twitterにアップした詩たち。2020/03/01~2020/03/31

875

寺院に打たれたピリオド
意思の蔭の時間
永久に延びてゆく根
が拭かれてゆく
見守られては砂と化し
波が祈祷を妨げない
空中の果樹が
人に夜を与えるだろう
供物が暴かれる
墓守は美しく叫ぶ
あの頃光はあんなに近かったのに
簡単なこと
人間は行動で組成される
誰もいない時刻
墓碑銘は皮膚を視ている

876

樹が蟹のようだ
そこからさわさわと揺れる泡
まぼろしが煮えている
匂いが国道を滅ぼす
松葉杖の甲殻
たちどころに意味が湯気を立てる
固有名詞まで走り続ける車
そして
徐々に蒸発する
ガードレールの
寒い黄昏
わたしは空白を慰めたい
詰まった実が咀嚼を待つ間
道はどんどん過去に去ってゆく
真っ直ぐに見据えることも出来ない叙情が横滑りに滑ってゆく
夜もなお
蟹は擬態をやめない

877

たいせつな ことばを
うってしまった ひとたち
さみしらは どこにも とけず
かこばかり ふりつもる
うつくしい ちじくの
わずかな ずれが
つぎの あいさつを
おしあげるように
ひびかせ まるで
こもれび の けっしょう
その きんいろの うたごえ
が ちのうえに さってゆく
ひろい ひろい とち
その あかい みち
たいせつな ことばを
うってしまった ひとたち は
わかることも
わけることも できずに
ひざ と てのひら を つく

878

日がな一日
美しい黄泉の
リズムを崩してゆく
それからしどけない芽が
横顔を風に施し
綺麗な雨の中
瞳があらわれる
街には比喩が
至るところに貼られ
高速で移動する
曼荼羅のかおりを
沈丁花の裏側に
音叉のように隠している
泣いている歩道橋
(それとも橋頭堡?)
右手を強く握り締める碍子
可視光を遮る森に
還ってゆこうとする言葉
「厭きてはいけないよ」
翻訳された器の内圧で
前世の貌が解る
ただ
新しいものを探し続けた結果
が、これだ
原付ほどの齧歯類が
光りながら店先を横切る
崩壊したリズムが
その口先に
丁度よく睡っている

879

静謐な空間の
暗証番号を入力する
そこから発生する液晶
「冴えわたる伝承」
詩人だった科学者の逍遙
神経の列島が
ゆっくりと割れるだろう

言葉に与えられる
クォンタムリープ
その斜視の余韻
人口音声の持つ渓谷
死が預言される日々

暦が圧倒的に苛立つとき
心を創るのは
美しい悟性である
最後の図書館が閉鎖される
世界には火が覓められる
火が覓められる

880

鼻唄まじりの森林が
忘れられた戦慄でした
まるめろみたいな空に
忍び寄る鳥が
一条の湖になります
あれは羚羊でしょうか
いいえ、寺院です。
抑揚が輪廻して
ことばは色彩を帯びます
右半身を大樹にするとき
遺産のような雲に
春が映っています
間も無く白夜が来ます
オーロラを埋葬するために。

881

逝いてしまうには
あまりにも明るい闇
美しくきえてゆく言葉の
弔いが果てしなく沈む
暗澹たる太陽の
その水際に手を浸して
ままならぬ呼称を
窓に渇かす
繰り返されることが
その度に剥がれ落ちては
夜の彫りをなぞり
粉としての天体を
静けさに掲げる
あのような韻律は
わたしにはとても書けない

882

不安な架橋
他者を冒涜した外套
ブリーチされた光
窓ガラスの掌
たとえばたゆまぬたまゆら
声紋から自動的に連想される
海面の預言の霊(くし)び
注視されてしまった措置の
亀裂と暗黒の動揺
渡り鳥たちの譫言
そして非人間的分裂
今この世界には
美しい岩礁が
意志を貫通して信仰する
たとえばたゆまぬたまゆら
たとえばたゆまぬたまゆら
すべては
忘失されるだろう
繰り返されることばかり
想い出される

883

死海を深く視ない
ある嗜好は頭痛を狩り
ある天啓は潮を飲みほす
精神が浅瀬を脱ぐ
来世を創ることの出来ない
蒙昧や
偏る ひとびとの饗宴
翻る渡し船の銀貨
「重圧の経済」
気の交流の手摺に
捕まっている桟橋
新たなる忘却
敏い手続きの懸念
おのれを護るために
櫂は折ってしまった
おれは
波が還るように
嘘をつくのさ
ある防波堤が役割を忘れる
誰のためにもならないものが
美しく沈んでゆく

884

あの太陽
一角獣の映画館に蝟集し
拝んだ掌に
「光を」
と刻んだ
犬を飼うもののこと
それから
威厳を負うもののことが
心臓に睡っていた

揺らぎは列車を抱き
やがて 様々な脈を抱いた
だから
犬や眷属の襞
そして 暗黙の秩序として
契約が購われた

なんの前戯もなく
烏滸がましく
虚空の色だったけれど
慥かに
自刃と歓びがあったのだ
夥しい死の影に

今 訣れの後
疫病が地を這う
犬は逝いてしまった
幸福は生きている
生の復路にあって
すべてが
あの鼓動さえ
掌のせいだったと
おもいたい
おもいたくない

885

2001年
ぼくたちは不安だった
初めて警報が鳴って
戦争の予震があった

2011年
ぼくたちは不安だった
警報がたくさん鳴って
科学の虚像を知った

2020年
ぼくたちは不安である
睡れる程の棚をみて
あの頃を思い出す

空が割れるみたいに
知恵と想像が沁みる
祈るものと
庇うもの
まだ過去ではない言葉
忘れないとは
落ち着くということ
哀しみと畏れを仕舞って
風を聴くということ
日がかわってゆく
時の螺旋が
透明な疵を癒す

886

精子のように睡る
うつつたちの泡沫
瞳の奥の熾火が
原罪をかぞえている
在るべきエリアに在るとき
液体は粘性を喪う
暗所だとばかり
想っていたのに
血汐が満潮をみちびく
永久にいない始祖の顔が
月を嗤わせる議事録
火についての断層が
鏡を予兆する
異国から来た遺伝子が
星から抜いた根を
気圏に

887

花を編む
それから
夕焼けを編む
星が病む
月が猫を騙す
鳥は嗚咽を忘れ
懶惰な森が
雨を喚ぶだろう
武蔵野の
土が湿る
正しい虫けら
その末裔の言葉
夜はともだち
つよい風が降りる
季節は墓なのだ
花を編むもの
それから夕焼けを編むものたちの

888

集うものたちの
ふうわりとした契り
魔都のはやりを躱して
赤い意図を噛め
羽根のよう仔猫の
暖をとる仕種に
海の向こうから来た言葉が
鳩尾を押しあてる
そして美しい異論
果てしのない仕掛け
何処までも奥まってゆく廻廊
水を切る猛禽のように
鋭い位置
もう何も断言されない
黙約が毟られたとしても

889

祈る気にもならない
僕たちは鑢がないと
鑢ることも出来ない
アイリスたちの鬣
その爛れた焔のように
祈る気にもなれない
振動とその余韻が
麗らかな比喩に向かう
その火口と
露骨な報復
美しいものを信じているか
そのために
祈ることは出来るか

890

セカイ系のメソジスト
その容喙が叫ぶ
ペティナイフの欺瞞
横溢するジュブナイル
死者のような言葉が
耳から耳へ伝播し
撫でられた樹氷に
一輪の黄泉が枯れる
切り開かれた季節の腹部が
復活を叫ぶ貌
今のような愛着なら
火は独りでに翔ぶ

891

一輪の花を飾ろう
喧騒の支配する地底に

一輪の花を飾ろう
瞑想者の油断なき墓地に

一輪の花を飾ろう
反射する剃刀の無音に

一輪の花を飾ろう
知らなかった陸橋の真上に

一輪の花を飾ろう
もう帰らない友に

一輪の花を飾ろう
嘘も獣も無い路地に

一輪の花を飾ろう
消えてゆく四季を

892

おまえが言葉を隠しているとき
言葉は静かに嘘をついている

そのゆっくりとした虚実の
軟らかい手触りに凭れかかっている間
おまえは言葉に甘えながら
赤子のように
子音を撓らせる

おまえが意味を曲げているとき
意味は静かに死んでいくのだ

真実でさえない表現の
そのまっくらな墓標のなかで
悪びれもせず墜ちる余韻が
違和感を統治していた

おまえが記憶を失っているあいだ
記憶はおまえを噛んでいるのだ

記憶の心臓から吹き出る
赤い血の意味が
おまえに嘘を吐く
その理由に気付けないまま
言葉は
永遠に墜落する

893

星が割れるように
言葉が剥がれてゆく
さんざめく夕方と
煌めく季節
占われた瞳が
優しく狂いはじめる
その時
暗黒がとろとろと
剥がれ落ちた隙間を埋めて
流星が河口に刺さる
誰も登場しない水
語り部のない物語が
時を遡上してゆく
幸福な酸素たち
剥がれ落ちた鱗が
いつまでも光っていた

894

ヒエログリフのアケト
三つ目の支墓石
世界は
こんなにも言葉に充ちて
残酷な秘密を受胎する
ケツァルクァトルの卵子
マヤ文明の終着
歴史が終わる擬態
「少しの嘘を混ぜることだ」
眼を閉じると浮かぶ
月光の線分
蒸発する文明を俯瞰するもの
またそれを俯瞰するものが
所詮同じ落雷を受ける

895

時の声楽が手淫に耽るとき
樹氷の水際には烏が宿っている
おれは熱にうかされ
暗部から覗く光を視ていた
形骸化する地表
それから暗礁の漁師が
美しいいにしえを歩む
盗む者の橋から
降りてゆく少女
その赤い髪
睡りが額を割る
誰かを無意識で刺す時
手の中で噴き出す血
線路の中の鼓動が
にじり寄る春

896

盗まれた
堰堤に
焔を流し込んで)凍結
するまでの間
緩やかに死んでゆく(
漫然と見上げる「耀く」顎
叙情詩が叙事詩に!磔刑に処され
言葉は
絵と
音に分解される(バクテリア)
虹のように淫らな外套を
脱ぐのはとても容易い【?】
このように醜いですか
それでも陸橋を揺らす跳ね方で
大量に流れ込む鉱石(は瓦斯)
日本語の些細な瑕疵
「の下」
皆 美しく睡っている

897

ヴェスレチオの
花から伸びたシナスコが
例の木琴を緩衝する時
八方から踊るフィラメンタスに
まほろば、まほろば、と
抽象が刺さる(検索してはならない)
猫の脚が前と後ろを反転させた
その破綻の、論理ではない
亡き聲
マーヤーの鳴き声が探照灯に
淡い街路樹。(は、燃えた)
美しいと云う言葉を使わずに
闇を表現するベラルカス
見はるかす川のその橋を裂く男(猫)
(!あああおれにはうまくできない)
心臓に咲く花
脳幹から溢れる光

短い詩だった
おまえのリヴェラ
おまえだけの

898

麻の馨りがする
インディゴ、と口ずさむ犬が
マンドラの前に平伏する
途方もない脈
その中から立つ指
巻き取られた語尾
演奏が凍りつく
さながら
蛹の透明なベロシティ
「意味が不明瞭です」
不明瞭なのは鏡だ
宇宙を折ってしまった指
露骨に霞む指
木の
インテルを視たことがないおれは
書物の中の一本の指を
行間に隠す
埋葬の代行として
麻の馨りのする犬を
優しく抱き上げて
空に埋める
食い込み、減り込む指
何本もあって恐ろしい意味だ
掌から 掌から
生えては落ちる
笑ったような、鳴き声

899

【発振】
幼かった場所に
疼痛
垂れてゆく過去
それから赦されざる腿
誰もが
衛星を持つだろう(言葉)
現代詩の河を
鳴かない星が流れる
じっと、
ゆうせいとれっせいが
蹲踞する
歪な夕焼け
たとえば、こう「!
【理解は発音を超える】
詩語彙について
語るものが語る
そして語らないものが語る
かみさま、さよなら
宇宙で破裂したいのは
美しいから
寂しいから

900

ああああああ
同じ母音が続けば
「絶叫に聴こえるだろう?」
当て嵌めてみなさい
嘘が髪を梳く
今生の別れだろうか匂い
どうしてあんなに上手なルサンチマン
が、薫陶を赦す
(赦されたいから)
多用する首府
(詫びたい滝)
もうすぐ日付が変わる
コミックスばかり隙間に早く
入るのはガラス越しの意味

いいいいい

重ねてはいけない
意味が崩れられない
美しい誤謬
終わりまで、あと一手

901

星が堕ちてゆく
おもい睡りの中へ
割れる海潮音
そして
過去へ翔んでゆく鳥
色彩は
今日を殺せなかった詩集/刺繍
生地は雲を匿すスタンザ
透けてゆく夜
ガニメデの頬が
(幽かに)赤らみ
水平線が撃たれる
焔という言葉を
おまえが継いだせいで

902

暗い視角
溶けてゆく座標系
風を指事語にする音
その不条理な春
畳まれる記憶が
動物のように苦い
独りで滅びてゆく
独りでに滅びてゆく
障るものは皆
暗礁を胸に匿した!

ーーーやがて
巨大な光る眼球が
光線を免疫に刺さない
溶けてゆく春
炎を咲いて睡れ

903

今はもう海を背負って
梟の呼気
花の調和を知る
哀しみの言葉が嗄れ
カーテンが喩えだすだろう
蛍光灯が羽撃たいて啼く
抽象とも
具象ともつかない液体が
切なく倒れてゆく
ありとあらゆる
隙間という隙間から
光が漏れだすのだから
頬には鶸の色
季節のアイオニアン
いつも
始まりから終わってゆく


いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。