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【声色ききみみずきん】#19 矢野顕子さんの声は、丸くてツヤツヤで強烈な意志のある生きたピアノ

「春咲小紅」などのヒット曲も多数ある、天才ミュージシャン矢野顕子さん。

ピアノを弾き始めたのは3歳から。ピアノ歴は、な、なんと61年。弾き始めた当初から、その日あった楽しかったことなどを、ピアノの弾き語りで表現していたという神童ぶり。手も足も、使えるものはみんな使って、ピアノと戯れていたそう。

凄いなぁ。

それにしても、矢野さんの声は存在感が素晴らしい。口は横に広いし、とても柔軟。鼻にかかった高めの声は、丸くてツヤツヤで年齢不詳の不思議な響きがある。

でもね、私は、矢野さんの声を聴けば聴くほど圧倒されて、少し恐怖すら感じる。意思を持った、しゃべる楽器のように聴こえるのだ。それも強烈な意志の強さ持った楽器。たぶん、すでに「矢野さん」と「ピアノ」と「矢野さんの声」が、切り離すことのできない、新種の楽器になっているのだと思う。

ピアノが意志を持ってしゃべりはじめると、矢野さんの声になる。そんな感じがする。

幼い頃から、ピアノの音を人一倍聴いて育ったことと、声で感情を表現し歌うということがセットになっていた矢野さん。まさに、「ピアノが育てた声」なのだと思う。

◆◆◆

矢野さんは、高校生の頃から東京でピアノを弾いて生活をしていたらしい。仕事が忙しくなり高校を辞めて、16歳~17歳頃からプロとして生活をしていたのだ。それは、音楽大学で系統立てた音楽教育を受けていないということ。もう、感性そのもので、弾いて歌っている。
つまり、本物の天才。

でもその一方で、技術を磨くために想像を絶する練習を積み重ねてもいる。鍵盤の間にカミソリを立てて練習をした、という逸話もあるくらい。

大人になって良かったことは、
「調子の悪い時には、練習を30分で切り上げられるようになったこと」
ともおっしゃっているくらいだから、子どもの頃からの練習量はすさまじいものだったと思う。

厳しい。そして、強烈にストイック。

かつてのパートナー・坂本龍一さんは、「彼女は、自分自身をまったく疑っていない人」と評していた。

「どんな言葉でも、どんなアレンジでも 大丈夫。  
私なら、歌えるから」

そう言いきれる人は、他にはいない。積み重ねた練習の量があるだけに、自分の音楽に対しては、ゆるぎない自信を持っている人だとも思える。

また、興味あること、感性の針が揺れることには徹底して向き合うけれど、興味のないことに関しては、まったく見向きもしない。好き嫌いが激しい。
平気で、ぶっきらぼうにもなれる。

娘の坂本美雨さんのラジオ番組に出演した時の矢野さんは、本当にぶっきらぼうで、普段着の声だった。やさしく柔らかく問いかける美雨さんに対して、「はいはい、どうもっ」という感じで面倒臭そうにしゃべっている。強い。

照れもあるのかもしれないけれど、「素」のザックリ感が出ていて、内面はかなりドライで男性的な人なんだなと感じた。娘に対する母親のジメジメ感がまったくない。

私はダメです。超ジメジメです。

いや、男性的・女性的というより、それすらも超越している感じ。
才能のあるアーティストには、こういう人は多い。

矢野さんのように、感受性のセンサーが鋭い人は、自分にとって必要なものとそうでないものの振り分けがはっきりしている。他人に好かれるか嫌われるかなどということは、どうでもいいことだし、悲しみや苦しみも、自分の表現に転化するパワーがある。

生きて行く上で、誰にも譲れない「たったひとつのもの」を持つ。
それは、ほんとうに大事なこと。揺るぎなくいられるし、存在感が増す。

枠組みにとらえられて、自分自身の感覚や衝動に嘘をつくようになると、「たったひとつのもの」を見失ってしまう。子どもたちには、それを見つけて欲しいと切に願うのだけれど。

どんなに苦しいことがあっても、その「たったひとつのもの」が杖となって、自分の存在を支えてくれる。

そして私たち大人も、かけがえのない「たったひとつのもの」を持とう。何歳になっても遅いということはない。

世界的なアーティストにはならなくても、それには、生命力を湧き上がらせる力があるのだから。

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浜田真実*朗読とボイストレーニング
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