twitterにアップした詩たち。2019/3/17~2019/3/31
234
潮衝の響もす
荒れ果てた季節
その波に拐われた
過去を込めた光
羅針盤の
永遠に指さない地軸
面舵一杯切って
嚠喨たる岩礁を聴く
弓なりの風が
さよならを孕み
生きていた頃の帆の言葉が
まだ終わらない心臓を刺す
そして
頬を撃つ波涛
戻らない嵐が
懐くので 鳥葬
235
虹の顛末を
僕たちは知らない
過ぎ去った冬の行方
海に落ちた陽光
和毛を撫でる風
鳥の安らぐ場所
散ってしまった花
水面から跳ねて光る魚たち
時の血液を
流れてしまった言葉
その行く末を
僕たちは知ることが出来ない。
朝がまた来る
去ったものが形を変えて
燃焼するのが視える
236
呼びたい名前が自然発生する
涙の香りが呼気にまざり
ビルの割れ目から月が昇る
暖かい座椅子が幸せを謳歌し
洗濯物の階段に片足を突っ込む
深爪したパンタグラフに
聴診器を燃やしてしまう
亜脱臼した地面
インフルエンザの文字達
SNSの過去世もしくは賽の河原
燃え盛る古書店
ガルウィングが片方ずつ
捥ぎ取られ線路に捨てられる
踏み切りが何本も吹き出る泉
丁寧に殺される月桂樹
傷ついた涎が
DNAを落としている
呼びたい名前だけが
遅延証明書を
舌から印刷している
めらめら めらめら、と
印字している
237
無力な言葉の群れ
力ある言語の空軸
揺れる気圏の悲鳴
季節外れの草雲雀
理論と感傷の相剋
現象と希求の不和
奸計と騎行の並列
総和と孤独の祈喚
溶けてゆく肉の塊
生きる事の
腐敗との距離
黄金のドヴォルザークと
美しいオレンジだけが
過去を染め抜いていた
238
見えない指
見えない喉
見えない季節
見えない名前
見えない弛み
見えない湖
見えない三角形
見えない月
見えない夜
見えない間接
見えない首
見えない常夜灯
見えない坂道
見えない羽虫
見えない感情
見えない記憶
見えない海底
が夜窓から
あなたを見てる
239
剰りにも赤い梢
が空から垂れる春の日
脚立に良く似た美女が
折り畳まれて眠る
ルームミラーいっぱいの
赤と白の呪文
さざめきと囁きの岩漿と
底の抜けた買物籠に
旅人を無限に詰め込む
柔らかい駐車場に
併設する斎場
光の分娩
呼吸を忘れた書類が
鳥になって燃えた
良く晴れた 夢/闇
240
臨終の間際 密やかに影は傾く
薄暮の街角 半透明の死者
道の片隅に無数の過去が蹲踞る
都会の視えない森
手が擦り抜ける隣人
砂嵐が液晶から溢れる
次から次へと
幽かなWiFiが黄泉を擂り潰し
携帯電話から髪の毛が
湧き出し続けた
放り投げても耳元の電話の霊は
着信音を叫び続ける
世界が捥げてしまった
朝の次に夜が来てまた夜が来る
その次に冬が来て朝が来る
月蝕に継ぐ月蝕
白夜に継ぐ白夜
携帯から口移しされた
か黒い毛髪が海に流れてゆく
貫通する鉄筋
そこから噴き出す光
溶けてゆく輪郭
繊い洞窟の中の液体
暗澹たる闇風のたなびき
臨終の間際 密やかに影は傾く
241
美はどこにあるのか
優しい睫毛や
朝の水面にかかる陽光
相手を想い遣る愛の
深い いけにえ
職人達の霊感による
際どい宝石の切口
黎明が彫り出す
逆光のアカシア
闇の奥に光る
陶然とした瞳
傷付き震える涙
地獄から甦り
味蕾を満たす言葉
美はどこにあるのか
暁を静かに待つ美は
242
夜はまた
繊い葦を生やして
月から垂れる水を
鼓膜で受けとめている
さやかな風
に映る月光
光の河が
朝に繋がっているとも
知らずに
寂しい夜の羽虫が
燃える
雪のように
星が燃える
痣のように
月が燃える
獣のように
水が燃える
湿地のように
燃える 孤独
243
詩はきっと
言葉の籠に
韻律を飼うこと
表層の言葉の向こうに
幽かな世界を重ねること
ああ、
詩は言葉ではない
けれど
言葉が強くなければ
羽を持つものたちは
容易く逃げてゆく
一目 一音でそれと解る
麗しい地獄を探す旅が
今 始まろうとしている
242
バーミリオンの季節が
春の振りをしている
スニーカーの爪先の埃
花粉の降り積もる路地
空間の 薄皮一枚向こうの
違和感
合せ鏡のように
連鎖する埃と埃と埃
路地と路地と路地が
並走している
その歴史の束を焼べて
言葉は収斂する
死や愛に
隠されたバーミリオンの季節が
黎明
世界を濡らしている
243
縒れる
言葉が縒れる
言葉の軸が縒れる
言葉の軸のオレンジが縒れる
言葉の軸のオレンジの
北風が縒れる
言葉の軸のオレンジの
北風の含羞が縒れる
言葉の軸のオレンジの
北風の含羞の止揚が縒れる
言葉の軸のオレンジの
北風の含羞の止揚のマラルメ
が縒れる
何も
何ものも象徴しない
今夜は風になる
そのなかに吹く
味覚されることのない旋律
象嵌のように
死んでゆく音楽が
縒れる
244
大切な交差点で
前世すれ違いました
炬燵のような悲鳴が
路側帯をひやかし
赤と黄色のお寺が
貨幣を停泊させました
腕をくむ死者たち
凍原の墓碑銘
柔らかくない光線が
エスカレーターを南中します
駆け抜ける羚羊
冬の地下には
美しい車輪が
横たわっています
絶望に凍りながらも
動物の子供たちを
あざやかに
あざやかに
轢かないように
245
【嗚咽】
大切なことは
汗と花の香り
血流に隠された
静かな記憶のゆらぎ
地盤に満ちる調べ
凍える声のオクターブ
机の足の爪を切る
ベルベットの膝や
小鳥のようなセックス
露光の滑らかな覚醒
予約の時間を布団のなかで過ごし
さよならとお早うの枕の
夢の匂いをかぐこと
大切なことは
燃えようとすること
命の星が全部流れても
一瞬のともしびだったと
笑顔で嗚咽すること
泣きながら
キスをすること
246
彼岸桜 舞う日
胸の二つの墓石から
風のように
雪柳が溢れる
次から次
無限に
樹の虚から
乳母車から
マンホールから
天体から
車輪から
電線から
唇から
次から次
無限に溢れる
白い花弁
僕はちゃんと
過去を傷付けたよ
ソファに
アーケードに
チェス盤に
教会の鐘に
鳥の胸肉に
市営バスに
パン屋さんのトングに
野良猫の背中に
冷蔵庫に
坂道に
降り積もる
白い花
煩わしい
気遣いだったかな
足首まで
花に浸かる
水色の頭痛
風邪を引く路面
迂回する月
降り積もる余白
言葉が稚拙なことの
深い後悔
おじいちゃん
僕は悪い子だったよ
供えられた二束の雪柳
轍の跡
止まない流れ
止まない
247
空の透明な部屋で
あなたは
あの頃のように
うたっていますか
とても冷たく見える
とても吝嗇に見える
損する言葉遣いを
悪いともおもわず
蛍の光しか弾けないギターで
うたっていますか
あなたは
誰の気持ちにもなれなかったし
あまり
愛に興味がなかったけれど
あのギターの音は
静かに美しかった
透明な世界に
友達や伴侶はいますか?
また誤解されていませんか?
しわくちゃになった風が
海まであふれる春の日
あなたの弦の音が
うたと手をとって
思い出だけが
あたたかなのです
248
燃え盛る渚を
壁の奥に拡げる
地図に刺さった肋骨が
コートサイドで羽化する
夜になるたびに震える
ヘッドライトの嗚咽
泣菫の遺言状
松脂の細やかな抵抗
電車の迎いの座席の女性
その短いコート
そこからはばたいた鴉
黒い羽が無数に散らばり
夕焼けを夜に染める
闇に靡くすすき
過ぎ去っていく隙間
渚の火は消えない
余韻が燃える
灰の雨が
灰の雨が、灰の雨が
つもってゆく
249
【卒業】
さよならが始まる
さむいピルケース
イク時の犬のような横顔
酷薄な優しさ
歌うピルグリム
曙光が孕む夜
透明な絶望
指先が煌めき踊る
偶然現れる払暁
あまりにも物理的な副詞
サフランライスの中の仏像
紡錘形の避妊具
柔らかな御神木
永久に隣接する窓
さよならが始まっている
冷え落ちる指先
何枚も剥がれる掌
温もりの暗喩
死ぬ夢を
しばらく視ない
250
言葉が無力なのではなくて
魔法が無いのではなくて
夜が不気味なのではなくて
どうせ青い嵐が来ると
諦めるのではなくて
涙が海面を汚すのではなくて
雲が骨折するのではなくて
山颪が嘔吐するのではなくて
馬達が軒並み躓くのではなくて
卒業生達が噛み千切り合い
互いを忘れ合うのではなくて
必死にいきるものにこそ
辛苦が萌えいでるのではなくて
天国の異名を踏みつける
守銭奴を嗤うのではなくて
異教徒の殉教者が
穴を掘るのではなくて
犯された尊厳に
鮮血を注ぐのではなくて
悪の二重性に
容易く与するのではなくて
ゴビ砂漠のように
水を知悉する
尾羽のように
風を知悉する
瞼のように
闇を知悉する
そのようでなくては
ならない
251
世界が割れてゆく
世界がひび割れてゆく
寂寥が染み込む
アスファルトの段差に
紫色の朝が
静かに啜り泣く
しゃがみこむ
赤い境界線
そこに凭れる官製葉書
掠れる宛先が読めない
世界が割れてゆく
世界が日々割れてゆく
花粉に冒された街
ビニールの風のむこう
名前のないものを
しずかに燃やしている
名前がつく前に
密かに燃やしている
252
【蜜】 柔らかい手段で
風を奪ってゆく
黄金の配置図に
記された気圧
ビルの狭間に隠された
固着する街路樹
今 夜が灯ってゆく
心の中の声音が
優しく項垂れる
隠された風の呂律が
慟哭とともに
黄昏の傘を開く
水色の季節が
降りしきる
降りしきる
降りしきる
止みそうもない
季節
253
俺は想っている
思い錘の杜
甘い雨漏りの毬
赤い灯りの蟻
浅い朝の阿闍梨
などについて
それらは意味を燃焼させた
灰色の銅板画
俺は想っている
付与された意味や
要請の物語について
その音に眠る
暗喩的な六道について
無意識の中に
腰骨まで浸かっている
語り部の嘘について
俺は想っている
愛するという言霊の
汎用性について
その山吹色の市場価値
損切りのタイミング
兌換される嗚咽について
俺は想っている
光輝く村の
斑のある背鰭
よく生る果実の
残虐な種子
死骸から芽生える
萎びた魚卵について
俺は想っている
美しい言葉の
美しい発語
その幽愁
蠱惑的な
誤謬について
俺は想っている
あなたのこと
あなたの死体のこと
あなたのドグマと
女性的な蹉跌のことを
俺は想っている
そしてかつて
想ったことなど無い
バランスを欠いた
原風景について
そこに横たわる
愛について
254
赤いフェニーチェが
500年を燃やす
魂が壊死する夜更け
空一面の蒼いリモーネが
搾られ始める
地震のようなコロッセオ
に 溢れる液体の星々
アリーヴェデルチ
ダンテは空を去る
まだ光に名前がなかった頃の
早く疾い所作
雷だけが それの暗喩になる
255
唇の鏡から辷る焔が
現実を焦がしてきた
あと何度湖面に罅が入れば
人魚は這い上がるだろう
目を閉じていても
窓さえ開いていれば
朝か夜かは わかる
閉じ込められた姫たちの
柔らかい熱が
薄氷ごしに視える
真言はいつも
透明に這っている
窓さえ開いていれば
窓さえ開いていれば
256
さよならは
さとよとなとらにしてしまえば
ただのおんがく
わかれはいつも
おんがくのなかで
およぐことができる
あのよからみているひとが
あたまをなでるのだ
そのとききこえるおんがくに
だれもがなまえをつけている
こどうとこどう
かぜとかぜ
きせつときせつの まに
なまえをつけている
257
嘘は言葉の死なのか
赤くあかい映像
光の血が 液晶を夢見る
懺悔と希望の遺言
嘘は言葉の死のなか
赫々とした残像
塗りたくられる記憶
単語の中の他者から
血漿のようにじくじくと
美が滲み出るのが解る
言葉は嘘の死なのか
くろがねの味がするのか
言葉を抱き締める
逸らされない瞳
258
空の喉から降る
灼熱の唾液
糸をひく傘
水溜まりが
世界を愛でる
さむい太腿
尖る鎖骨
笑窪の交歓
裾が靴がコートが
楽譜を湿らせ
涅槃への弦となる
叢雲は発情する
月ばかり 白く聖なる
259
現代的な
あまりに現代的な
事象のなかに
ねむる言語
まだ詩にならない言葉たちに
優しくて無慈悲な一瞥
世界の
こごしい
深しい
思惟
微醺をおびたナラティブが
跳ねる世代である
260
猖獗を極めた悪貨
ゆくりなく出会う夢魔
停電する斎場
燃え盛る卒塔婆
9嚢目の地獄
共喰いする湖面
死を分離する
曇天の破風
声が漏れる前に
叩き割らなければ
喉が焼けてさえ
生まれ得ない言葉に
墓を掘ってはならない
弔えないのだ
それは
透明に霧散し
月光を透過する
記憶の葬列なのだから
261
なだらかな
心の坂に
液体が
こぼれてゆく
ゆっくりと
沁みながら
くだってゆく
透明な
もの
濡れて光る
のは
木の芽時の
邂逅と矜寡
そして
喜びがはじまる
中腹に咲く
見えない花の
まだ早い記憶が
馨る
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。