twitterにアップした詩たち。2019/11/16~2019/11/30

701

星が墜ちる朝
勾配が叫んで狂う
喜びは時に払暁を凌駕する

悲しみが燃え尽きてしまって
何を描いて良いか解らない画家が
詩人の窓を叩く

喪失が朽ち果ててしまって
何を詠って良いか解らない詩人が
指揮者の庭を彷徨う

朝はもうすぐ終わる
さよなら ゲシュタルト
人は美に成るために生きる

702

【凪】

幸せの朝は
海に色を塗る
夜の残滓を
耳に残して

美しい日和には
時が音楽になる
嵐の鳴き声を
そっと記憶に置いて

形の無いものが
暦を濡らしてゆく
忘れてしまった別れに
鳥影が掛かるとき
漣が言葉を
堪えているのが視えた

703

【共振】

孤独には風が似合う
立ち上がる都市に
耳を欹てた
言葉の渇いた残照に
伸びてゆく陰が
土葬する風が

富裕の耳朶に噛みつく
犬達の亡霊
酒と自涜と言霊
荒れ果てた地に
瞳が赤く光る

孤独には風が似合う
硝子の街路樹の
冷たい光を吐く
睡眠に擬態した驟雨が
ゆずり葉を揺らし続ける

いま
おまえの心臓に降りそそぐ
言葉の無い光

「温め合うには冬風は
剰りにも扇形の虚無だ」

孤独には風が似合う
眼窩の共振を洗う風が

704

【始祖】

雨上がりの星に
東風が名前をつける
それが言葉のはじまり

指が静かに指され
彼岸が此岸になる
それが言葉のはじまり

泣きながら笑うことが出来る
その他者とのゆらぎ
それが言葉のはじまり

狩るべきものが狩られる
神様が秋にいかずちを落とす
それが言葉のはじまり

境界が雨を割る
無数の空が写る
それが言葉のはじまり

躍りが色彩を帯びる
うたが涙に届く
それが言葉のはじまり

「家族や組織に言葉が必要であれば、動物には既に詩がある筈だ。もしかしたら最早あるのかも知れないが、、動物と我々を峻別するものに言葉の起源は溢れる。葬儀、建築、信仰、記録、使命、妄想、、最初の言葉がどの様な意味と音を持っていたか、それこそが詩の父祖ではないか?」

固執が光熱にかわる
憎悪が試験にかわる
それが言葉のおわり

705

あたらしいかぜは
いつもやみのなか
ずっとそこにあって
きづかなかっただけ
やわらかいはなたばが
そっとおちるとき
かべんのかがやきに
ゆくえがうきあがる
おわりはそしてはじまり
たえまないいのちのはて
かぜがはこぶことのはが
あたらしいみちを
うつくしくつくってゆく

706

【hole】

鏡の穴に潜る
光を読んでいる間に
響きが紛れもなく重なる
葛藤が洗濯される
手が伸びてくる迄
昨日と今日の狭間で
悶えている鳥籠
真っ蒼な嘴から
音楽が滴り落ちる
眩しい暗黒から
闇が剥がれてゆく
穴から小鳥が飛び発つ
顔には黒い丸だけが残る

707

さよならの街
そこはさよならだけの街
誰も出会わない
何も生まれない
訣別だけが静かに立つ街
灯らない窓
馨りの無い料理
他人だけの列車
歌の無い本
詩の無い子供たち

どこからか来て
闇のような過去に
溶解される日々
さよならだけの街に
花は咲かない

誰かが帰ってゆく
誰かが斃れる
夕暮れだけが
往来の貌を視ている

さよならの街
さよならだけの街
その闇になるとき
孤独はだからこそ
孤独ではない

708

【海木】

あの海に屹つ神木の
虚(うろ)の中に咲く苔
そこに住む人間達の
他愛の無い嗚咽
海猫の配達夫が
鳴き声のメールを落とす
風は今日も用もなく
苔室を覗いて
何人かにキスをする
(小人たちはくしゃみをする)
これから冬がくる
葉が落ちてゆく
何人かはその葉で
大陸を目指した
何人かは風の途に睡る
何人かは手紙の返事を書いた
神様が海水を飲み噎せる
遥か遠くに
炎が沈むのが視える
春はもう来ないかもしれない

709

【静寂】

君の眼の中に
咲いている花を摘む
花弁、茎葉がある
果実、花粉がある
雌雄が、関係さえある
そして時間が、宇宙がある
名前が、言葉だけがない
手の中で枯れてゆく季節
色を失くした瞳から
去年までの僕たちが
静寂に零れてゆく

710

【焦燥】

風の囮になって
入り江に逃げる精霊に
太陽は優しく罠を仕掛ける
誰かの身代わりになっても
海洋を割らなければ
使命感が疵口から溢れる
波は緩急をつけて啼く
太陽が火を点ける
精霊は歌をうたう
上昇気流が赤い
隠れていた闇黒が浜辺を濡らす
焦燥が貝殻からこちらを視ている
誰にも嗅がれない場所で
月が滲みはじめる

711

【部屋】

フローリングが割れ
そこから湧いてくる前肢
生え替わる和毛の
余韻が艶かしい
鼓動が電灯を明滅させ
そこには誰もいない
扉が開く音
出掛けてゆく風
還ってくる焔
気配が充ちてゆく
欠けてゆく部屋
後肢がそっと顕れる
影の無い場所で
水音がはじまる
眠りが終わる

712

雨に触れた場所に
蒼い花が咲く
予報士の予言通り
街は
いよいよ重くなる
傘が突風で反る
口に入る雫
言葉が単色になる たちまち
感傷は吸われてゆく
追憶ばかりが
喉を焼いてゆく
はらはらと落ちる花弁は
誰にも届かないまま
地面に触れては溶ける
その気恥ずかしさに
傘を深く差す

713

その風を
いつ口にしたか
どうしても想い出せない
魚が空中を横切るとき
それとも
赤い月に猫が座るとき
森が一斉に歩きだすとき
一等星が湖に沈むとき
傘から言葉が降るとき
記憶は気流に
そっと滑り込み
滑らかな軌道に眠りこける
あの熱い風を
いつ口にしたのか
どうしても想い出せない

714

【場所】

通り過ぎてゆく駅の
森だった頃の言葉を
柔らかく聴き取っていた
心の声を仕舞って

土地には嗚咽があるから
小川が道になるだろう

電車が出発する
透明な車両が残る
透明なわたしを乗せたまま
遠ざかってゆく場所

715

ネクタイが解かれる
そこから咲く刺草
水に沈む花
名刺が流れてゆく
箱がわらわらと人を吐く
誰もが誰かの声である
かたちづくられた髪に
言葉が降るだろう
それは風から
ゆっくりと しかし激しく
数値の微睡みに
浸潤してゆく
明日には流れがほどける
結わわれる手首
澱みには黄金が浮かんでいる

716

眼を閉じる
夢を視る
夢の中で眼を閉じる
瞼の下の何かを
(それは耳かも知れない)
そっと閉じる
心の中の透明な檻に
鍵を掛ける
何も
滲まないように
すり抜けて来る光に
挨拶をする キスを
それから
耳をひらく
夢の中の眼をひらく
眼をひらく
うつくしく
そのように
朝は創られる

717

【幻影】

淡い月が海の奥を撫でていました
風の星座は二重に視えていました
供えられた言葉は風化し
夜だけが前世を肯なっていました
魂を落としてきた道が
哀しみを洗い晒していました
新しい暦が過去を騙していました
鳥が電線の中を走り
電灯からは獅子が生まれました
無数の本が闇を呑み
海鳴りが
聴こえたような気がしました
もう帰らなければなりません
陽が登り顔が視えたら
嘘は幻になるから

718

猫が在る
液体である
夜の容器に灌ぎ込まれ
啼き声は潮流である
撫でることを知っているので
体を寄せては垂れる
わたしは滲み出す夢を
そっと首輪に仕舞う
(水を飲む音が疚しい)

猫が集まり流れる
河となる 海にゆく
いのちと懈怠が
睡眠とともにはじまる

719

【涙】

涙の換喩が
海を表象する
寂しさの果てには
約束の遺骸がある
波を越える航路に
行方の知れぬ言葉が去る
もし
それが語源なら
約束は更新され
一番深い港に
滔々と夜が

720

レンズが落ちる音
記憶が霞む
未来のピントが惚ける
世界が曖昧であるとき
星の辞典は開く
航海士が夜を紐解く
明滅は物語る
軌道は光の帯を詠い
過去に四季を刻む
闇は何処までも聖い
頭上の惑星が
何かを訴えている
そっとレンズを拾う
それが再び嵌まるとき
あの星はもう海かも知れない

721

鞄のなかに
詩が詰まっていて
手を差し込んでは
そっと余韻を噛む
口から双葉が生えて
舌は瑞々しく
夜の来歴について
感情が約束される
その頃 嘘は
滑らかに誰かを護っている
嘘と詩の違いは
たったひとつ
詩は言葉ではない

722

【白夜】

哀しみに渾名を付ける
どうしても去ってゆくものと
いつまでも在り続けるものの
その境界を惜しんで

哀しみに渾名をつける
赦されない振動の
せめてもの弔いとして
睡ってゆく太陽の墓碑銘を詠む

ひりひりと膚は
夢ばかりを視ていた
絶え間無く零れ続ける言葉を
真っ直ぐに揺らしながら

哀しみに渾名をつける
親しみに溺れる
正しい振動の世界では
誰も朝を知らない

723

瞼の底を洗う虹が
すべての言葉に
温もりを与えた
柔らかい星が
背をさする時
向き合うものにだけ
光る瀬があった

名付けると逃げてしまう海鳥の
羽毛を描いていた
虹を潜って
翔んでゆく鳥の
詩を

724

あまりにも疾駆する言葉
死は、いつも傍らにいて
風にされるのを待っている
顔の無い日に
順番に処理される追悼
二倍の速度で進む時計
時間芸術が混沌する
刻の早さを喜べ
辿り着くべきものを
忘れ去る前に
指を掛ける
あまりにも疾駆する言葉
その菩提寺に眠るもの

725

睡りの国で
柔らかい記憶を踏む
訴えられた詩と
調えられた嘘を
子供たちは
流れてゆく
枯れていった口伝の
定着と離反を選んだ碑の
たった一度の揺らぎ
消えてゆく夢に
城壁が燃えた
何も無かった訳ではない
それでも何かが在る訳ではない
世界の片鱗が
まなうらをよぎるだけ

兵士たちの無よ
子供たちを救え
夢に滲んでいった
夜の国の子供たちを

726

【暴露】

立ち止まった季節に
意味が眠っている
何処にゆく宛てもなく
光だけをうけて

隠された夢のことを
誰かが詩にする
その時意味は
言葉に深く疵つく

哀しみを抱いて
夜が落ちてゆく
持ち主の無い瞳のなかで
冬が歩きはじめる

727

【光脈】

あの光を
言葉にすることが出来ない
過去を色にして
風に塗っていた輝き
美しい動物たちの
透き通る意志
伐られた樹木の
生まれ変わるのを待つ姿態
本当の心の動きは
名前がつくまえに
熔けていってしまう
あの光を
言葉にすることが出来ない
時の底に睡る街の
哀しみが這うような光を

728

【天使】

河の中に屹立する右脚
腿の付け根は
雲に隠れて視えない
ゆっくりと水を垂らしながら
遡上する源流へ
その足は決して川面から出ることはない
差し脚だから飛沫も飛ばない
左脚は遥か彼方の河を
同じ速さでゆく
生え換わる時期だから
巨大な羽根が降る
蹠で陰になる町
誰もその結末を知らない
天使は歌を歌う
天に届く喉で
大きな脚を
濡らしながら
翔ぶことも知らずに

729

世界の振動が宿る
炎さえ揺れる
魔女のドミニオンに
深淵を突き刺す
森から来た楽器達に
譲られる永遠(とわ)
流れてゆく冬
町工場はゆっくりと弦を張る
馬車から聴こえる睦言
スカートの裾から落ちる呪詛
世界の振動が
生き物たちの遺跡に宿る
人に森に町に楽器に暗喩に衣類に
拱いて
風を

#詩


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