようなものだ。
高賃金の中高年をリストラして、非正規に置き換え、人件費を削りまくり、設備投資を止めて無駄部分だけ減らす減点方式経営をやり、人材育成もやめてしまえば、経済成長の原動力なんてないわけで。
多くは政府の補助金等の、見せかけの「成長戦略」という名の公金チューチューをやってた。これが2000年代からアベノミクス途中くらいまで続いたが、思わぬ人手不足という(新卒の絶対数の減少もあり)ことでブラック企業が次第に淘汰され労働環境にうるさく言われるようになって、賃金が上がってきた。
それがここ5年くらいでしょうかね。
この日銀の政策の成果としては、時間はかかりましたが、一応はインフレ率が連続でプラスを達成した。その副作用というか、代償としては通貨減価というデメリットも生じたわけだが(その水準は「いささか過剰」で人為的操作結果も疑われますね)、それはある程度想定されていただろう。
が、圧倒的に余計な政策として消費税増税があり、社会保険料の度重なる値上げで国民負担率が上昇してことも相まって、民間消費の減少(GDP上のウェイトで約10ポイント)を招き、マイナス成長~低成長の要因となった可能性を疑っている。
日本経済の体質改善としては道半ばで、高齢の病人であることに変わりはない。
主流派経済学界隈の愚かさを是正しない限り、日本人がバカのままで騙され続けるだろう。マスコミを含め、都合よく洗脳される集団であろうな、とも思う。
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