かな入力をはじめてみる
最近、ローマ字入力をやめてしまいました。
思えばMSX2の裏機能を使って以来だから、もうかれこれ四十年ちかくローマ字入力とは付き合ってきた。
特に、MSX2+を買ってもらってからは、ワープロソフト「文書作左衛門」のお世話になりっぱなしで、ラジオドラマの脚本から学校の宿題まで、ありとあらゆるテキストをローマ字入力で書き続けてきた。
大学にすすんで一人暮らしを始めてからはパソコン通信を覚え、冗談抜きで毎日十時間はチャットをしていた。もはや病気である。自覚はしている。
もちろん、それらは100%QWERTYキーボードのローマ字入力で書いた。叩きすぎて壊したキーボードは数しれない。
だから自慢じゃないがキー入力は速い。チャットでは考えるスピードで書けるし、議事録をとったり、講演会の内容を書き留めて記事に起こすのにも困ったことはない。タイピングゲームは入荷日に初見ワンコインクリアしてた(多分イージー設定だったのだと思うけど)
そ・れ・が、である。生意気にも「一生モンのキーボードがほしいな」などと考えてHappy Hacking KeyBoard(通称HHKB)などを買ってしまったのが運の尽きである。
(HHKBが本当に一生モンかどうかの議論はここではしない)
ただ、この手の「よいキーボード」は……
両手をホームポジションに置くことが大前提
なのである。
あなたのキーボードにもFとJのキーの上にポッチがついているだろう。そこに両手の人差し指を置くのがホームポジションだ。今日日は小学校でもならうとか。
僕のキータイプは小学校からの我流である。画面も見ないで好きなだけタイプしてきたが、指の分担はメチャクチャである。BとかYなんか右手で打ったり左手で打ったりする。単語によってコロコロ変わるのだ。例を上げてみよう。
■ババア→右手の人差指でB、左手の薬指でA
■よくやる→最初の「よく」は左手の人差し指でY、あとの「やる」は右手の人差し指
ホームポジションから指が離れまくりなので、元の位置に即座に戻れない。これでは瞬間的に速い打鍵ができても、長い文章を書き続けるとミスタイプだらけになる。思い返せば実際にそうだった。
また、HHKBはキー配列のカスタムによって、よく使うキーを置き換えて、なるべく手をホームポジションから動かさずに様々な操作ができるようになっている。これを利用しないのはもったいない。
ローマ字入力っておかしくない?
脚本を書いたり、ラノベを書いたりする人には心当たりがあると思うんだけど、キーボードで一番叩くのはカギカッコなんだよね。あとキャラの名前。
僕が本格的に文章を仕事にしはじめたときは、MacのUSキーボードを使っていた。US配列のキーボードはカッコが横並びについていて、カギカッコが二本指でサクッと打ててよかった。しかしいろいろパソコンを買い換えるようになると、今度はJIS配列キーボードが多数派になってくる。(というかパソコンについてくる)……これがクセモノなのだ。
JISキーボードにはカギカッコが縦についている。これをホームポジションから打とうとすると、右手の小指がうまく動かなくてフルフルするのである。(やってみてほしい)
あと、キャラの名前だ。僕が書くようなライトな作品には、あ段を使うキャラクターが頻出する。アキラとか神田とかマリアリアとかアズマとかニャン田とか……軽く列挙してみたら、本当に多い。我ながら呆れる。
つまり、ローマ字入力を使っているかぎり、Aのキーを左手の小指で叩き続けることになる。これってけっこう辛くない? 僕は長らくAのキーは薬指で叩いていたので気づかなかったが、真面目なタイピストは相当辛い思いをしてたんじゃないかしらん?
そこで僕は「親指シフト」という入力方式に出会う。
うん、まあ、僕もいい歳した骨董品のパソコン少年なので、親指シフト式日本語入力が何であるかは知っていますよ?
正確にはウィキペディアでもみていただくことにして、ざっくり説明すると、複数のキーを同時押しすることで、「ワンアクションで一つのかなを入力する方式」である。かなは日本語の使用頻度にしたがって配置されていて、簡単に入力できる文字だけでかなりの日本語が入力できるというふれこみであった。
富士通のワープロ「オアシス」が高級品で高嶺の花であったころ、ワープロに触れる著名人がこぞって使っていたらしく、僕の世代にとっては憧れでもあった。
まあ、その後は一太郎などパソコン用ワープロソフトに押され、シェアは激減し、現在はほぼ絶滅していると言っていい。
なにしろ、最近「富士通がついにサポートを終了したというニュース」で、その存在を思い出したくらいである。
ともかく指に負担がかからないという噂を聞いて半月ほど練習してみた。
そして挫折した。
そもそも新しいことを覚えるのは嫌いじゃないので、キー配列はすぐにおぼえられた。3Dプリンターも持っているので、親指シフトに必要な、二つに別れたスペースバーもすぐに自作できた。
だが問題はまったく解決しなかったのだ。それは……
「タイピングに気を取られて、肝心の文章が考えられなかった」のである。
確かに親指シフトはキー配列がよく考えられている。
「弟の運転は安心」とか「沖のヨットに乗る」とか実用的な日本語がサクサク打てる。
ただ、僕にとっては、効率のいい指さばきに気を取られすぎて、「次に何を書きたいか」が後回しになってしまうのだった。
妄想してみる
どうせ僕の書く文章なんてほとんどコメディ漫画の台本である。ディオニソス的混沌とか、プリマ・ポルタのアウグストゥスとかいう単語は頻出しない。なんちゃって、とかなんとか、あるとかないとか、してたりてしなかったり、いいじゃん、だめじゃん……そんな単語が跳梁跋扈するアホの世界である。
アホは言い過ぎとしても、そもそも脚本には、そんなに難しい単語は出てこないのが普通だ。話し言葉に小難しい言葉を使われても、聞き取るほうが迷惑だ。
僕の勝手な妄想だが、ワープロは当初、手書きの原稿を清書する専用の機械として生まれたのではないだろうか?
オジサンの上司が「これワープロしといてョ♥」とか言って汚い字の手書き原稿をわたす。それをOLさんが富士通のOASYSできれいな書類に……(個人の妄想です)
なにが言いたいかというと、憧れの親指シフトも、僕の「ローマ字入力できなくなっちゃった病」を改善するにはいたらなかったのである。
(ホームポジションに手を置く癖はついたけどね)
世は配列多様性時代
……らしいです。もう何年も前から。知らなかったのは僕だけらしいです。
ふつうのキーボードで親指シフトしたり、Dvorakにしてみたり、飛鳥とかorzとか、みんな効率的な配列や入力方法を模索しているそうなのです。知らなかったのは例によって僕だけのようなのです。
さらにはキーボードのスイッチや基盤をキットで買ってきて、ファームウェアを自分で書き換えたりできるそうじゃないですか。そんなことができるならAndroidでもiPadでも、なんならラズベリーパイでも好きな配列で仕事ができるじゃないですか。
……あのpomeraに熱狂して使いまくった時代も遠い過去となってしまうのですね……。
というわけで、いろんな方が様々な哲学やコンセプトでキー配列や入力方法を考案して提唱してくださっているのですが、タイピングコンテストに勝てそうな効率とかは興味ないので、「薙刀式」というのにチャレンジしています。映画監督で作家(とおよびしていいのかな?)の大岡俊彦先生がご自身の執筆経験を反映する形で作られた入力方式です。
利点などを上げるとキリがないのですが、とにかく物語が書きやすい!
大岡先生の脚本論なども「なるほど!」とか「我が意を得たり!」とか叫びながら拝読しておりますが、本当に話し言葉が書きやすい。
僕の感覚としては、文章を考えるとき、大事な難しい部分+書きなれた話しやすい部分、って感じでやることが多いと思うんですね。
例として「試行錯誤してみる」とか書くときですと、明らかに前半部分のほうがよく考えて選んだ語彙で、後半はその補助ですよね? 僕は今、肩を痛めているので、入力する速さにはあまり関心がないのですが、肩を痛めて? いや、壊して? 病気の後遺症で? と文章を練るのは前半部分。後半のいるので、いたりして、痛めちゃったりなんかとちゃったり、そういうのは脳をあまり使わずに勢いとフィーリングで書いてるわけです。(前半と比較すれば)
この大事な部分をゆっくり入力して、サラッと書く部分はキーボードの叩きやすい部分に配置されている。これが僕の思う薙刀式の魅力なのです。
肩が痛いくせに三千五百字以上も書いちゃった
明日の仕事に影響があるとは思いませんけどね。ワンアクションで一文字なので、見た目ほどは指を使っていないので。
正確には、僕は薙刀式V15D2配列をちょこっとだけ改造して使ってみています。漫画には♥がよく出てくるので、一部のコンビネーションを♥に変更したり、今書いている作品には迫さんというキャラクターが登場するので、スペースバーの横のかなキーに「さ」を追加したり。(元の位置にも残してあります)
迫さん、迫様、さ、迫の野郎! 今作の間だけは右手の親指で叩けると便利そうなので足しました。余計な追加かもしれないので、ササクレと呼んでます、「さ」だけに。
寝込んでばかりいたけれど……
入力方法の探求に「ゴール」はあるかもしれないけど、「正解」はないのだなと気づいた、ここ数ヶ月でした。
(ソファに寝そべったまま、痛み止めを飲んで朦朧としながら、この配列を五日で覚え、このエントリを二日でかきあげたことを後々のために追記しておきます)