“炎上”に備える想像力と、それを逆手に取ること
マナー講師の平林都さんが5月にNHK「チコちゃんに叱られる!」に出演した際の“指導”が「パワハラだ」と炎上した。
私は平林さんに研修の講義を依頼したことがある。当たり前だが、講義を離れた平林さんは穏やかで、しかも上品な方。あの“鬼講師”はあくまでも業務として創作したキャラである。
彼女を起用することは、すなわちあのキャラによる“鬼指導”を依頼すること。これはテッパンのお約束だ。それをとらえて「パワハラだ」と騒ぎたてるのは、ドラマで嫁をいびり倒す役の女優を批判することのバカバカしさと同じことである。
ただし。視聴者はそのスタッフを“素人”=自分たちと同じ立場の人と認識して、涙を流す場面に不快感をおぼえたのも事実。
「チコちゃん」で鬼指導の“被害”にあったのは番組スタッフだった。番組全体を俯瞰すればスタッフは素人ではないし、「涙を流すこと」も“お約束”の着地。もしこのスタッフが指導をケロケロと受け流していたら「面白くない」ので、番組として成立しないことになる。視聴者との受け止め方とのギャップが、問題の本質だ。
私が平林さんに講義を依頼した際も、打ち合わせで「厳しい感じでお願いします。ただし、ひとりを取り上げて“攻撃”する際には、ここの位置に座っているアナウンサーの●●君にしてください」として、指名される当人にも事前に予告をしておいた。アナウンサーならテレビに出るモノとして“いじられキャラ”になる覚悟はできている。逆にそうした“耐性”がない人物を取り上げて「翌日から会社に来なくなっちゃった」という事態だけは避けたい。これくらいのことは普通に考えるものだろう。
炎上騒動その後。
TBSの番組に平林さんが出演したことが取り上げられた。それほどこのニュースは世間の関心を集めたという証左だろう。
もちろんTBSが平林さんの炎上騒動を知らないわけがない。それどころかそれを逆手にとっての出演依頼であることは間違いない。
「番組を認知してもらうきっかけになる」という判断もあろうが、この出演にはなかなか勇気が必要だったのではないか。自分がもし番組のプロデューサーだったら、炎上直後の当事者を出演させる判断ができたかどうか。あるいは上がストップをかけてきたかもしれないな、と思うのである。
“炎上”のきっかけは千差万別で、現代は予想もできない形での炎上が起きる。当事者になった場合の辛さと、それに対応するための時間的・人的ストレスとコストも恐ろしい。
さまざまな騒動のファクターを計算して、「自分だったらどうするか」を常に意識しておく。危機管理は一朝一夕にインスタントにやるものではない。大変な作業なのだ。
(22/6/25)
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