研究資金申請はゲーム(的な面もある)[Imbackプロジェクトその3]
科研費の具体的な話に入る前に、学術研究の競争的資金において、どうすれば採択されるのか、一般的な話を少ししたいと思います。科研費は科研費独特のルールに(半ば無意識に)従うだけで採択されうるのですが、我々は中々採択されていない訳で、競争的資金への一般的理解を深めて外堀を少しでも埋めていく訳です。またこのノウハウは、他の競争的資金の申請書作成にもきっと役立つでしょう。
私が申請書作成支援を行うにあたって、大きく分けて次の項目が書き込まれているか、評価者が読み取れるようになっているかを、まず見ます。
・良い研究実績がある
・良い研究準備ができている
・良い研究アイデアがある
・計画の内容・期間・費用・準備等から、実現性が高い
・費用対効果が良さそう
・アウトプットが良さそう
・その資金制度・プログラムの目的に貢献できる
・(読み手に伝わる形で)その分野の言葉を使えている
・その資金制度・プログラムの(科研費であれば科研費申請特有の)言葉を使えている
結構ありますね[1]。ただ、資金の出し手側は、このくらいの項目は確認したいのではないかと思います。そして私が申請書を読む際には、これらの項目について、どの項目が強みになるだろうか、それはきちんと表現されているか、といったあたりをまず確認します。そして、資金制度・プログラムによって多少項目が増えたり減ったりしますが、記述できていない、欠けている項目はないか、記述のバランスはとれているか、といった視点でもう一度読み、修整の提案を行っています。
この各項目の読み取りにあたっては、カードゲームの手札のようなものとしてイメージするのも良いです。全部に強い手札が揃うことは、まずありません。強い手札が揃っていなくても、ある程度は勝てます[2]。また、強い札は重要ですが、思い入れを持ちすぎるのも、大抵の場合は良くありません。多くのカードゲームがそうであるように、まずは強い手札を揃えられるだけ揃えて、ルールに従って(つまり指定された様式に従って)、相手(ここでは評価者)との駆け引きも考え、適切な順序やタイミングで札を切って行くのが大切です。その上で、評価の際に大きな失点となりそうなところを潰しておけば、基盤Cや若手であれば、少なくとも採択の当落線付近には行くと思います[3]。
ゲームと捉えるのは不謹慎、もっと真面目に書いている、と言われるかもしれません。かといって、申請書の内容の多くは将来についてのことであり、学術研究の論文のように厳密なものとすることは、とても難しいものです。そのために多大な努力を払ったとしても、具体性、実現性が増すということくらいで、採択に向けてそれほどの意味をもちません。また申請内容がそのまま公表されるものでもありません。このようなことから、論文などの研究アウトプットと比べて、ゲームとしての割り切りをもって申請書を作成することが有効な場合も良くあります。
この例えで、科研費の基盤Cや若手を捉える際のポイントは、他のプロジェクトや研究者はこのゲームの相手ではない、ほぼ考慮しなくて良い、というところです。我々は評価者のみを相手にして、採択されるだけの点を稼げれば良いのです。活発に活動している「研究」大学のA先生や、研究上のライバルであるB先生を考える必要はありません。一般の方が評価するわけでもありません[4]。また点を過剰に稼ぐ必要もないですし、そのプロジェクトで社会を変える必要もありません[5]。
ただ我々の中には、手札がそもそも揃わない、という方もいるのではないかと思います。その場合は、どうにも厳しくなります。つまり、まず最低限揃えることが、どうしても最優先となります。そのあたりを中心に次の記事でみていきたいと思います。
[1] 財団の助成などは項目が少なくなりますが、私がこれまで見て来た限りでは、それ程減らないと思います。そして財団の申請書は科研費よりも短い様式のことが多く、求められている内容を書き込むだけで文章が溢れてしまう、ということがとても良くあります。また国の大型資金制度では、これらの項目に加えて、国際的なベンチマークや、学術進展へのインパクト※、なども強く求められますが、ここでは「その資金制度・プログラムの目的に貢献できる」に集約しています。ただ、プログラム評価の項目が各プロジェクトに降りてくる形で、項目が増えてしまうことも、時には想定しなければなりません。
※国の研究開発評価に関する大綱的指針 平成28年改定 p21参照
[2] つまりこれは、必勝法ではありません。定跡くらいの話です。もし必勝法があるのであれば、それを知らない我々に勝ち目はありませんが、現実我々の身近にも、基盤Cや若手で採択されている人は多数いるので、、必勝法はまず存在しないでしょう。逆に言えば、我々が採択されていない制度では、必勝法が存在するのかもしれません。
[3] ここでは、科研費の比較的少額のもののように、複数のプロジェクトが採択されるものを考えています。科研費でも基盤Aなど、実質的に一つの分野で一つのプロジェクトのみ採択されるような場合は、他のプロジェクトと比較した優位性(あるいはベンチマーク)がとても重要になります。またそのような申請書では、小さな失点であっても少しでも防ぎたいところです。
[4] 一般の方が評価する場合は人気投票のようになると思われますが、それは組織や資金量の戦いとなりがちで、我々が勝つのは至難の業です。
[5] なお、その研究により社会が変わって欲しい、社会が変わる可能性がある、といった想いはとても重要で大切なものであり、それを否定している訳ではありません。ここで私が強調したいのは、そのプロジェクト(研究)が社会にとって必ず要る、その結果社会が必ず変わる、社会問題が解決する、とまでは言わなくても良い、ということです。そのように言うことは、学術研究プロジェクトの申請である限り無理ではないかと私は思うのですが、大型プロジェクトではそこまで求められることもあります。
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