糟糠の妻、ダンナを捨てる。その4

こんなことになってから当然周りに相談というか愚痴をふりまく。恥も外聞もない。これはおばちゃんの特権だ。コロナ禍で深夜のファミレスもなければ時短でどこも閉店が早いので真っ昼間からボヤくのである。そして「離婚する!」はいつもの数倍効力があり、ちょっと遠ざかっていた友人の距離をあっというまに縮めて再会を果たしてくれる。

そして妙にリアルな助言の数々。例えば友達のダンナさんは単身赴任に行った先々のスナックの女と恋に落ちる。毎度のことで空いた口が塞がらないがいつも許してあげているわけで。その奥様である友人の見立てが怖い。
(その女さ、前から知り合いなんでしょ?きっと前からハルカさんに意地悪仕掛けてきてたりしない?気づかなかっただけで。)
さらに(探偵つけたら面白い結果になるかも!?)ひえー!ダンナはびっくりするくらい昔から性欲のないお方だとは思っていたけど実はよそではブイブイ言わせてる説!?めんどくさいくらいちゃんと帰ってきてご飯食べてたけど、実は?気持ち悪い〜!あの女と?マジか?ナイナイナイナイ!そこまでダンナの威厳を貶めたくない!(笑)

またアカデミックに生きている友人からは、(まずは弁護士さんに相談した方がいいわよ。それからご主人がその女性と性的な繋がりがなかったとしても、妻の尊厳を踏みにじったと言うことで慰謝料も発生するはずよ。)と言われ

不動産屋さんを経営している友人からは(女性は絶対に持ち家から去っちゃダメよ。勢いでハンコもついちゃダメ。とにかく一番の財産である家を明け渡しちゃダメなの!そのまま住むにしてもお金に変えるにしても)と力説される。

そしてある友人からはこう言われた。(あんな美形な子どもたちを産んだだけでも女として大成功だって胸張んなきゃ!)それは眼から鱗だ。

そんな心強いコメントが続く中、最もポジティブで説得力のある意見をくれた友達がいた。長い付き合いの男友達である。(ハルカはさ、外見や職業に惚れて一緒になったんじゃないじゃん。俺に言ったの覚えてる?「あの人目が違うの」そう言ってたよ。才能に惚れて並々ならぬ覚悟の上一緒になって支えてきたんじゃない。それをむざむざと捨てちゃっていいの?30年だよ?あっちは花形の職業で成功しているから次のお相手すぐ見つかるだろうけどハルカ、あなた歳ばっか食っちゃって一生一人でいいの?離婚なんてばかばかしいからやめときなよ。とはいえ君はいつだっていい選択してきてるから無理に止めはしないけどね。でもさ成功したって簡単に言っても支えてくれる人がいなかったら本人の才能や努力だけじゃそこまでいかないからね。ハルカはやっぱすごい女だよ。)

めちゃくちゃ褒められて気分良くして途中久しぶりに洋服買ってウキウキで家に帰った。ダンナの稼いだお金でしょ?そう思われるかもしれない。でもこれは私の副収入で買ったもの。今までだって大して自分には使っていない。子育てなんてそんなもんだ。

その晩話がしたいからと呼び止められる。これが間違いの始まり。正直者の私は大昔から知っている友達に会っていたことを告げる。どんなふうに言われたの?と聞かれたからありのまま伝えた。

「私はあなたの才能を買って長年パートナーとして支えたのだから今その座を明け渡したら一緒にいい作品を世に送り出せなくなっちゃうよ!」

そう言われたことを告げると静かに笑いながらいつもの斜向かいの席に座るように言われた。そして笑いながらこう言ったのだ。

「バカじゃないの?ホント頭悪いね。お前のことなんか一度もパートナーと思ったことなんかないよ。会社から払ってる給料だって別にやってもらってることに対しての報酬じゃないし。

お前なんか、ただの税金対策だよ。」

人生詰んだ瞬間だった。話し合いと言う名の言ったことを論破されてマウント取られておとしめられる。子どもの前での言葉のリンチだ。これで親権は私にはこないだろう。

 何があっても時間は返ってこない。せめて取るものをしっかり取って精神的にも離れなきゃダメだ。背筋が寒くなった。もう取り返しのつかない30年。一体何やってたんだろう?

地獄に堕ちろ!と私の頭の中のちっちゃい悪魔が悪態をついた。アホらしくなってため息をついた。悪態くらいついてもいいでしょ?あーあ!たまんねーや!その日は一晩中私の頭の中のちっちゃい悪魔は大忙しだった。

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