ポルカドットの憂鬱(2008)
「困ったときのドットタイっていう話知ってる?」
オフィス近くのオープンカフェで部下の相談事に付き合わされた。気になる男性の誕生日プレゼントにネクタイを贈りたいが何がいいかアドバイスしてほしいという。そこでこんなウンチクを持ちだした。
ドットタイとは別名水玉模様のネクタイのことで、ネクタイ選びに迷ったらドットタイをはめていけば外すことはない。いわゆる無難でオールマイティーなネクタイだ。個人的にはストライプのカラーにこのドットタイをはめるスタイルが一番気に入っている。
「これは男側の話しだけどプレゼントにも効果はあると思うよ」
ドットタイですねと部下は復唱して微笑んだ。
数日後。
再び、同じオープンカフェで部下に呼び出された。アドバイス通り、ドットタイを贈ったらしいのだが。
「クールビズを推奨しているからって言われて」
どうも意中の男性の職場ではネクタイをはめないということらしい。
「何件も駆け回ったのに‥」
部下の頬を一筋の雫が滑り落ちた。
テーブルに落下したそれはきれいなドットを描いた。
ひとつ、ふたつ、みっつ─
雫はやがて空からも散り始めた。
─まいったなあ。
その時になって今日はドットタイをはめていたことに気づいた。