見出し画像

初観戦のプロレスは全身全霊で創りあげるエンタメだった

 思いもしないご縁からナマのプロレスを初観戦、しかも2日連続という事態になった。
 
 初日は一般に公開されていない私的な興行で、リングサイド最前列という席だった。そしてその熱気にすっかり当てられて翌日の同じ団体の試合を“聖地”後楽園スタジアムで観戦したのである。
 
 昭和のTVアニメ「タイガーマスク」を見ていた世代ではあるが、知っているプロレスラーの名前は力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木、ジャンボ鶴田、タイガーマスク(おそらく初代ということになるのだろう)だけ。団体も全日本プロレスと新日本プロレス以外にも存在するらしいが、名前は一切知らない。ま、興味がない還暦オヤジとしてはごく一般的だろう。
 
 興味がわかない理由も、また一般的なもの。「どうせ台本がある“やらせ”の格闘技だ」「競技だけでなくマイクパフォーマンスもわざとらしい」「テレビでも見る機会もない」あたりだ。
 
 しかしちょっと考えなおした。「このチャンスを逃したら、生プロレスなんて見る機会は一生ないかもしれない」「あれだけ夢中になる人がいっぱいいるんだから、ナマで見るのはきっと違う世界なのだろう」と足を運んだ。トシで出不精になった自覚もあるが、こうしたちょっとした好奇心は生かすのがよろしいという気持ちもあった。
 
 結果的には予想の10倍面白かった。
 
 当たり前ながら肘打ちや鉄柱への攻撃ではハードヒットを避けている。しかしキックはばっちり当たっているし、ロープの上から飛んだりマットへ叩きつけたりする大技は華麗で、見ている方のテンションもグッと上がる。双方の選手の信頼関係と技の呼吸が大切で、生半可な鍛え方の素人がマネをしたら大怪我は間違いなし。これを「やらせだ」「台本だ」というのがそもそも間違いなのである。

 親子対決があったり50歳超えの元力士がいたりして選手の人生も垣間見える。選手紹介で「地元大阪では、なんとPTA会長でもあります!」などと言われると、なるほど身体はいかつくても善良そうな顔つきに見えてきて、昭和オヤジとして親近感がある。
 
 初日にはレスラーたちがリングの外で暴れだす「場外乱闘」もあった。もちろん「一般人である我々を攻撃してくることは絶対にないだろうな」と思っているのだが、客のカバンを高々と放り投げたり(パソコンとかが入っていたら大変だ)、さっきまで自分が座っていたパイプ椅子がぶっ倒されたりして、ヒリヒリする緊張感がある。初日の客はほとんどが「プロレスなんて見るのは初めて」で、それだけにパフォーマンスへの喝采にも力が入り、技が決まった際のどよめきにも嘘がなかったようだ。
 
 2日目は後楽園ホール。座席はリングサイドというわけにはいかず30メートルほど離れたところだった。そうなると臨場感はガタっと落ちてしまうし、私も初めてという驚きはなくなっていた。
 
 客層も違う。「個別の選手のことはよく知らないけど、とにかく盛り上がってやろう!」という前日のノリとは違い、後楽園ホールは「選手の名前を大声で呼びながら応援する」というスタイル。全部で9試合あったわけだが、メインイベントに向けて会場の熱気がどんどん高まっていくが感じられた。
 
 わずか2回見ただけのド素人にもそれぞれの選手の個性、特に「華がある」かどうかはすぐにわかる。このあたりは芸能人と同じだ。1日目に場外で大暴れをしていたヒール(悪役)はこの日もメインイベントに登場して大活躍だった。試合前の握手会(サイン会?)でも長蛇の列だったようで、その人気ぶりがすさまじい。そういえばその昔のジャンボ鶴田には子ども心にワクワクしなかったもので、あの気持ちをいま言葉にすれば「華がない」ということになる。

 とにかく。
 
 初めてナマで見たプロレスは鍛えぬいた身体を全力でぶつけ合うことにより客を楽しませてくれる第一級のエンタメだった。そして「全力で楽しいモノを作って客に楽しんでいただく」という“プロ根性”はテレビ屋のはしくれとして大いに学ばせてもらった気がするのである。

 たくさん見続けて“推し”のレスラーができたらさらにハマるかもしれない。このあたりはアイドル・宝塚・プロ野球もまったく同じだ。そうなれば時間もカネもどんどん吸い込まれていくのだろうが、そこまで熱中するものに出会うことは、それはそれで幸せなのかもしれない。

 とりあえず男子プロレス観戦デビューは果たした。つぎは女子プロレスも見てみたいな。ひとりおやじがむっつりと観戦する姿は傍から見るとゾッとしないだろうし、可愛い女の子が取っ組み合いをするのを見たいという気分には倒錯の匂いも感じてしまう。ま、そんなことは他人は誰も気にしないのだろうけど。
(25/1/16)

いいなと思ったら応援しよう!