惑星
「あいつまた遅刻だってさ」
「また?今月もう3回目だぞ」
僕を詰る声が聞こえる。
僕は周りの人と睡眠時間が異なる。その為、なかなか社会に馴染めずにいた。
それは今に始まったことではなく、学生生活でも同じだった。
同じような理由で、よく先生からは「規則正しい生活をしましょう」と言われていた。
僕だってできるならそうしたい。
だけど体が言う事を聞かない。
みんなが眠れる時間に眠れず、みんなが起きれる時間に起きれない。
病院で薬を出してもらったこともあるが、無理矢理寝て無理矢理起きているせいか、すぐに体調を崩してしまった。
「どうせ寝る時間削ってゲームでもしてるんだろ」
「起きる時眠たいのなんか俺だって一緒だっての」
一緒なわけがない。怒りが込上げる。
何年も悩み苦しんでいる僕を笑いながら白い目で見ているやつらに僕の気持ちが分かるはずない。
歯を食いしばって仕事を続ける。
しかし、どれだけ覚醒作用のある栄養ドリンクを飲んでも、眠気覚まし効果のある目薬をさしても、瞼が落ちてくる。
「今度は居眠りかよ」
「呑気なもんだな」
呑気なもんか。僕の必死の抵抗は傍からは分からないらしい。
上司に肩を叩かれて目が覚めた。いつの間に眠ってしまっていたのだろう。
また叱られてしまった。今月5度目だ。
どうしてぼくはこうなんだろう。
みんなと同じように眠れて同じように起きれたら、こんな苦労はしなくてもよかったはずだ。
家に帰った僕は疲労困憊だった。そんな僕を迎えてくれたのが同棲している恋人の穂志香だった。
穂志香は「今日も顔色が悪いよ、やっぱり別のお医者にかかったら?」と優しい声で僕に言った。
僕が首を横に振ると「じゃあせめてご飯食べなきゃね」とリビングまで手を引いてくれた。
穂志香は学生の頃に出会い、僕の特性に理解を示してくれたたった一人の女性だった。
「だってあなたはおもしろいもの。こんな言い方は失礼かもしれないけど…」
穂志香は宇宙や惑星のことが好きで僕の睡眠時間についても「だってあなたが別の惑星の人だったら、ちょうどピッタリの睡眠時間なのよ」と教えてくれた。
僕はそんな穂志香の話を聞きながらその惑星のことを想った。
僕にピッタリの睡眠時間の惑星…。
その惑星なら僕みたいな爪弾きものでも、苦労なく生きていけるのだろうか…。
「いつか行ってみたいな…地球」
そう呟いて僕はまぶたを閉じた。
END【火星より】
マイノリティである非24時間睡眠覚醒症候群と、マジョリティである定型発達の入れ替わった世界線の話です。
火星では25~6時間周期だと聞いたので。
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