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「正常性バイアス」を乗り越えろ

 けさ7時40分頃のことである。ストレッチなどを済ませて朝食をとり、カミさんの年賀状リストの整備のために陳腐化した自宅の古いパソコンをなだめすかしながら立ち上げていたところ、突然マンションの火災報知器が鳴動した。

 アタリマエながらかなりの大音量でプープーというアラーム音が鳴る。「火事です。火事です。この付近で火災が発生したので避難してください」という人工の無機質なアナウンスが繰り返される。カミさんはまだ寝ている。

 とっさに考えてしまうのは「どうせ大したことはないだろう」。これは典型的な「正常性バイアス」である。

https://www.city.kobe.lg.jp/documents/54168/kobe-disaster-prevention-leader-text-chapter5.pdf

 ところが。

 廊下からは「3階で火災が発生しました。ただちに避難してください」という音声が聞こえてくる。つまり私のいるフロアなのである。近隣のみなさんもバタバタと出てくるではないか。特に煙も匂いもしていないが「いやいや、まさにそれこそ正常性バイアスの罠だ。命が大切」と思い直して「3階だって言ってるから避難するぞ」とカミさんを起こす。寝ぼけ眼のカミさんは「消防車も来てないじゃない…」と不満顔だが、「いま発生したばかりだったら消防車はまだ来ねえだろ!」と叱咤激励。

 階段で1階ロビーに降りる。顔見知りの向かいの奥さんも不安げに立っている。すると「誤作動のもようですので、そのまま待機ください」という館内放送がかすかに聞こえてきた。通りがかった警備員さんに「いまの放送、ここでは聞こえなかったけど?」と詰め寄るが、要領を得ない。しばらくしてやはり報知器の誤作動だったと判明したので、みなさん「やれやれ」と三々五々自宅に戻ることに。

 そこで気がついた。30階建てのマンションなのに、1階ロビーにはわずか20人程度しか集まっていない。都会のマンションなのでほとんどが知らない顔だが、どうも3階の住人ばかりのようだ。つまり報知器も館内放送も3階でしか鳴動していなかったのではないか。だから「誤作動のもようです」というアナウンスも1階にはかすかにしか漏れてこなかったのである。

 誤作動だったからいいようなものの、これが本当の火災だったら鳴動や放送が当該フロアだけでいいのか?すぐ上の4階の住民はなにも知らされていなかったの?それとも当該フロアだけ鳴動するというなんらかの判断があったのだろうか?
 それにしても、とっさに「きっと大丈夫だろ」と思ったこと、そしてすぐに「それは正常性バイアスの罠だ」と判断できたことは我ながら冷静だった。しかし、カミさんは現金と通帳を持って家に鍵もかけてきたのだという。スエットにダウンを羽織っただけでバタバタと避難した自分はちょっと恥ずかしかった。

 そういえばチャンネル録画のBS-NHK「カーネーション」も未視聴のままだ。なんだかチョーシが狂わされたが、ま、真夜中の避難騒ぎではなかっただけマシであると考えよう。
(25/2/8)

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