twitterにアップした詩たち。2020/04/01~2020/04/30
904
犬儒派の水曜日に
睡っている虫たちの
飼われてゆく
絶望と午後
触角から流れる涙の中心点には
演説の得意な白が噎せている
ほらごらん、
闇のなかに生えている産毛の
接点と蠕動が撫でられているよ
摩耗する大三角形
その美意識と失墜
死を担っていたものが
弾ける花
そっとひらく 翅たち
905
海の根を掴むものが
等しい眦を閲する
孤島の底に突っ伏す
頬の赤い死神
快楽としわぶきの余韻
まじないが陰残に笑う
吐息に混じる稜線
その遥かな到達
鳥たちが漁る紐に
ゆわわれた砂の楽園
滴る潮騒
光りつづける逝去
未来のための
空席が生まれつづける
誰の操作でもなく
ただ
生まれつづける
906
透明な、四角い、真実の
流れのなか、うたばかりが
死んでいる場所で、
寒い時間が
静けさを指差す、
その、接点と熱
脇腹が橙に燃える朝
黒い川が
瞼の裏を滑る、から、
複雑で、
言葉に出来なかった霊を、
優しく諭す、
その時間が、朝、としての
公転
もうすぐ、風が、息絶え
新しい名前が、つく。
907
玻璃越しの旋律が
美しく裏切る冬
既に散ってしまった
言葉の花筏に
想うことすら赦されない
音が静かに流れる
生存してほしいから
微笑を掌で照らす
航海士の激しい残穢
のように彫られてゆく空
自然に仮託される意味
大切に想うこと
逆再生は無いと識ること
隔てているからこそ
却って塞げない
風だ
908
貴女の場所には
美しい祈りが旋毛だった
それから伝説の栗鼠が
血を燻らせる河岸
遥か月を見下ろし
兎を一輪と数える
どんな哀しみも
譬喩にしてはならない
沙羅双樹の曖い愛欲
寒い形容
その雉鳩の旋回
所詮預言に過ぎない
樹が瀧のように
のぼってゆく
光る毛髪と言葉の無い言葉
909
受容される流動体
光の沈黙
嘘つきにはなりたくなかった
夜とは疵の言葉
切り開かれる肉のように
美しい笑声
突きつけられた季節風が
弁解を赦す、さない
凪が揺れていた
流れてゆく十字架
背中を押された事があるか
さすられる子音を
切り分けて和む歌詞
流動体が眼を瞑る眼を開く
声だけで知れるゆめ
910
そのテンタクルを
おれの咽喉に突き
息の交歓を食むのだ
鳥たちの嗚咽が聴こえる
音楽に貫かれた尾羽
その視えない根
水液を吸うためにその手指を延ばし
原罪を天空に撚る
揉まれてゆく地理
指板をはしる歯が
滑空を不得手とし
蝕む貞操の
おれの分野を割る
いいさ 喪えば
美しい触手に豊かに侵されよ
911
月に耳を欹て
光の粉を漕ぐ
闇色の鱗
貝殻のように賢い
毒が灯台である
ブイがうずくまる時
爪が波を軋ませ
音像と波形が
深度を予兆する
おまえの耳が櫂になるなら
おれは星を水葬する
猫のように
黒い睡りのなかで
912
星を噛む天秤
その乳
流れてゆくことば
わたしは風ですらない
たゆたう水
その淡い剛性
しなう未明
走り去る夢のあと味
生まれた場所が
祈られようとしている
目の覚めるような青
の唇のような裂け目
可愛い
鍵
滴る髪
夜にしか視えない図形
が 降る
913
【記憶】
引っ掻かれた
神様のうなずき
虹の借用
寄る辺ない葉緑
孤独のせいにして
白を傾かせ
天にむかって
未だ視たことのない重力が
咆哮する
散文化された半径
余韻は波を赦すか?
「卵たちの魚」
が、きらきらと咳き込む
繊細ではない脚韻が
ゆるやかに捲き込まれ
あの駅からこちらまで
猫のふりをする
夢ではしたなく 把手を捻る仕種
額がつけられて
記憶は移動してゆく
高いところから 低いところへ
914
【静物】
干涸らびてしまった星は
触ると砕け散った
水面に反射した夜は
沙の液体を孕んだ
ビルの間で死んだ時間が
銃声のように名を喚ぶ
ねえ あの日燃えていたのは
暗喩の奉仕だった?
流れてゆく憤怒と
嬰児の頃図った角度
狐の鳴き声の考査
モンスーンを吸って吐く聖獣
触手は常に北極星を指す
舗道に寝転んで見上げた月
ずぶずぶと沈んでゆく体
星の粉だけが
瞼にふりつもる
915
美しい海に刎ねられた花が
同心円の平仄に転がり
断続的な黎明が
ブルーホールを促す
粘る音楽の截断面であるとき
時代は処刑人を俟たず
閑かな沖に
一本の補助線を引く
蝶が嘘をつく結晶
そのような甘い水
「太陽の馨りを忘れない」
すべて無関係ではない
あなたの風の痛みも
僕の還る汀線も
916
いつか
傾くカリカチュアの果てで
ゆっくりと捲られる
おまえの心臓と
触れてゆく恐怖の
ひとつの閃き
語彙の
その定型の無惨さに
戦く乱層雲が
魂を濡らすまえに
丁寧に割られた夢の
薪のような揺れかた
稚拙な血液が
垂れてゆく花
いつか
果てのカリカチュアが傾く
言葉に似た審理のなかで
917
深い地軸
ゆるやかな
髪のひかり
言葉の果てを
閑かに濡らし
何度もくりかえす
うわ言のように
羽ばたき
中枢
その響きに揺らす
喉
さらさらと
聴こえてゆく熱
疾ったあとの
唇
もう忘れない
指の形に焼けた
夕去りの地
それから やみまなく
廻りつづける
夜
918
ミンストレルたちの
本当の肌色
風に浮かぶ汗腺が
睥睨する田畑
空の青過ぎる青
距離を
無意識に
賦与するものたち
おまえは
今朝のなかを
慌ただしく墜ちていった
その淡い角膜
や、移ろう孤独
カーテンの
隙間から零れる言葉に
傷つく琥珀を
今でも
おれよ
撫でる
勇気はあるか?
919
猫の場所へと】
余韻が閲される
猫のように
その月光
闇のなかで
撫でる手のかたち
近いのに遠い聲
言葉の二つの耳が
重なりあう路面で
きらきらと湧く水を
浚った
未知には
いつもどこか
わざわいの韻律
その小さな鼻腔
掌を揺らす微熱
常夜灯を剥がすように
脱ぎさられた朝
頬を吸う毛皮
匿された咽が
一日を嘗める
その朝
言葉の窓が啼く
しわぶきの赦される場所
寂寥が泥んでゆく場所へと
まほろばを漕ぐように
総ては孵ってゆく
摩り抜けてゆく愛い生が
ふたたび還って来るために
開け放たれた狩猟の
余韻が閲される
920
【忘失のまえに】
指についた疵を
圧す仕種で
流れてゆく毒を視る
おまえの
美しい怯えを
舐めるように赦す
心の領土が
狭くなってゆく息
その総体
この島嶼の
視えない面積が
蝕まれるクレータに
棲まうものを忘れる
呻く時代
すべてのものが
スクロールされ
指紋 から翔ぶ灰
翅と
死んでゆく季節
悪の文法はいつも
疚しくはない
もう
誰の詩でもない血液から
忍び込む壁
血清の語彙
おまえの帷子のために
おれはどこまでも
谺する
指の斬り口を冒す
液体の水晶の
獲るものと
喪うものが
跋扈する蒼さに
疲れたなら
おやすみ
鈍色の
脆い干渉/感傷が
おまえの場所を崩す
その
921
蘇る蒼
海をゆく方舟
彼岸に散る塵
陥穽の泣き真似が
侏儒を諫めるだろう
基層からサンクションが
執行され
剥離される波涛
一閃する火鳥
海洋のバウンダリに
生まれてきた意味を埋める
海底火山の稜線
叫ぶ汐
蘇る蒼
嵐のとき
電場の焔が視えるだろう
尖塔と断崖
離れてゆく水平線は
亡びようとしない
922
緑青と
懐疑的な暗室
それから白い水が
膜を張る迄
欲求不満の河が
蹠の下を
濯がれる三角州の
恣意はどこにあったか
ねめつける
常夜の果てで
陰徳に耽る
長い脚の獺の
セルフコントロールされ
蒼い洗脳体系
感動的な披差別が
指を嘗めるように
髄漿を揮発させる
すべては疑われる
その方が美しいから
923
【天女の街】
月の窓から
視える景色では
光の余韻が
笑みになるだろう
美しい味覚が
群生する路地で
幾つかの詩論について
夜たちは飲み明かし
そっと南の公園に
華と舟をもとめる
入らなかった書庫のなかには
ヨーグルトをしずかに萌やし
古本屋の夢から
珈琲は唱いはじめた
蜜と焼かれた串と
か細くて白い けもの
冬は不思議な色の光が
ロータリを侵して
緩やかな象を見送る
秋はそわそわと
仕舞われる三十あまりの氷菓子に
楽器店が隣接する
細くて細い路地を貫通する函
歩くものを諫める鳥声
逼塞のあらまほしき
赤と白の格子に
今もなお
人類が溢れる
どうか 安らかに座れ
もはや
そこに無い寺院のために
924
荒れ果てた絵画の指つき
その中に時が俯く
選別される印章の
高貴な場所において
目地は孤独であり
強い言葉である
もし刺し違えても
父の血を塗る画布の
独断と偏見に於いて
宇は宙に喰われて
やさしく嬲られる
波が去ってゆく
その時 遺された砂に在る
涸れ果てた季節が
水を求めて
泣く。
925
音の停泊する港に
鳥たちが汀をつくる
そこから
去ってゆく表意文字
いつの間にか夜の掌が
桟橋を羽ばたかせ
寄り添うような
所作で番うだろう
汐の膜の堆積
消えてゆくブイの吃音
言葉の無い街では
幻の音階が
波と呼ばれる
今も
926
【隠された夏】
神様の匂いの
美しい主義
四季のかたちをした
朝焼ける棕櫚が
生えかわる
あなたへの道を秘める
夏はすぐ傍で
潮のように光り
透き通る衣服を
唇につける
誰もが
ずっと前から
悲しみと逼塞し
汗について
埋葬され続けていた
緑色の眼が
陽射しの次元に滑る
隠された口角の
広い群れが甘く
しんかんと馨るとき
宝石から零れた空が
失った記憶のように
笑う
927
【音色】
ひなげしのような層流
その明るい瞼
アッシュ色の少年が
頭の中の音楽を数える
無の海に続く拍
よろけては笑う風
身体に潜む光の
銀河に関数が置かれる
遥かな星柱
音程が即ち、喩の光を持つ
海底と星雲が酷似するように
メロディと摩擦のために
生が疵を抱く
庇われた曲線
名前の無い音色
闇黒が割れてそこから無数の楽譜が散る
孕まれる無調性が
少年の髪をかわかす
928
【空隙】
ゆれる
世界がゆれる
夜
今までおとなしい人間が
摩擦になる
人は摩擦に創られたのだし
致し方の無い惹起
以前に戻ることは出来ない
遠いものはますます意味を喪い
喪服のような貌で
不安に蝟集する
それだのに
襞や日記にそぐわないものは棄て
知りたいものだけを
噛んではいまいか?
ゆれる
世界がゆれる
生物と月の汀線に浸潤される
磁性流体の棘たち
あらゆる規矩に打ち勝つために
森の気よ満ちよ
震幅の
その倚音に
929
風の濡れかたで
蛍光灯の唄が聳える
もう隠喩ではない身体が
感情を咀嚼する
密室で起きた日付を
「人光に晒す」
どうして渇いてゆく夜の
正しさに鑿の跡が
滑らかに道を彫り
通り抜けるものたちを
俯かせてゆく
言葉の捧げ方が
いつまでもわからない祭壇に
唇を湿らせ
同衾する光を待つ
顕れた途端
滅んでゆくものを
掴もうと伸ばす、掌
930
おまえが夜を開けたり
閉じたりするあいだに
おれは膚の底を流れる
ローズマリーを数えた
光輪が描いた呂律を
どこまでも垂らす髪
その死角に舌が
蒸発を繰り返すとき
あまりにも赤い窓が
ふと 堕ちてくる
いくつも
それを見上げながら
漂いつづける薬効
あまえに
辿り着くまで
渇いてゆく
おれの
灰
931
【エヴァ】(推敲)
おまえが夜を開けたり
閉じたりするあいだに
おれは膚の底を流れる
ローズマリーを数えた
光輪が描いた呂律を
どこまでも垂らす髪
その死角に舌が
蒸発を繰り返すとき
あまりにも赤い窓が
ふと 堕ちてくる
いくつも
それを見上げながら
漂いつづける薬効
エヴァ おまえに
辿り着くまで
渇いてゆく
おれの
灰
932
【容器】
時が
花になってゆく
ふたつに斬られた石の
中心の青
その顕れ
積み重ねた森の
霧の馨りのように
朝
おまえの音容を
瞼に仕舞う
人間のなかに
睡っている波の波動を
器として
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。