twitterにアップした詩たち。2020/05/01~2020/0515
933
【斜陽】
頷く尾翼が
アジサシの去就として
薔薇の煤む街に
陰影を落とした
時の気の抵抗を
ゆるやかに劈き
光る水を折りながら
叶ってゆく幻
蕩けて落ちる羽の
浅い匂いのなか
重心の喪失が
冷えてゆくのが聴こえた
それは過去の風
陶器のような
西の陽
934
【契機】
月光の指に
宝石が嵌められる
海月たちの思惟
その透きとおる誤謬
無数の傘が風に靡く
神の胸に
夜が降ってくる
契約の途中
形の無い物語が
部屋に入ってくるのが
強く匂う
935
【無限の描写】
胸懐の永遠が
空を拭っている畏怖
始まりから終わりまでの
躑躅を仕舞いこむ血管
隣人の想像を唾棄する宵
神秘から訪れた未詳を跳ぶ
交わってゆく音楽の
空間的な相克
絶対の意味が睡っている猫に
太陽を撫でる経路があった
耳孔を撫でる指
正しい抽象が降るのを
俟っている硝子
936
【月光】
首筋の顋の
ことばかり翳す
黎明および飛翔
闇の泣き声ではなかったか?
月の羽根をもぐ
イルカたちの飛沫
ひとむらの波紋に
夜窓が音を立てて
潮水を汲む
あちらの暗渠には
悪い谺が出ない
滲みだす秒針
孔から離れてゆく泡
えづく天使
937
【温程】
時間が火のように過ぎる
群生する汗の
そのメタファが
優しい体温を
頑なに投擲する
人には皆
途があるのだから
その上で哭く
用意は出来ている
「くすんだ夜が
冥く揺れる」
繰り返されるスタンザが
形式の視座に
しずかに立ち上がる
938
定型の生理痛さえもどかしく
神に名前をつける夕さり
*
筆耕の右手の奥にひそむ月
樒を踏んで明日が聴こえる
*
行間に溢れる唄があるるかん
*
早稲が燃え二毛作にはウヴラージ
*
階調と死への憧れ初夏を脱ぐ
*
くるまって夜を見過ごすはやい鵺
*
帷子を詩にも赦してサウダージ
939
でも焔は
哀しみのいっさいを沈めて
梁の流れてゆく側を視る
明確な墓標の
神樹に似た采配が
浄められた土の
浮游する五月雨を指し
「漆には火が甦るアモルファス」
が生の天秤が彗星に似てゆく
液体の定義を抹殺する式
言葉の境界から
意味が恥のように熔ける
それでも焔は
結晶として
夜を迎える
940
ウミウシの 蒼い稲妻 虹を研ぐ
手の陽射し 悍ましいのは 星を摘む音
わたしには まるで皮膚なの トリアージ
病葉よ 風を飼ってる 耳の奥
視界には 孔の明け方 日記帳
動詞には 焔が似合う 瑕を舐め
海原に おさない音の 跳ねる月
カーテンが 呪詛を慰め 夏を漕ぐ
941
シナプス 鳥たち
ことばは滅びる
延命 清楚な
椿油
夜がたなびいて
街が眼を醒ます
光るエピファニイ
羽撃たく森
濃くなった鳥の
鎮守府が捥がれ
鉱石は蒼く
視野はつどう
空に涌く水の
正しい風の眼
猫の柔らかさと
父のそびら
ケーデンス燃える
意味の光柱に
巻き込まれ昇る
夢の なづき
942
哀しみを提げるように
指輪が指を赦す
安寧としずかな河
光る鳥と、その音
永遠に属する耳が
季節を聴いているとき
まだ若い陽炎が
膚を仕舞う気配がする
祈りは風を交ぜて
体温を掘りはじめていた
遠ざかる街路樹
毛玉のような朝を
待っている猫
943
星のささくれが透明に折れるから、何度も繰り返すように秋の虫は笑った。わたしは日光を束ねて星のパスワードを畳む。深淵のなかで静かな闇は笑っているのだから、光の屈折についてレディバグの主張を待たねばならない。守秘された門の角張った妖精が、構文を一切無視して優しいひねくれ者である。とても墜ちてゆくばばろあの右眼から響く漆喰。取り留めの無いイジチュールが、Wi-Fiの無い場所でしずかに佇む。
944
夢のふちの永遠が
白くかわいてゆく
何処かへ詠うもの達を
溶かし去る夕星
微笑の底を流れる四季に
柔らかい道が咬まれる
最も美しく
最もはしたない骨の
赤い分水嶺よ
いのちのいりぐちが
徐々にひらくとき
死が睡りに綴じるように
舌の上の月は
二度と還らない
945
もはやどこに歩くべきか
分からなくなってしまったとき
一服の詩を
耳に抱くのがいい
優しい水をわたる
しずかな普遍に横たわる陶器が
指に弾かれて鳴る
その頑ななやわらかさ
すべての幼いものへの
透き通る郷愁と
一度詠んでしまうと
過去に戻れない果実の
羽根のように降りつもる場所から
一房の詩を
河に流すのがいい
海に辿り着いて
名前も無い弦の音になり
風を光らせる
一輪の、一艘の、一閃の。
946
【まだ睡れないもののために】
まだ睡れないもののために
暗誦された手摺の
割れてしまった名前
その晴れる道標が
白昼夢のように
朝の霧を払って
汀線に着地する鳥だった
それから着飾った森林が
陸橋を区別し
安らかさとは無縁の
空を揺蕩う白線
まだ睡れないもののために
液体は譜面を忘れ
放物線の彼方に
薬指を立てた抒情詩を置く
纏わりつくような
暦の影が
固く摩る舗道の
心理を掘り返し
乱れはじめた椅子の
届かない母音に
意味を喪い続ける
まだ睡れないもののために
背中を燃やす窓
頬を冷ます字義
命をほぐす掌
懐かしい明日に
木漏れ日が曳かれる
947
まだ あどけない四季の
鬱蒼とした敷地に
八本の脚を伸ばして
言葉に夜が来ている
惑星の裏に棲む
柔らかい獣の影と
光を羨みながら
言葉に夜が来ている
命に擬態している
悲しみの破線の
葉蔭から漏れる月光
言葉に夜が来ている
真澄みの空から来る
まどかな思想
堪えきれず哭き出す蜘蛛
言葉に夜が来ている
口の中に横たわる
垂直な森の近く
忘れてしまった音楽があり
言葉に夜が来ている
水と水のあいだで
立ち止まる気温の
無意識の蹉跌と
言葉に夜が来ている
時が歴史を着る
美が破壊を撫で
線は嘘をつき
言葉に夜が来ている
すべての黎明のために
すべてのいたみのために
すべての母子のために
言葉に夜が来ている
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。