twitterにアップした詩たち。2019/10/16/~2019/10/31

645

【居住区】

音の居住区に起こった声の擾乱
揺れている現実が
奇妙な一致を見せる
星形の反省が透明な
傷痕を化膿させ
はしたない言語化の中に
沈殿する聖杯
悲しみの中枢に流れる血
離れてゆく傷が
美しい瘡蓋と
座位で結ばれる
言葉はなんて恐ろしいんだ
壁の無い扉が
意味の向こうで閉まる

646

【流れる】

美しい闇の甘い地割れが
横溢する絶叫を封緘する
何故他者は地平に無い言葉を
掴み証明し得るのか
オレンジ色の記憶に
ハイライトが充てられる
徐々に滲んでゆく輪郭の
その些細な欺瞞
愛くるしい間隙
柔らかい口癖
紅潮する体臭
その顕在化するコノテーション
街灯の無い道に
そっと差し込まれる象徴
わたしの体から
他者が流出する
闇の抱擁が水のように逃げる

647

【カレイド】

万華鏡の叫びが
視界の果てに刺さる
おお おお わたしたちは
始まっていなかった
訣れる為に出会った
死んでゆくために
生まれたかのように
間断なく繰り返す
さようなら
光と鏡のダンス
傷付けてばかりいた
なんの躊躇いもなく
夜の蓋が閉じる
新しい途が
河と共に発光を始める

648

【枯井戸】

ないて ないて
ひからびた とちに
かわいた ほのおが
はいよる よる
ついおくと きぼうの
ぎじんかする いどで
ごかいされた ぼうれいが
つるべを おとす
からっぽの みずにうつった
きづかれない うそ と
そのかおいろ
はきそうなほどの げっこう
「じぶんにうそをつくことは
どうじに ふたり きずつける」
いどのそこから
つちにおちるおとが
いつまでも きこえない

649

【雨】

弛み無い群像に

神意が挿入される

それは躊躇いがちな実験

その誘惑である―――

蔦が延び

血が夜を這う

脈動が本音を吐くとき

構造が底から掻き混ぜられる

膝には占いのような、雲

魚たちが皮膚を游ぐ

街の地下には

無数の墓地が開拓される

踊れ 厳かに踊れ

何の音が聴こえたか

速やかに叫びながら

人混みを突き退け

月の残像を数え

詩は雨を迎える


650

【雨】

首を撫でるとき
変な声が出るからって
刷毛みたいな語彙で
夢を梳いていたね
交換にはいつも
射出がつきまとうから
握り締めた嗚咽を
そっと夜の草原に放つ
果物が耳を撫でる
背筋を海がなぞる
言葉が形になる
世界が意味に追い付く
イデアが割れて
想像以上の水が溢れる
声が止まない
雨とどちらが長いか
唇が
甘くなってゆく
遠く発情期の獣が
耳を澄ましている


651

【樹火】

大きな樹が
美しく燃えていました
あなたの免疫が
擽られています
風の果てに名は無く
夜には眠りが無い
後悔とは違う馨りが
抱き締めに来る黒点―――

大きな樹が
美しく燃えていました
余韻が絶叫する窓辺
崖から何人もの天使が
おちていきます
希望の微風が
襟足を寝かしつけに来ます

大きな樹が
美しく燃えていました
紅潮する呼吸
淫らな乾燥が火を飾り
廻りにいる森たちを
ゆっくりと支配しました
樵は
静かにそれを見守っていました

大きな樹が
美しく燃えていました
世界が回転しながら
回転していました
その遠心力で火が
消え入りそうなとき
鳥たちは身を呈して
それを妨げました
煌めいた馨りが
神様の言葉でした

大きな樹が
美しく燃えていました
物語が終わりかけていました
すべての名前に鍵が掛けられ
なんの異論もなく
季節が歌いはじめました
樹は朽ちるより早く
育っていきます
大きな樹が
いつまでも燃えていました

652

【治癒】

闇の名前を読むとき
言霊が光を癒す

譬えば星の真下で
港が夢を閉じる瀬
入眠する概念が
際限無く枕を揺らす

胡乱な夢の形が
五芒星の睡眠を忘れ
火の下に揺らしたものの
ディテールを象徴する風

風の名前を読むとき
言霊が光を癒す

譬えば針葉樹の突端で
森が泣き暮れる黄昏
前世の行いが茎から
根へと落ちてゆく暦

山の方から颯爽と
無言の時が棚引き
紫色の村落が
永いしごとを終える


時の名前を読むとき
言霊が光を癒す

瞼の数をかぞえて
遥かなる過去が煌めく
体液の優しい調べに
心からの黎明がある

暗澹としない真昼
電灯が愛を彩る
風には風の路があるように
時には時の経路がある

愛の名前を読むとき
言霊が光を癒す

真理は時間に屹立する
温もりは命の馨り

闇の中の風が
最も永いだろう

時の経路に咲くもの
それこそが
最も光源を治癒するだろう

653

【暖炉】

言葉の暖炉がある
意味の煙突が煤ける
語彙のマシュマロが焼かれる
薪のはぜる発話が
静かに心を伝う
母国語の毛布をふたり
肩にかけて寄り添う
言葉の暖炉がある
死語の熱に
顔が照られされ
イデアの夜は深まる
踊る歌の薪
マシュマロが喉を滑る
悴む手を繋ぐ
優しい距離の炎

654

【瘡蓋】

幸いなるかな人間
言葉の闇を糊塗する
延命の硝子を破砕し
樹木の虚に埋め込む声
その始末が降りしきる

幸いなるかな人間
河の底を浚う舌が
燃え上がる枯渇を担う
言葉を裸にする
若しくは初めての衣装を着せる
そのような業

幸いなるかな人間
構築を遺伝する
その書物的機能
幾つかの急流を下り
確かに鹹水に近付いてゆく
光るものを遺しながら

幸いなるかな人間
己だけのリズムを
見付けたものは幸い
言葉を脈拍を支配する
その栄光が囁く


幸いなるかな
幸いなるかな人間!
この世に言葉が在ること
その蠢く命
その漿液に浸され
子宮のように美しく
世界は燃えているのだ
血液を流れる言葉が
傷口を結晶する
その力を受け継いでゆく
幸いなるかな人間

655

【約束】

火の散り方に
微笑みが游ぐ
触れられた体躯の
はっきりと視える時刻
約束が時を超えて機能し
光をひと粒おとす
その甘やかな出入り
胸の暖かい痛み
愛に戒名を与える
白い煙
記憶までも白い


656

抱き寄せた季節の肩に
柔らかい葉が腐る
幽かな いきものたちの
扉を越えるときの熱い息
ひとりとして
風から還ったものはない
それなのに炎は
滾々と時を灰にしてゆく
最早 疵は新しい水流を指示し
かたいものの
静かな侵入を詠む
土の声が少しだけ聴こえる
朽ちたものの中に
暖かく埋まってゆく

657

抱き寄せた季節の肩に
柔らかい葉が腐る
幽かな いきものたちの
扉を越えるときの熱い息
ひとりとして
風から還ったものはない
それなのに炎は
滾々と時を灰にしてゆく
最早 疵は新しい水流を指示し
かたいものの
静かな侵入を詠む
土の声が少しだけ聴こえる
朽ちたものの中に
暖かく埋まってゆく
サイネージの下
そっと片目を閉じる
右は闇、左は嘘
可愛く病んでいる女の子
シャワーの事を
考えている

658

【豹】

銀色の毛並が車窓をながれてゆく
響きには静かな豹が雑ざっている
呼吸は少しずつ瞼を閉じる
もうすぐ追いつかれてしまう
知り合いに似ている尾
延々と燃えている牙
列車の中を先頭に向かって疾駆する
窓から咆哮が飛び込む
最高位の筋肉が座席や
そこに座っていたものを
あまりにも咬み千切る
隣の車輛に駆け
連結機を外す
四つ足は跳躍し
一直線に頸を咬み切る
着地と同時に転がる頭部
首を諦め先頭へ
(こんな時はイヤホンが気にかかる)
夢の中から刀を抜き
爪牙を祓う
血管を編んだ縄で豹を捕らえる
止めをさそうとしたその時
刃が夢に帰る
背骨を引き抜く
害獣の喉の奥に突き刺す
急停車する列車
その反動で樹が噴き出す
森が始まる
イヤホンが外れる
音楽が静かに
死体と線路の上を流れてゆく


659

雨が深まってゆく
季節の耳がすまされる
渇いてゆく音に
木々の眠りが気付く
空と地上の中点を切るもの
その寒い翼
誰もがそれを止めることが出来ず
赤らんでゆく風
歌が帰宅を促す
命が滋味を貯え
迷子が寂しい途を見つけた
光が最後の緑を濡らす
諦めたように
雪がまた来る

660

【狩猟者】

男は口腔の中から取り出した銃で
写真の中の街を無造作に撃ち殺した
ゆっくりと俺を捜す眉間に
下弦が昇ろうとしている
トレンチコートの襟から焔が撓り
俺の視えない弓を冒す
男は上半身を分離して空を覆う
脚が全速力で背に驟雨を担う
視点を二度碇泊させ
銃弾を回游する

俺の右眼を貫通する指
矢を焚いて男の舌を抜く
たまゆら 世界が止まる
その中を尾骶骨が叫ぶ
動き出した時の中で男が
歌うように藻搔く
影と実態の空隙に
逃げ込むトレンチが
黄昏を写真に落とす
銃弾が隈無い禊となる
俺は避ける空間を探して
紙幣の厚みに転生する

澄明な次元の熾烈
鏃にした奥歯を番えて
移動する闇黒を定める
俺は
血の吹き出る紙片の一部を餌に
奴をじんわりと濾過する
赤い泡沫が冥い舌を焦がす
揺れながら無に照準される刻限
影とコートの殺戮が燃えて彩付く
燃え立つ贖罪の構図を
静かに
静かに 放つ

嘗て嚆矢が無碍にされる
行き過ぎる処女の
襞に匿れるトレンチ
その耳穴から射精される凶弾が
蟀谷を洗う、その刻
少女が悲鳴を天啓し
接近戦を示唆する
弓と銃なら果たして?
虚を突いて後退るも
彼奴は口からも鼻腔からも弾劾する
果ては女子の孔をも使役し
薬莢を燃す

今にも降りだしそうな曇天に
無数の焔が唸る
細胞を量子分解し避け続けるが
処女が盾になり射あぐねる
生きているどのような孔からも
バレッタを取り出せる権能
それは弓より駿馬である
罪人は匂いやかな美少女を盾に武器に
依然近接を試みる
処女の口から太い銃砲が顕現する
涎と涙が垂れる

俺はその砲身をそっと撫でた後
望み通り奴の間合いを盗む
痛む右眼、その眼窩を
眉間に擦(なす)り、
予め弓に変えていた頭蓋
視神経を弦にし引き絞り奥歯を穿つ
同時に処女を掬いとり
彼女の深奥と向かい合わないように離脱する
蹌踉めくトレンチに有らん限りの矢を放つ!

男は弾けて無数の写真になり
黒鳥の羽毛の様に舞い散る
雨が振りだす
火薬の湿気る大気がある

湿った破裂音
俺の背中に孔があく
眼よりも熱い痛みが心臓を鬱ぐ
眼窩と肩甲骨から血が間歇する
振り向くと穴の空いた写真から
硝煙が昇る切り離された下半身

頭部が迷彩した後の残余の一撃なのだろう

俺は安堵のなか少女を見上げる
其の口は大きく裂け
氷山のような淫らな歯並びが視える
顎から肩にかけてが咬み千切られる
薄れゆく風のなか
「獲物は貴方」と韻律が靡いた

俺は血を矢に変えて鎖骨の弓で
人外と化した少女の喉を射抜く
確かに通観した手触り
無数のオノマトペを垂らして
異形の行方は杳として知れない
下弦の月ばかりが写真の中
眼を瞑っている


661

【音楽】

音の花束が届き
心の弓が鳴る
星のかおりが
死の表情をしていた
因果のない涙
落ちてゆく今日の碑
誰も思い出せない
音色が確かに在った
季節の余韻が終わる
静寂が森を濡らし
唄は歴史になる
辿り着いた風に
詩が滲み始める
記憶が流れてゆく
美しく立ち去ってゆく

662

【蛙】

熱をもった言葉が膿む
街は卵の夢を視ている
降っているかいないか微妙な雨が
朽ちてゆく詩を准る

夜に独り 蛙に躓く
たたなずく記憶に
挙げ足を取られるように

それから彼を視ない
言葉だけが
今も濡れて熱い

663

【夢】

疾駆する光
夢の散弾
言葉には焔がある
疾走が音を告げる
複雑な裁決
その果ての湾曲
遠心力の感情
氷を滑る腕
反響が反響を重ねる
最も速い帷子
刺さってゆく那由多
去ってゆく危殆
700の美しい絵
速いものに
夢はあつまる

664

【言葉は言葉をこえる】

美しい橋の影に
渇いた水がある
棚引く風の麓に
夜は静かに甘い
もうすぐ宴が終わる
余韻が何処までも
翡翠の刺激になる
街は猫に濡れて
どこまでも清潔な指に
記された軌跡を視ている
詩の川のなか、本当の事は
どこに寝ているのか
その夢は真実と名付けられるか
美しい橋の影
渇いた鱗が光る
夜が眠る間に

665

【赤い冬】

風が燃えてゆく
金魚が逃げてゆく
樹が顔をゆく
ギターに翳りゆく
行く歳月もその雪も
月の中の蝶
喉が伸びる音が
骨を滅ぼす
さよなら 悲しい途
風が燃えてゆく
金魚が逃げてゆく
赤く逃げてゆく

666

【沈黙】

お前の雪の死には
なんの名前も無いのだ
だから誰の想い出にもならない
欲しいものを全て埋めた
それから記憶にガソリンをかけて
マッチを擦る
なんの名前も無いお前の死の雪は
溶けることも忘れて
沈みこむ空を愛撫する
ながい指で
季節が失禁する
擬人化する永遠
風が喪を奪ってゆく
カレンダーの中を血が流れ
かすかに暖かい
名前の無いことに雪の死は泣く
追憶で暖を取る
赤が溢れる
消えてゆく発音の出来ない言葉
空から降る文字たちが
ゆっくりと網膜に沁みこんでゆく

667

こんな可愛い朝は
月の影を跨いで
火を慰めにゆこう
流れてゆく川の
底に泳ぐものの
忘れられた別れを
爽やかに埋めにゆこう

こんな可愛い朝は
物語をすべて破って
だらしない丘の上で
フルートに口をつけて
服を着たまま寝よう
そっと生えてきた冬の棘に
苛まれる喜びに
打ち震えよう

こんな可愛い朝は
おまえの静かな場所に
そっと耳をすませて
愛の呂律を
しゅくしゅくと確かめていよう
死についての考察に
そっと枝折りをさして
眠りのような詩を
ぼんやり口遊む

こんな可愛い朝は
こんなに可愛いのに
悲しい顔をしている
永遠に会えない夕方や
深夜について

想いを滲ませる

眠りが押し寄せる
何か尊いものが入ってくる
こんな可愛い朝に


668

【知覚】

火花散る窓に
凍結する秘密
誤解の上に聳え立つ
文字と音声の塔
我々の理解とは
果てしない幻であったか
言葉は無数に千切られ
夢は紙に垂れたインク
欲望が欲望でなくなり
かさかさと塔から聴こえる
硝子製の嗚咽
瓦解する民草の歌
感傷が丁寧に埋葬されるが
誰にも気付かれていない

669

【顔】

繰り返される言葉から
炎が零れてゆく
眼鏡が割れるように
意味は離れてゆく
永遠には死が眠っていて
膝まで潅木が来ていた
寒い風が首に口付ける
枯れ葉が爪先を蹴る
季節を跨ぐいきものの
儚い嗚咽のように
何もかも かわってゆく
当たり前の貌で

#詩


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