まちがいだらけのヘッドホン選び(6)~とりこぼし総ざらえ、そして音の感触を語る言葉たち~
前回までのあらすじ
https://note.com/hamachiichiban/n/n44ef47472fae(注意書きあります)
ひろし君をほったらかして、おじさんと店員さんはハイレゾについて、また圧縮音源が一般化した時代、ハイレゾ信奉の跋扈する時代におけるCD軽視の風潮について、談義をつづけるのでした。
しかしついに、精神世界から帰還したひろし君が、ヘッドホンの試聴をはじめるようです・・
第6章:何度でも何度でも何度でも立ち上がり店員を呼ぶよ
6-0 ヘッドホン・インプレッション
ひろし君が、つぎつぎとヘッドホンを手に取り、もってきたスマホに繋いでは、音を確認しています。
「うん・・・・・・・・・・・・側圧はちょっと強めだけど、パッドが低反発で中和してるね。音漏れしないし、長時間つけてても大丈夫そう。中高域強めでキラキラ系、煌びやかな感じ、女性ボーカル向けかな。密閉型でこれだけ音場広いのは価格帯的にかなり買いだね。定位も正確だけど、あくまでハイ寄りでリスニング向けなんでそこは間違えないで」
「うん・・・・・・・・・・・・すごい。いますね、バンドが。立ち上がりも早いし、キレもいい。オープンエアーならではの音場の広さ。でも低音もしっかり出てて、ガッツのある音です。ちょいボトムよりのフラット。なんでも合いそうですね。もっと新しいジャンルを聴きたくなる音」
「うん・・・・・・・・・・・・ウォームだね。優しい音。ちょっとカマボコかな、カマボコ寄りのフラット。声重視の人に推したい。これでゆっくりジョアン・ジルベルト聴きながらコーヒーブレイクとか、最高だよね。休みの日ならモヒート。極上。音圧を感じられて、演歌とか浪曲にもオススメです」
「うん・・・・・・・・・・・・これもウォームだね。すごく暖かい。冬場にいいね。パッドがいいのかな?マフだよね。いいね。眠たくなってくる。幼馴染の手のひらに覆われてるような感じ。息遣いを首筋に感じる。ファントム息遣い。48Vかな」
「うん・・・・・・・・・・・・これはドンシャリ。だいぶ下半身が太って、ドンドンドンシャリくらいな。はま寿司だね。シャリハーフ。くら寿司かもしれないけどね。回転寿司好きの方にオススメです。空間オーディオで回ります」
「うん・・・・・・・・・・・・クールめだけど、とにかく解像感がすごい。モニターライクだけど、丸みもあって、音場も広いからクラシック向けかも。オーケストラのひとりひとりが見えるわ・・ヤバいねこれ、いま指揮者入ってきたもん・・演奏はじまってないのにあんなに音像見えてた。こわいです。もうこわいです」
「すごいよ。・・・・・・・・・・・・これがイマーシブオーディオってことだね。真価を発揮してます。まさに没入感。DSDはPCMに変えてもこういうところで生きてくるね。なるほど、ボーカルは上に定位か。でメインギターとサブギターで左右振って・・あ動くね。動いてるね。すごい動いてるね、ボーカルも。わぁぐるぐるだ。ええ?前から奥?奥から前?残像?分身?すごい、これDSD?もうLSD?すごいサイケデリックなんですけど。クるって。クるってマジで。あーお母さん!おかぁさぁーん!
LOVE & PEACE!!」
6-1 音のひろば│空間オーディオ・イマーシブオーディオ/音場/音像/定位/分離
ロックの歴史にドラッグはつきもの。
ひろし君はレコード好きが憑依し、レコード愛のあまりアカシックレコードにアクセス、知らないワードをこぼしていたようです。
以下、見ていきましょう。
「空間オーディオ」(Spatial Audio)
または「イマーシブ(没入)オーディオ」(Immersive Audio)
というのは、立体音響のこと。
映画の5.1chサラウンドサウンドが進化しつつ、音楽のほうにもやってきた、と考えると簡単です。
まず5.1chってなんだっけ。というと、スピーカーが5個+低音用1個あるシステム。
それぞれ「真正面」「右前」「左前」「右後」「左後」+「低音(正面)」と配置して、映像にリンクした立体感・迫力ある音が聴けます。
単に目の前に左右のスピーカーがある感じではなく、立体感をもってわたしを包む。後ろも回ってくる。囲む音(surround sound)というゆえんです。
映画は5.1chからさらに進み、2012年から「ドルビーアトモス」(Dolby Atmos)対応作品も登場。
ゲームも登場。XBox One Sやプレステ5で聴けますが、
これはスピーカーが上に増えたりして7.1chになってたり、というかそもそも動かすシステムが違うから2chでも(=ヘッドホンでも)これまでとぜーんぜん違う音が出せたり、だそうです。
ホームシアターにも進出して、これも「ドルビーアトモス」や、DTS社の「DTS:X」などがあります。
そうした、さらに立体感をもって、聴いてる人の周りの空間にどう音を走らせるか、という研究と進歩がある。
で、その立体音響を音楽で、イヤホン・ヘッドホンでも楽しめるようにしたのが「空間オーディオ」です。ジャンル名でもあり、アップルのサービス名でもあります。
実装したストリーミングサービスでは、各社の規格があり、名前が、ちがいます。「ドルビーアトモス」は音楽にもあるし、ソニーだと「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」、といった具合。さっきも言いましたがアップルはドルビーアトモスをもとにした「空間オーディオ」。
アメリカの有名アーティストは新曲でステレオ=2chだけじゃなく空間オーディオ用のミックスを作ったり、
過去の有名曲が新たにミックスされたりして、提供されています。
以下の動画は(知らない会社だし空間オーディオの見本にしていいのか?と思いつつ)「ボヘミアン・ラプソディ」を3Dオーディオにしてみたもの。
フレディが舞台をうろちょろしてる画しか浮かばないけど・・。
広がった(抽象)空間をどう作品として使うか、ということですね。
で、空間空間といっていますが、オーディオを聴く分には、もとから空間はありますね。それが「音場」(おんば・おんじょう)。音の広がっている場所。
またそこから意味が広がり、音源を聴いて感じる「仮想の、音が鳴り響いてる空間」もさします。こっちは「音場感」と言いかえる人も。
単純にいうと、エコーがかかっていると、空間が広めに感じられたりしますね。密閉のヘッドホンだとこれが狭くなって、なんなら頭の真ん中に小っちゃいバンドが入ってセッションしてる・・ような感覚を知ってる方も多いのでは。
逆に、密閉ヘッドホンでも部屋いっぱいに鳴っているように感じられたら
「音場が広ーーーーーーーーーーーーい!」
と叫びましょう。
さて、音場のなかで、1つずつの音そのもの、また音を出してるものを「音像」(おんぞう)と呼びます。ボーカルとかギターとか。
そしてそれの位置取りが「定位」(ていい)です。
ボーカルが真ん中らへんにいて、ギターが右で・・とか、音を聴いてなんとなくわかりますよね。それです。ステレオは音に左右差があるので、それによって立体感は出るのです。
視界でいえば、両目でものを見て立体感を把握していること、片目をつぶると物の距離感がわからなくなる・・それと同様です。空間オーディオを3Dオーディオと言うときもあるので、ますます3D映画との近似で思い浮かべやすい。
「定位」がしっかりしてる=「音場」の中の「音像」の配置がよくわかる、ということ。
→よってゲームをするとき、定位がいいと敵の接近方向などもわかりやすい・・らしいです。
そして、これら「音像」一つ一つの「定位」がクッキリして他とぶつかってないのを、
「分離」(ぶんり)が良い、と言います。
6-2 ハイレゾor高音質系のつづき│MQA/DSD/LSD
MQA(Master Quality Authenticated)は、ロスレス圧縮の規格のひとつ。スタジオでマスタリングした状態(マスター版)の品質を聴ける・・それは「原音」ってやつじゃないか!?
しかもそうとう圧縮率が高い=ファイルが小さくでき、ストリーミングでも流せる。という評判。
CDにもできて「MQA-CD」というのも売られています。ふつうの機器でもCD音質で再生できて、対応機器だとポテンシャルを発揮。
CD、ファイル、どちらにせよ、対応してないと聴けないので注意。
DSD(Direct Stream Digital)は、ハイレゾの録音方法&データ方式のひとつです。
以前言ったハイレゾ方式は、CDの(PCM)方式をパラメーター上げてすごくしたった、やつですが
DSDはパラメーターがだいぶ違います。
PCMハイレゾ(一例):24bit / 96kHz
DSDハイレゾ(一例):1bit / 2.8MHz=2,800kHz
1ビットて、ふざけてんの?
行き切ってやる気をなくしたのかと一瞬思いましたが、音をキレイにサンプリングすること、の取り組み方が違うんですね。
音は空気の疎密波、といいます。ガラガラな部分とギュウギュウの部分の繰り返しで、波のようになっている。
だから、その「疎」と「密」を目茶苦茶細かく0と1で記録していくと、できあがるみたいです。だから1ビットでいいと。
音としては、アナログの丸み・温かみが出てくるそうで、
こちらの方式でのCDは「SACD」(スーパーオーディオCD)となっております。
これ自体は対応再生機器が必要なんですが、多くはディスクを2層にして片方がDSD、もう1層にいつものCDデータを入れて、両対応にしてたりします。
詳細はこちらから。おてあげ。
「LSD」(Lysergsäurediethylamid)は幻覚作用をもつ麻薬のひとつ。
ビートルズ、フラワージェネレーション、ヒッピームーブメント御用達です。逮捕されますけど。
そんな精神拡張をこころみなくても、ぼくらにはもうDSDがあるのだから・・・・
6-3 ケーブル接続方式とプラグ口径 │ アンバランス接続・不平衡・シングルエンド/バランス接続・平衡・差動(ディファレンシャル)/6.3mm/3.5mm/2.5mm/4.4mm/リケーブル
ふつうに使ってたイヤホンジャックが、
「それ、アンバランスですよ」
と、いきなり言われてしまいました。なにさ。
それは、音響ケーブルなどでは普通だった「バランス接続」が、ここ数年?にわかにヘッドホン・イヤホンでも人気が高まったせい。
これまでのものは「アンバランス接続」だったんですね。
「バランス接続」にすると、音像がクッキリして定位が見えやすくなるとのことです(やったことない)。好みは人によるけれど、バランスはいいぞ、と言う勢は多く。
何が違うかというと、プラスの信号とマイナス信号を、ヘッドホンの左右それぞれで伝送しているのが、バランス接続。
(アンバランスはマイナスが左右一緒くたになる)
そうするとどうなるかというと、ノイズ防止になる。
そらなぜか。
これノイズキャンセリングの説明とほぼ同様みたいです。
音楽が機器から、プラス(正相)とマイナス(逆相)になって流れてきます・・そこにそれぞれどうしてもノイズ(これは正相)が乗ってきますね。
さあ、ヘッドホンに着いたところで、マイナス側をここからさらに逆相に、くるんとひっくり返します。すると、
で、この2つを合成すると・・
ということ、だそうです。
これをするには、再生機器側でバランス接続の仕組みがある≒差込口があることと、ヘッドホンのケーブル(と受け口)がそうなっていることが条件です。
先っちょだけ変換差してできるものじゃありませんので注意。
で、現在このバランス接続の端子は、φ(直径)4.4mmのプラグに、規格統一しようとしているそうです。
ただ、まだ2.5mmでバランス接続などもあるので、よくよく見てくださいね。
・6.3mm 標準
・4.4mm バランス用規格
・3.5mm ミニプラグ
・2.5mm ミニミニプラグ
アンバランス接続の紹介をすると、これ「標準プラグ」直径6.3mm。
太くて、一般人としては「標準」じゃないですね、スタジオ系です。
普段使いのほうは「3.5mm」。
3.5mmと6.3mmはカポッと差して変換するプラグが当たり前のものとしてあり、行き来が簡単。
そのノリでバランス接続に行こうとしないように、くれぐれも。ショートするらしいので。
あと「バランス接続」ってワードで検索すると、オーディオ・イヤホン系のここ数年の流行が出てきますが、
同じ意味の「平衡」で検索すると、もっと理系のガチの、接続方法に関する商売っ気のない研究報告あれこれが出てくる。
こういうのすごく大事と思いました。
ともかくバランス接続をしてみたいなら
再生機器を持つことと
バランスケーブルのヘッドホン、もしくはバランスケーブルへ変えられる(「リケーブル」可能な)ヘッドホン、を選びましょう。
6-4 音を表現する言葉たち
ウォーム、キラキラ、解像感・・・・・・
いろんな言葉がありますが
なんとなくです。
Don't think, feel!
なんとなくわかるでしょう。
あふれだす音感のインプレッション&ディスクリプション
ヘッドホンに開眼したひろし君が、さいごに選ぶものはいかに?
次回最終回 なにをきいても音場にチャーリー・パーカーがあらわれるんだ、おじさん につづく。
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