42歳無職が生まれるまで③違和感
3か月の試用期間を問題なく乗り切り、部長からも無事にオンボーディングできた、と太鼓判を押され、いよいよ本格的に広報の仕事に取り掛かっていく、というタイミングで、それは起きた。
「マナティー君、なんか抜け殻になってない?」
他チームの先輩から、昼休み中に唐突に言われたこの言葉。
最初は正直「え?」という感じ。身に覚えがなさすぎて。
確かに試用期間の3か月間、オンボーディングしようとがむしゃらにやってきたとは思う。
実際に、3か月の中でできる限りの結果を出したと思う。
それについては他チームのメンバーも含め褒めてもらったし、その手ごたえを頼りにこれからの職務に当たっていくつもりでもあった。
そして、それは「試用期間」が終わっても特に自身の気構えとしては変わることはなく、より頑張っていこうという想いしかなかった。
「抜け殻」
自分ではそんな風に思ったことは1mmもなかったのに、その言葉を突き付けられると急に不安になる。
「私、頑張れてるよな?」「私、調子にのってないよな?」「私、皆に認められたよな?」
そんな迷いが、唐突なその一言によって次々と生まれてきた。
私に「抜け殻になってない?」と声をかけてきた他チームの先輩は、言わばお局的な存在で、色々な意味で「声が大きい」人だった。
その人が「やりたくない」と言えば、たとえ部長でもコントロールすることはできない。
その人が「彼は早く辞めてもらったほうがいい」と言えば、全体にその空気感が充満する。
そんなご意見番的な先輩から「抜け殻になってない?」と言われれば、その周囲の人もおのずと「こいつ抜け殻になってる?」と考える。
私自身、何も変わらないのに。
むしろ、これからより頑張ろう、と思っているのに。
今思えばあの一言は、試用期間を終えた私に対するハッパの意味があったのかもしれない。
ただそれは、その一言を聞いていた周囲の人間をあまりにも大きく動かし、急速に環境を変化させていった。