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糟糠の妻、ダンナを捨てる。その2。

離婚の原因が愛情のもつれだった場合意外と話は簡単なのかも知れない。もしそうなら誰もがうらやむ美女と浮気をしてくれた方があきらめがつく。なんだったら「すまん!好きな男ができた!」なんて言われたら1ミリも勝ち目がない。その時はいさぎよくお別れができるだろう。何が簡単って相手に非があるわけだから慰謝料がもらえる。(この際、お金があって払う甲斐性があると仮定させてください〜)

性格不一致そんな不確かな薄らぼんやりした理由も面白い。「性格の不一致?それはとどのつまり飽きたってこと?」なんて自分だって離婚するくせにそれは棚に上げて他人の離婚には毒を吐くかもしれない。

だいたい三十年以上共に過ごしてきてまさか離縁する時が来るとは思ってもみなかったし、それはお互い様だろうと思う。とにかくもかくにもそれは突然やってきた。

初めて会ったのは彼が学生で「明日グラフィックデザイナーの会社にバイト面接に行きます!」というフレッシュな時。当時私は行っていた専門学校も中退しすでにそういう業界の周辺でアシスタントをして頑張っていた。彼と同い年ながらちょっと上から目線で「あ〜あの会社女の城って感じでちょっと面倒なとこあるけど夢に向かって頑張ってね〜」なんて言いながら実は一目惚れ。まあお互いにそういう感じだったのだろうか、初デートは大学の学園祭、時々彼のサークルの部室に遊びに行ったりして自分の人生では望まなかった大学生活を擬似体験して楽しんだ。そして実家が嫌いで嫌いで仕方なかった私が彼の住むワンルームに転がり込むのは時間の問題だったのです。いや〜こうして書いているとほんとに大好きだったし楽しかったなあ。恐ろしく俯瞰のまま他人事のように回想している私でした。

付き合いだしてからは彼が夢に向かって余計な心配しなくていいように私はウエイトレスのバイトを増やしました。当時はいろんなことがシビアではなかったせいもあり、仕込んであったのにさばけなかったハンバーグやオーダーミスで捨てるしかなかったピザ、売れ残りのパンやケーキをその日のバイトで山分けして持って帰り、私たちは食いっぱぐれずに日々幸せな同棲生活を送りました。私だけ自分がやりたかった仕事から遥か遠ざかってしまったのに恋は盲目。気がつきもせずバイトに明け暮れ、浅はかな若者にありがちなより時給の高いバイトをハシゴするようになったのです。

あ〜あ、何やってんだか。自分の人生だけはせめて自分だけは愛でてあげようと思って書き口調まで丁寧にしちゃったよ。

それでも3年前まではたった1度のケンカからの家出をのぞき、言い争いもなく人もうらやむ夫婦だったのには違いなく。ぽわわわわんと甘く思い出すのは彼の仕事が軌道に乗り始め若手として頭角を現し始めた忘れもしない1998年の春。この時はたとえアルマゲドンがあったとしても私たちだけは大丈夫そのくらいの思い込みで日々過ごしていた乗りに乗り始めた年でもあった。彼にハワイはマウイ島に連れて行ってもらったのだ。久しぶりに取る長期休暇。彼は出張先のロサンジェルスから、私は成田からの現地集合。ほんとに楽しくて幸せな2週間。何度もハレアカラの山頂までドライブしたりサーフィンのメッカの岬まで行って地元の男の子たちが楽しむ姿を見学したり。今でも忘れない。その中の超イケメンの男の子がものすごい笑顔で”Hello!"と言ってくれたはいいけど彼の履いている白いサーフパンツは水に濡れてスケスケで丸見えだったこと。それっきり崖の上から覗き込んでみていても彼がサーフボードに寝そべってパドリングしていてもお尻にしか目がいかなくなって隣で一緒にみていた彼と笑い転げた。他にもレンタカーから降りようとして鍵の部分を触ったらなんか硬くてよくみたらサソリだったり。慌てて現地の友人に連絡したら「あ〜日本で言うところのゴキブリの扱いですから。毒もないし無害なんでサンダルで叩いて潰してください」とのことだった。もちろん潰しはせずにリリースした。あ〜あ。楽しかったなあ。若いって何やってても楽しかったな。

そうそう、たった1度のケンカからの家出。この時の理由も仕事だった。だんだん出世して周りもきらびやかになっていく彼。私はと言えば自分のやりたかったことなんかとうとうそっちのけになりバイトに命をかけて気を紛らわしていた頃。それをなじられた。今まで払わせた金は今すぐ返すよ、いや私が返してほしいのはお金じゃなくって時間だ!なんていう言い争いの結果、『1週間考えさせてくれ』と言って幼なじみのワンルームに逃げ込んだ。別れる気まんまんだったのに途中当時流行っていた外国のミュージシャンのライブに無言のまま二人でいき帰りは幼なじみの家まで送ってもらうというあたまのおかしい行動も挟みつつ、、、、当時を振り返って幼なじみは言う。

「あんたさ、あの時なんて言ったと思う?1週間考えてやっぱ彼は目の色が違うから、帰るね!だよ。あ〜んなに散々楽しく私たち過ごしたのにさ、あっさりあんた帰ってったのよ。さすがよね。」

ああなんて懐かしいんだろう、、、勝手に思い出に浸ったまま、、、

つづく

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