ショート 隠してるのはどっちかな?
よく晴れた秋の日、放課後の廊下に出ると、階段を降りようとする君をみつけたから呼び止めた。
「あのさ!これから部活?」
「うん、今度試合があるから、今、大変なんだ」
「そっか、がんばって!」
「ありがと!!じゃね!」
朝から少し寒い雨の日、お昼にはみんな、お弁当をひろげて楽しそう。
となりでお弁当を食べてる君に、つい目が行った。
「わ、それ卵焼き?綺麗な黄色!それに、ふわってしてる?」
「これ?これね、オムレツ!ひとつ食べてみる?」
「いいの?じゃ、これあげる」
黄色のオムレツと、真っ赤なウィンナーを交換した。
「ふわふわだ、おいしいね、これ」
「この赤ウィンナーも、おいしいね」
廊下でも、教室でも、授業中も、休み時間も、君の姿をつい目で追ってしまう。
放課後、窓の下に広がる校庭で、たくさんの生徒が走ってても、君のことはすぐ見つける。
君はときどき教室を見上げて、目が合うこともある。そんなときは、慌てて目を逸らして、見てないふりをする。
購買部の自販機の横で、缶コーヒーを飲んでる君。目が合うと、ちょっと微笑んで手招きしてくれた。
「缶コーヒー?ブラックなんだ。コーヒー、好きだよね」
「うん、大好き。家ではね、ドリップするんだよ?」
「あのさ、コーヒーって色々あるよね?一番好きな豆って、どんなの?」
「う~んとね、ブレンド、かなぁ」
「え?キリマンジャロとか、モカ、とかじゃないの?」
「うん、コーヒー豆はね、種類によって味や香りの特徴が違うから、一番美味しくなるようにブレンドしてあるんだよ?だから、ね?」
「そうなんだねぇ」
君が好きなコーヒーは、ブレンド。
いろんな味と香りの組み合わせ。そうか、そうなんだ。もっと知りたいな。君が好きなもの、なんでも。
どうしても押さえられない気持ち。
でもこの気持ち、君には知られたくない。
ずっと友達だったから、君のことはよく分かる。だからなんだ、知られたくないのは。
君はとっても優しいから、この気持ちに気付いたら、きっと君は困る。それが怖くて、知られたくない。
そう思っていても、どうしても出てしまう。
少しずつ、少しずつ。
ほのかに香るように。
君を好きだという気持ちが。
家でもずっと、君のことを想ってるし、今かな?今かも?今?、君からメッセージが入らないかなって、ずっと思ってる。
ベッドに入って眠くなったら、スマホを胸に抱いて寝るんだ。
君からのメッセージに、すぐ気付くように。
明日もまた、君に会うんだな、この気持ちを隠しながら。
上手く隠せるかなぁ。
あれ?そういえば、君はどうしていつも、校庭から教室を見上げるんだろ。
どうしてだろか。
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さて、このお話は
好きな女の子に対する男の子の話でしょうか?
それとも、好きな男の子に対する女の子の話でしょうか?
どっちでもいいですね。そんなこと。