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あなたが英語を話せない理由③「発音が悪くて通じない」は本当か?

文法も語彙も正しいのに相手に通じない。

何度も聞き返され、そのたびに自信を失い、声が小さくなっていく。

挙句、「自分の英語は通じない」と、話すことに消極的になっていく。

あなたも多かれ少なかれ、そんな経験をされているのではないでしょうか?そのたびに、やはりネイティブレベルの発音に近づけないとコミュニケーションは難しいのではないだろうかと思いがちです。

確かに、ご自身の体験だけでなく、「発音がある一定レベルに達していないと意思疎通に影響を与える」という研究結果¹もあります。

今日は、この「ある一定レベル」とはどういうレベルなのか、そして、そのレベルに達していない方の発音の「特徴」と「改善策」についてお話ししていきます。

コミュニケーションに必要な発音レベルとは?

「発音」については、英語教育分野において二つの大きな考え方があります。一つは、ネイティブに限りなく近い発音を目指すというNativeness principle, もう一つは、外国語なまりがあっても良いので聞き手にとって理解しやすい発音を目指すというIntelligibility principleです²。

1960年代以前までは前者のNativeness principleが優勢でしたが、80年代にはいると、「英語は世界共通語としてのコミュニケーションツール」という考え方に変化していき、それ以降は「コミュニケーションに支障をきたさないレベルであればよく、聞き手にとって理解しやすい発音を目指す」という考え方が主流となってきました³。先に述べた「ある一定のレベル」とは、多少の外国語なまりがあっても「聞き手にとって理解しやすい発音」であり、限りなくネイティブに近い発音ではないということです。

一方、現在の日本で幼少期から英語を学習することの意義について議論されています。その中で、よく取り上げられるのが「臨界期仮説」です。これは、「英語を第二言語としている人が、ネイティブレベルの発音及び文法を習得できるのは、12歳前後までであり、その時期を過ぎると言語習得能力が徐々に失われるため、母語と同じレベルでの習得はできない」⁴という仮説です。12歳を過ぎてから英語を学習し始めた私達大人は、ネイティブレベルの発音は習得できないといわれているわけです。

この仮説に対し、いやいや、「外国語が日常的に使われる環境に身を置き、高いモチベーションを持って聞き取りや発音などの音声的な訓練を長期間行なえば、10%以上の人がネイティブ並みの発音と文法能力を習得できる」という研究結果⁵もあります。もちろん、ネイティブレベルの発音ができるに越したことはないのですが、日本に住んでいる私達は英語が日常的に使われている環境で過ごしていませんし、仕事やプライベートで忙しい中、高いモチベーションを保って長期間の学習を持続することはなかなか難しいのが現状です。したがって、この10%に入るのは至難の業です。そもそも、そこまでしてネイティブレベルの発音を身に着ける必要性があるのでしょうか?

筆者が在学していたイギリスの大学院では世界中から学生が集まり、その後勤務した国際機関でも多様な国のスタッフが働いていました。まさに、「お国訛り」の博覧会でした。そういった人種や文化の多様性がある環境では、ネイティブレベルの英語の発音よりも、相手に「理解される発音」で「速やかに発話」できることが求められます。

もし、あなたの英語習得の目的が、国籍を問わず英語でコミュニケーションをとることなのであれば、「ネイティブと同じ発音」よりも、「相手に理解されやすい発音を速やかに発話」できることを目標にする方が現実的ではないでしょうか?それができてからネイティブレベルの発音を目指しても遅くはないはずです。

単語も文法もあっているのに通じない方の発音の特徴と改善点とは?

通じない方の特徴と改善点を3つあげます。これを改善するだけで、今までのカタカナ英語から一歩脱出することができ、あなたの発音は劇的に相手に通じやすくなります。

特徴1.「カタカナ読み」している

英語には日本語にはない口と舌の使い方をする音が沢山あります。
例えば、thinkのth【θ】です。【θ】は、単体で発音するときまたは強調するときは、上下の歯で少しだけ噛んで息を出すのですが、そんな発音の仕方をする日本語の音はありません。私達日本人はthink【θíŋk】を「シンク」と、サシスセソの「シ」で発音しがちです。日本語の「シ」で発音すると、【s】や【ʃ】に聞こえてしまうことがしばしばあります。そうするとこんなことになってしまいます。

「考えているところです」
I am thinking【θíŋkiŋ】now.

「私、今、沈んでます」
I am sinking 【síŋkiŋ】now.

「そこに座っていました」
I was sitting【sítiŋ】there.

「そこでウ〇チしてました」
I was shitting 【ʃítiŋ】there.

      

これは実際に筆者の受講生の多くがやってしまう典型的な間違いです。
正しい音を発話できればこうした誤解を招くリスクを避けられます。

改善策1.基本子音16個と母音5個の発音の仕方を最優先で習得する

日本語の子音は、日本語は13個ですが、英語は約22個あります。日本語の母音は「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」の5つだけですが、英語には母音が約17個もあります。これら全部の子音&母音を正しく発音できるようになるには結構な時間がかかってしまいます。時間のないあなたは、絶対に抑えておくべき「基本子音16個」そして「母音5個」の発音だけをまずは習得することをおススメします。特に16個の子音は、たった8つの口と舌の形だけ覚えれば声帯を震わせるか震わせないかで全て発音できます。

(出典:松澤喜好(2018)『英語耳』⁶から筆者作成)

母音5つは、日本人には同じ「ア」に聞こえる母音です。hatとhutは日本人には同じ「ハット」に聞こえ、そのように発音する方がいらっしゃいますが発音は違います。

(出典:松澤喜好(2018)『英語耳』⁶から筆者作成)

子音の発音は母音に比べ、理解しやすさ(明瞭性)に影響を与えやすいという研究結果があります。最初に基本子音16個を身に着けるだけでもあなたの発音は劇的に改善されるでしょう。

特徴2.「ストレスの位置を間違って発音」している

ストレスとはいわゆる強勢アクセントのことです。強く読む箇所ですね。
「ネイティブはストレスの音節を主な手掛かりとして語の認識処理を行っている為、誤ったストレス位置で発音すると、明瞭性がそこなわれ意思疎通に支障をきたす恐れがある」⁵といわれています。ストレスの位置を間違うと意味や品詞が変わってしまう単語があります。以下に例を挙げます。

意味が変わってしまう単語
desert
①【dézɚt】前のeにストレス 「砂漠」
②【dɪzˈɚːt】後のeにストレス 「見捨てる」
content
① 【kɑ́ntènt】前のoにストレス「内容」
②【kəntént】後ろのeにストレス「満足して」

品詞が変わってしまう単語
permit
①【pə́ːrmit】前のeにストレス 「許可(証)(名詞)
②【pərmít】後ろのiにストレス 「許可する」(動詞)
record
①【rékərd】前のeにストレス「記録」(名詞)
②【rikɔ́ːrd】後ろのoにストレス「記録する」(動詞)

改善策2. ストレスを正しい位置に入れる

あれ、通じないなと思ったらストレスの位置を変えてみてください。例えば、品詞が変わるものに関しては、名詞として使いたかったら前の母音、動詞だったら後ろの母音に置いてみるとよいでしょう。

特徴その3「語尾に母音をつけて発音」している

日本語は母音でほぼ終わりますが、英語は子音で終わることが多い言語です。以下の日英例文の単語の語尾の音を見てください。

日本語
私はリンゴを食べたいです。
【watashi】【wa】【lingo】【wo】【tabetai】【desu】
全て母音で終る

英語
Iwant to eat an apple.
【ɑɪ】【wάnt】【toː】【íːt】【ən】【ˈæpl】
子音で終わる単語が多い

日本語を第一言語とする私達は、母音で終わる話し方が身についていますので、つい英語の語尾にも母音をつけて発音してしまいます。そうすると、全く違う音となってしまい相手が理解しにくくなります。例えば、上記の英語の語尾に母音をつけて発話した場合こうなります。

【ɑɪ】【wάnto】【tuː】【íːto】【ən】【ˈæplu】
「アイ ウォン ツゥ― イートォ アン アップルゥ

初級クラスの学生さんは "I think~"を多用する学生さんが多いのですが、最初のうちは恥ずかしいのか、語尾に母音をつけて話す傾向があります。

ɑɪ】【θíŋku:
「アイ シンクゥ~

改善策3. 日本語のように全ての語尾に母音をつけず、正しい語尾の音で終わらせるように話す


さて、以上3つの特徴のうち、あなたはいくつ当てはまっていましたか?
発音ができないと理解してもらえないというのは本当ですが、ネイティブレベルの発音でなくても、理解されやすい発音レベルにもっていけば必ず通じます。

もし、今、あなたが「理解してもらえない発音」であったとしても、「理解されやすい発音」へ改善することは大人からでも十分に可能です。

改善策1の子音16個と母音5個の発音習得も集中的に正しく行えば時間はそんなにかかりません。具体的な発音方法についてはまた別の記事で解説しますね。


参考文献
¹ Hinofotis,F.,& Bailey,K.(1980). American undergraduate reactions to the
    communication skills for foreign teaching assistants. In J.Fisher,M.Clarke,&
   J.Schacter(Eds.), On TESOL’80:Building bridges(pp.120-133). Washington,
   DC:TESOL.
² Levis, J. M. (2005). Changing contexts and shifting paradigms in   pronunciation teaching. TESOL Quarterly, 39, 369-377.
³ 山根繁(2015)「日本人学習者の目指す明瞭性(intelligilibility)の高い英語
    の発音とは」『関西大学外国語学部紀要』13, p.129-141
⁴ 高橋基晴(2010)「第二言語習得研究からみた 発音習得とその可能性に
   ついての考察 -臨界期仮説と外国語訛りを中心に-」『人文・社会科学論
   集』 28, p.33-55
⁵ Birdsong, D. (2002) The NCLRC Language Resource VOL. 6, No. 6 July.
⁶ 松澤喜好(2018)『英語耳』KADOKAWA


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