杉浦忠の轍を踏ませるな
ロッテ・佐々木朗希はきのうの日ハム戦でも8回までパーフェクトピッチング。私は外出中にスマホで試合状況をチェックしていたが、7回まで進んだところで慌てて自宅へ戻ってBSの中継にかじりついた。「数十年に1回出るか出ないかの完全試合を2試合連続で達成する瞬間なんて、生きているうちにもう絶対に立ち会えない!」とワクワクしていたのである。それだけに井口監督が交代を告げた際には、咄嗟に「えー、歴史を塗り替えないのかー」とガッカリした。
試合後、井口監督は「記録は記録だが、1年間、ローテーションを朗希がしっかり守るのが大事」とコメントし、対戦相手の日ハム新庄監督も「俺が向こうの立場でもやっぱり代える」と話した。専門家は球筋や本人のようすから疲労を見て取っていたのだろう。そういえば、ほとんどが佐々木の投球を見にきたであろう満員のZOZOマリンスタジアムの観客からも交代の瞬間にガッカリする声はあまり聞こえてこなかった。みなさん、よくわかっている“見巧者”なんだなあ。
佐々木といえば2019年岩手大会決勝でも監督が「故障の可能性がある」と温存して登板を見送り、結果的に母校の大船渡高校は甲子園の切符を逃している。プロ入り後も1年目は肉体強化に専念、2年目も十分な登板間隔を開ける配慮をされていた。周囲の人々がこの球界の“至宝”をどれだけ大切に育てているのかがよくわかる。
思い起こされるのが、かつて南海ホークスで大活躍した杉浦忠の悲劇だ。立教大学で長嶋茂雄とコンビだった往年の名投手だから私も同時代として見ていたわけではない。1年目でいきなり27勝をマーク。翌年は38勝を挙げて、巨人と対戦した日本シリーズでは4連投して4連勝。3年目も31勝したが、その酷使が祟ってその後は故障がち、選手生命は長くなかった。「腕も千切れんばかりの力投」「連戦連夜の登板」が美談だったころの悲劇だ。そういえば大洋ホエールズでは「権藤、権藤、雨、権藤」っていうエピソードもあったな。
令和のいま、佐々木ほどの才能であればそれを大切に温かく育てることが認められる。素晴らしいことだ。その一方で、働く若者を次々に使い捨てするようなブラック企業の話もいまだに聞こえてくる。いまの大学生は就職にあたって「それほど活躍することがなくても、給料がほどほどでも、とにかくブラック企業には行きたくない」が最優先事項なのだという。
佐々木であろうと普通の若者であろうと、その若さと才能の芽を摘むようなことは決してやってはならない。2試合連続の快投とその後の“温存降板”を目撃してそんなことを考えていた。
(22/4/18)