twitterにアップした詩。 2019 4/15~2019/4/30
292
心地よい倦怠が
まなうらで光る夜
星明かりのシーツが
何も纏わない言葉をくるんだ
僕たちは 波長に過ぎなく
巧妙な蹉跌が喉元を焼いて
いつかの太陽は払拭される
一夜一夜は薄い皮膜で
価値のない意味が
少しずつ美しくなった
正しい人間に
時はいつも優しい
正しくあれなかった僕たちの
月光が運河になる
293
背理のコートが
隠匿を掻き混ぜる
荒涼の地平に
水滴が隔る
穿たれる本能
能知と所知の戯れ
咲き誇るカリカチュア
夜に名前をつけた
言葉のない街と
意味のない森の
交配種が横たわる夜に
294
鈍色の乳房が
淡い砂鉄のなか
震える裸眼を践んで
盲の子牛を咬んだ
遮断機が空中を裁断する
浮遊する陽炎
広角の貞操帯
駆け抜ける太腿の刃
露骨な言語だけが瞑想する
操縦される肉体
審美眼を瞑り
背景は白濁
295
友よ
世界には
うたのように
透明な森があって
その中で
揺蕩うことが
ある輪郭
ある境界を定め
戦ぐ草の
名も知れぬ未来の果実に
口づけするのだ
堆積と共に
少しずつ
手に残る粗朶
それらを焼べて
友よ
来世も
この胸を
透き通る短剣で
抉ってくれよ
296
わたしは強く
どんな言葉や
霊にも負けず
静かに嘘ばかり
空に吹いてきたのだ。
たとえば 自分を騙す
巧みな言葉や
辛うじて現実である
無矛盾
時にはそれが
優しさの為せる業でさえあり
珊瑚の裏側のように
言葉を愛していた
疚しさが潮のように鳴く
視るものは視られている
嘘たちは泳いでゆく
それはいつも群生で
子を成し
捕らわれ
牙を売られ
食されてしまう
耳と舌の間の
短い無限に
何頭もの嘘が
狡くも寂しくもなく
潜航する
なにも
なにも 視えない日に
怖くも悔しくもなく
泳いでゆく
297
僕の睡眠が
結婚すると言って
恋人を連れてきたから
今までの思い出が
否応なく蘇る
いつまで一緒に
寝てくれたっけ
いつまで
おねしょをしていたっけ
初めてのレムは
献立や食卓の空気でわかった
なかなか寝付けない
反抗的な夜もあった
少しずつ
接点は縮み
ついに誰かの
ものになろうとしている
おやすみ、僕の睡眠
やすらかにおやすみ
今 夜は 永遠に翔び発つ
おまえの見る夢を
知ることはできない
298
双子座の背中から
零れ落ちたオブシダン
共鳴する弦の
残酷なモアレだった
胸の中に宿る
忍従が口から溢れる
無限に嚥下した言葉が
遡上する識閾下の秘蹟
美しい毒で
貴女を窒息させる
その一粒一粒が
甘やかな煉獄
発汗する
深淵という深淵を
その黒い粒子で
埋め尽くして塞ごう
底まで下った後
射精しながら登る
宇宙に還るまでが登攀
漆黒で出来た夜が
徐々に穿つ満月
299
生きていくと言うことの
つまびらかな堤防
やわらかな慣性が
路面を凍らせる
土から生えてくる
言葉だけを収穫した
孤独な穂が群れる
寂しさとは惑星である
300
燃え盛る夜に
楽音が内包される
感興のスペツナズ・ナイフが
城門の蘇生を祈る
そうして
定義されない
わたしたちの霊が
電解質を伴い
霧散する群青
ヤニス・クセナキスの
転移する位相が
露わな楽譜を
鋭く止揚する
ピタゴラスの和音が響く
さよならは函数ではない
301
魂の因果と応報する来歴
性徴が期待を拐かす真夜中
上下する気泡 弾け飛ぶ曲線
どれだけの粒子が虹を綴じ込め
玄能は悪を撃った
紙の花、紙の鳥、紙の火
最果て 地平線に
つるりとしたフェニックスが
酸性の邂逅を
眠りながら ゆっくりと
折られてゆく 手折られてゆく
302
愛することの孤独が
靄の中で饒舌な夜明け
群青のギモーブが
唇から もう一方の唇へ
明け渡される
(夢と現実を交換して
衝動を正当化し損ねた)
零れ落ちる
やわからいものたち
関係という空間から
無限に溢れ出て
闇を埋め
季節と共に溶けて
舌を甘くし
肌を光らせ
記憶が燃える
靄が晴れる
303
生が瓦解する
言葉で破壊する
星で和解する
名前が支配する
その軌道 軌道 軌道
涙腺上のアリア
恒星から溢れる
声が刃先になる
器が差配する
生が割れて
卵白のように溢れでる
流線形 流線形 流線形
304
子供たちの
優しい影が
背中越しに
路地を濡らす
羽のはえた音色
そのリコーダー
ランドセルに詰まった
食べられなかったパン
給食袋 上履
教科書と
まだ名前のない孤独への戦き
時というものが
割られてしまうのだと
紙切れ一枚で
悟らされる夕暮れ
いつも音楽が流れていた
地面に近いものだけに聴こえる
わかれのうた
17時がくる度に思い出す
わたしはわたしを育てた、と。
305
新宿の瞳をそっと閉ざした
新大久保の眉間が
高田馬場に嵌め込まれる
目白の風の凪
池袋の媚態
大塚の戸惑い
巣鴨の事象
駒込の瞬間
田端の亡命
西日暮里と日暮里の姉妹が
鴬谷で矯正を
上野で侵された
御徒町の矛盾
秋葉原の接吻
神田の周遊
東京は廃墟
有楽町は魔性
新橋はマゾヒスティック
浜松町は霊魂
田町は炎上し
品川は不死鳥
大崎はしなを作り
五反田はエゴイスト
目黒は手込めにされて
恵比寿は耳が暖かい
渋谷は笑顔が割れている
原宿の原罪
代々木は60分だけ永眠する
306
まばゆい光の暗喩が
双子座の融和する背骨に
ひとすじの影を落とす
静脈の一本が地平線になり
はらり、と開くと
濡れた翼の歴史が
黒々と羽をひろげる
虫たちに運ばれる鱗粉
受粉する曖昧な植物
有翅植物の甘いかおりが
夜闇に還ってゆく
新しい星座は
こうして誕生する
朝には決して視ることの出来ない
静かな神話を背負って
307
晏如とした蒼空に
黙想する熾火
その天井の矮林に
わだかまる鐘
ユーフォリアの歌姫が
その音色にあわせて
滴を切るのだ
やがて空が滲み
晩鐘が湖底に沈む
水中で反芻される光
底と雲の旋盤
あしたは霹靂でないといい
308
花が咲いていた
青く幽かな
馨りには名前が無かった
夜の群青に
容易く溶けていった芯が
朝を孕んでいた
心臓の形をした季節
弓なりに叫んだ小指
雨雲によく似た糸が
観念的な部分を庇護する
掻き分けて緑に光る
恋はあまやかな闇だった
徐かに 美しい
呼吸の交換だった
309
エビゴーネンを脱皮する
美しい機会であった
世界が凝っと暁鐘を聞き
排斥にしかないものを
稜線に並べていた
そのとき
真実の暗室が光線を放つ
それが本性であると
冷たい低音が
優しく微笑んでいた
言語の園生の片隅で
燃える詩語の海で
310
神様の町でまどろんでいた
優しい繭が歌っていた
孤独の鳥が羽ばたいていた
いつしか海に合流していた
河を遡上することの
困難と悦楽
源流の口遊む
意味の捕れぬ遺伝子が
反射する光
神様の町で瞼を開け
優しい繭の亀裂が笑う
孤独の鳥は群影に融け
いつしか海は 心の前に
寝そべっている
311
夜が泥濘むその場所が
水溜まりとして輝く
新月が風に映り
雨の匂いが高い
夢のあいまに
歴史が燃えてゆく
感情と持ち主のない記憶に
立ち上る三稜石
山麓に沈む季節
恍惚と精神の囁き
永遠が夜空を流れる
発光し歪む
そして外れる 天蓋
そこから覗く
無数の透明な鳥たち
312
現在を周遊する不定形
口の端から零れる
感受された情報が
ゆっくりと
瞬時に
意識の河をくだってゆく
その愛らしい泡達
太初から来たものが
包括され喪われた形が
膨らみ 爆ぜ 甦る
精神と共生する永遠の半ば
人間は方舟である
313
【砂金】
イヤホンから零れる
黄昏の鳴き声を
聴いている つめたく
精神が無言である時にだけ
耳に残る休符がある
{すれ違う(人々)が
夜の眼になる}
無音を演奏するものに
人は皆 砂を贈る
それこそが黄金だと知り
もしくは知る由もなく
静寂に流れる せせらぎを
指揮する
砕け散れ大陽。
314
甘いアポリアに巧まれた
孤独と虚栄心がささくれ
他者より平均であること
そして同時に近い他より
優越であること
その螺旋の撞着に
囚われて擦りきれた日没
悲しみと安逸が
同じ表情のなかに埋葬され
永遠の質疑が
天体のように光る
伝奇だけが自動的に
脈絡される
315
立ち上がることの出来ない
そのような橋に
滑らかな風が
満ち満ちようとしている
夜となく朝となく
導きを浚う大気
倦怠は液体になり
秒針を橘色に塗り分けた
初夏まであと少し
滴に濡れる脚に
時が燃えている
陸橋をわたりくるものの
名前を過去に
置き忘れてきていた
316
諮問されるユピキタス
我々は 彼等に比肩して
計算が不得手なので
いつかは有頂天の儘
隷属するのだろう
指令に対して
やったり
やらなかったりすることは
法悦なのだ
地下化する精神の
その柔らかい水脈が
脆弱か柔軟か
それを決められるのは
記憶である
決して 記録ではない
317
乳房の稜線にそれは輝く
風が吹いて爛れる気化熱
指先は声を飲み込み
或る音程がエスキスになるとき
堅いプレリュードが歯軋りする
金色の稲穂の記憶が
性器のように優しい
微かに隠された布が
時の間隙で露光する
嗚呼
溜め息は水色
旋毛が路面に濡れ
沈み混む韻文
318
曉鐘が正午に引き継がれ
美しい余韻が遥か歴史を染める
宝物庫は開かれ
堰を切る中枢の奔流
気化する追憶の言語を
掻き混ぜて光る匙
陶冶される呼吸が
輪廻を促している
悦びは何故
世界を優しく揺らす
手を伸ばせば
彷徨う光に届く 指先
319
八人の詩人はまずほそいくびから魚粉と麺を垂らす
彼等には箸がないように蓮華もない
鋭利な食券を片手にさげて歩き出す
彼等のみひらかれた眼の隅へ走りすぎる宝物の一群
パラフィンの両面で照らされてはテーブルの盆の類はざわざわしはじめる
もし披露されるものが
一枚の御籤であっても恐らく
その神社は絶叫するだろう
ただちに桃から太陽へ血をながすだろう
いま彼等をしずかに待ちうけるもの
彼等に輝ける未来を与えるもの
床のうえにうごかぬマイクが置かれて在る
金色に光る大きなつるつるの背中
尾は深く2階へまで垂れているようだ
その向うは晩春の屋根ばかり
彼等はすばやくブラインドの裾をまくり
歌唱の生身の腹へマイクを突き入れる
手応えがない
詠唱において
反応のないことは
タンバリンが鳴らないということは恐ろしいことなのだ
だが彼等は少しずつ力を入れて膜のようなハーモニーをひき裂いてゆく
吐きだされるもののない暗い深度
ときどき現われてはうすれてゆく鐘
食事が終わると彼等はかべから帽子をはずし
戸口から出る
今まで帽子でかくされた部分
恐怖からまもられた釘の個所
そこから充分な時の重さと円みをもったカレーがおもむろにながれだす
320
【ビブリオ・ヴォヤージュ】
言葉は夜に旅をする
夢を咀嚼しようと横たわるその頃
閉じられた表紙が蝶になり
透明な世界に羽化する
鱗粉がふりしきり、ふりつもる
言葉は常に船であったので
翅たちは異国へも飛び立つ
名前のない航路 そこに吹く風
瞳の窓から入り込む季節
指先や口伝から溢れる
懐かしい輪郭
韻律がふりしきり、ふりつもる
印字されたパヴァーヌが
時を必要ともせず
眠れる森に染み込んでゆく
蝶は旋律とたまごをつくる
それは太陽の欠片にも似て
象形がふりしきり、ふりつもる
精神の象嵌が丁寧に色を与えた
その文字の藍色が潮流を染め抜いて
蝶達を導いてゆく 導いてゆく
旅程は柔らかく崩れながら
詩人の口を濡らす
着地点が幽かな歌になる
波止場には暖かい雨の歴史
旅の終着は常に伝説の嚆矢
意味がふりしきり
暗喩がふりしきり
情景がふりしきり
白く、白くふりつもる
言葉は朝に蘇る
翅は閉じた方が美しい
永遠の指先に停泊する
終わりなき輪廻が光る
321
旅の終わり
慟哭の返還と弛緩
世界の寿命の履歴
さよならゲシュタルト
法悦は鈍色の祈り
鼓動は竜巻を呼ばない
鈍痛に次ぐ鈍痛
外来語は裂け目に
濡れた指を挿れる
さよならゲシュタルト
光の詩は燃え落ちた
夜と夜の間に在るもの
稲光が欲情する
因果なんてない
靄の中立ち上る
旅の血の馨り
#詩
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