日本酒の熟成について
●江戸時代までお酒は古い方が高級だった
日本人は新物が好きな傾向があるので、新酒や、製造年月日が新しいお酒に人気が集まっています。
しかし、江戸時代、最高のお酒は9年寝かせた、熟成酒だったそうです。
今でも、剣菱などは最上のお酒は熟成酒ですし、古酒に特化した達磨正宗の 白木恒助商店さんなどは、一部熱狂的なファンがいますね。
●では、なぜ熟成酒の文化は廃れてしまったのでしょう?
現在はお酒は出荷した時に課税される「出庫税」ですが、実は明治時代の日露戦争時、政府は予算を調達する手段の一つとして、お酒を造った時点で、税金を払わないといけない、「造石税」を導入しました。
今ある在庫にも課税されるし、出荷するお酒にも課税されるので、酒蔵はたまったものではありませんね。
この時に在庫をたくさん持っていた剣菱酒造などは経営破綻して、オーナーが変わったほどでした。
当然、造ったお酒は一刻も早く販売しなければ、税金が払えないので、熟成酒の文化はこのときにほとんど無くなってしまったわけです。
しかし、近年熟成した日本酒の美味しさが見直されてきて、再び熟成酒に脚光が当たり始めました。
●熟成するとお酒はどうなるの?
歳月の経過で日本酒の中では様々な化学反応が起こりますが、一番、熟成で大きいのは、アミノ酸と糖類が結合するアミノカルボニル反応と呼ばれる現象です。
これはフランス人のカミーユ・メイラードという人が初めて研究したので、メイラード反応ともよばれています。
お酒に含まれるブドウ糖が、アミノ酸と結合することで褐色の色素を持ったメイラジンが生まれます。ですから、熟成にしたがってお酒はだんだんと黄色くなり、ついには琥珀色に近い色にまでなってしまうものもあります。
これにともなって、最初は発酵由来のフルーツの香りであったものが、だんだんとメイラジンの香りになっていきます。
メイラード反応は対になるアミノ酸の種類によって色々な香りになりますので、熟成酒の風味はアミノ酸の多寡や種類次第ということになります。
もう一つは、主に山廃造りの酒などで多く出る、独特のクセの元4-ビニグアイアール略して4VGが熟成してバニリンに変化する事が挙げられます。
最初はクセのある山廃のお酒を10年放置しておいたら、すごく香ばしい美味しいお酒になっていたなどの経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、それはこの化学反応によるものです。
しかし、生酒では、また少し事情が違ってきます、生酒は要冷蔵なので、あまりメイラード反応は進みません、というのも、メイラード反応は温度に比例して反応速度が上がるからです。つまり凍らせておくと、まったく熟成しないわけです。
しかし、生酒では酵素が生きているので、違う化学反応が起きます。
日本酒の中に微量に含まれている炭素が5つあるイソアミルアルコールが酸化して、イソバレルアルデヒドに変化するのです、すると独特の表現の難しい、風味が出てきます。
昔はこの香りはムレと言い、この香りが出たお酒は「生ひね」したお酒として、マイナス評価でしたが、現在では逆にこの香りを好むマニアックな日本酒ファンも増えてきて、一概にマイナス評価とはならなくなってきています。
また、技術の進歩は恐ろしいもので、イソアミルアルコールがほとんど生成しない麹も開発されています、「生酒用麹」と言われるもので、この麹を使ってできたお酒はほぼムレ香がでません。
●味をまろやかにする和水という現象
お酒に含まれるアルコール分子は、そのまま舌にれるとピリピリとした辛味として感じられます。
ところが、時間経過とともに、アルコール分子の周りに水の分子がひっついて、アルコールの辛味が直接舌に伝わりづらくなるそうです。
この現象を和水といいます。
ちなみに、この和水を強制的に早くするため、超音波をつかって、お酒の中の水のクラスターを分解し、和水の速度を上げる超音波熟成という技術もあります。
以上、日本酒の熟成についてお話させていただきました。
余談として、ご高齢の方の中には、「日本酒は置いておくと酢になる」と主張する方がいます。
結論から言うと、蓋をしている限り酢にはなりません。お酢の原料は、日本酒、ワイン、ビールなどの醸造酒ですが、日本酒のアルコール度数の中ではアルコールから酢酸をつくる酢酸菌は繁殖できません、ある程度アルコールが揮発して、アルコール度数が下がらないとお酢にはなりませんので、ご安心ください。
●自家熟成を楽しみたい方に
熟成はご自宅でも楽しんでいただけますが、注意点を一つ、お酒は紫外線にあたると予期せぬ化学反応が起きて、お酒の味が壊れてしまいますので、蛍光灯や日光があたらない暗い場所で保管してくださいませ。
多くの日本酒専門店の店内が薄暗いのはそういう理由なのでございます。
https://jizakeya.co.jp/bin/search_n.cgi?code=shosin.dat&OP=shoshin
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