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ショートショートホラー あり

外は雨が降っている。

梅雨空、6月の夜。
エアコンを点けると寒いくらいの気温だが、止めれば湿気で寝苦しい。そんな夜だった。
「う~ん」
それでもうつらうつらと眠りに落ちそうな僕は、二の腕に何かを感じて目を開けた。
「あいた!」
何かに刺された感触があった。しかし痛みは一瞬だ。
「トゲかなにかかな?」
そう思って感触のあった場所をさすると、小さなこぶになっている。
最初は痛くなかった。でも次第にそのこぶは広がり、小さなじんましんほどになる。
痛がゆい、ぴりぴりする。これはとげじゃない。虫だ。
ライトを点けて確認する。タオルケット、シーツ。なにもいない。
そのとき、シャツの中で何かが這う感触!
急いでシャツを脱ぐと、蟻が一匹落ちてきた。
「こいつか」
シーツの上をごそごそと這う蟻を、親指と人差し指でつまんで潰した。
「ふぅ、まだぴりぴりする。でもなんで蟻なんかが」
蟻は羽のない蜂だ。蟻は獲物を刺す。そして蟻酸を注入する。
「どこから上がってきたんだろう」
刺された痛みはようやく治まってきた。もう眠れる。
「!」
首筋をなにかが這っている。飛び起きた。
枕に、1匹の蟻がいた。
「なんだこれ!」
その蟻を潰し、ベッドの上とフローリングの床を丁寧に観察した。
「いない。蟻は列で動くのに、なんで1匹だけなんだ?」
ともあれ、ベッドの上にも床にもいないのだから、もう安心していい。
寝よう。
目を閉じる。すっと気が遠くなる感触。夢に落ちる瞬間。
「!!」
「わっ!!」
目の下から耳の穴に掛けてなにかが這った。
手で払う。まただ、また蟻がいる。
「なんなんだいったい!なんで1匹?なんでベッドの上?」
また枕の上に落ちた蟻を、力を込めて潰した。
「1匹潰すとまた1匹?そんなこと、ある?」
もう一度丹念にベッドの上とフローリングの床を見る。
やっぱりいない。
こいつら、どこから。
少し怖い。
僕はライトを点けたまま、ベッドに仰向けになって天井を見つめた。
外では雨音が激しくなっている。
あ、天井にひびが入ってる。
壁からライトに向かって、黒い筋が見えた。ひびに見えた。
そのひびが、ゆらゆらとうごめいている。
「うわ!!」
ひびの正体に気付いたとき、僕の体に蟻が落ちてきた。

何匹いるのか、分からなかった。


実話です。

雨の夜、蟻は雨を避けて、家に入るのです。

ご注意を。


Photo by hamagautaki

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