twitterにアップした詩たち。2019/11/1~2019/11/15
670
【潮音】
ゆうとんゆうとんゆうとんと
巨大な水に闇が浮かんで
冥い炎が空へゆく
口にできない言の端が
嬰児のように光ってた
ゆうとんゆうとんゆうとんと
小舟は月の窓を指し
義手を波間に棄てました
別れの手話が沈んでく
波がくすすとわらってる
ゆうとんゆうとんゆうとんと
波は涙を赦さない
小声で潮位が鳥になる
静かな森に打ち寄せる
潮が腐葉土 華にする
ゆうとんゆうとんゆうとんとん
ゆうとんゆうとんゆうとんとん
671
【朝】
夕焼けが朝寝坊した日
哀しみが眼を閉じる
綴じられた樹々の歌に
麒麟たちは夢を啜る
進んでゆく季節の
真っ赤な未来の堀に
掘り起こされた畔の
汗だくな滑走がある
合唱が地下に響くとき
地上では掌が合わせられる
黄昏がベッドから出てくる
動物たちの宴に誘われ
疑われた光はついに碇泊する
ゆっくりと陽が昇る
空がそれを見上げている
672
11月の匂いがする
夜の手前のモアレ
虫達の目配せ 草木の含羞
入院する鉱石 落陽 音楽
写真のような詩群
歳を取る水流
蟠る冬の霊が
さらさらと流れてゆく
手を伸ばせば
悲しみがしゃがみこんで
声を殺している
11月の匂いがする
新しいことなど何一つない
夜の川のように
静かな言葉が降る
673
夢の庭には
真っ赤な陽が咲いていて
蕩けるように確かな
果実が種をおとす
ふうわりと、けれど厳かに
隣り合う頬が
呪縛の破片の中で
穏やかに叫んでいる
ユージンスミスのように
拓ききった無色が
瞬きの間だけ
香炉を掻き混ぜる
明日は
明日は何の日でもない
喪失感はグラスの中で
小さな風になった
674
火炎の倦怠の零落の勃興の安逸の家に間隙無く燃えている失意の失墜の竃の愛してる愛してたさよなら間隙無く燃える痴情の剪定の崇拝の策定の架線の碍子の間隙無く燃える変遷の誘惑の勃興した朝陽が明転する冥転する嗚呼間隙無く燃える執着の撥音の発音が誤嚥する刺殺される言葉が間隙無く間隙無く燃える
675
あの風はどこへ行くのか
汗をかいた思想の気化熱を奪い
古びた墓標をゆるやかに抱く風
あの風はどこへ行くのか
病に似た夢が過敏に開くとき
涙が地に着く前に拐っていった秋
あの風はどこへ行くのか
少女の裾を靡かせ
どこまでも幻影をなぞったひかり
あの風はどこへ行くのか
亡んでゆく街の静かな履歴のなかで
数字の遺跡たちを優しく撫でたもの
あの風はどこへ行くのか
産道を抜けた時代の精の降る指
その指し示す熱く揺れる風は
676
愛くるしい夏が
枯れてまだ間もない
想い出にするには少し
嚥下が足りていない
苦しいことはいつも
気流を蝶にしていた
何枚も指から零れた余韻
声のする方が光るカレンダー
海に擬態した哀しみ
刺さり続ける無垢
あまりにも甘いオレンジ色
補色となるド・ミ・ソ・レ
滴るのは言葉ばかりじゃない
精霊の道が仄かに輝く
愛くるしい夏が
罅割れ、ついばまれる
677
【呼吸】
音信の無い火が
胸腔に響いていた
過去が気化したものが
肺胞を濡らす夜の
それらの相剋と止揚
たゆまぬ鉄の振動
酸素が腰掛ける庭
視えないものにこそ
命が宿っている
水のかおりと
立ち上がる月が
呼吸器に映る
荒く輝く息が
からだを流れてゆく
678
【地火】
とぐろ巻く地下の気が
土を押し上げて燃える
そこにはいつも非難された祈りが
滓のように眠る
隧道の顔にかけていたマントが
ゆっくりと剥繰られる
自分の顔が現れ
表情を変えない
鏡の中の人物だけが砕かれる
突風のうちに消えてゆく幻
彼にも名前があった
何も掘られていない墓石が
音もなく倒れる
闇火に照らされた大理石が
あおくかがやく
679
【声】
声が聴こえる
風の光 木漏れ日 古い家屋のかおり
長い道の媚態 川面の鳥の貌
水たちの祈り 木々の会話
枯れゆく花のハミング
猫たちの食事 俯瞰する鱗雲
声が聴こえる
徐行するビル風
電線に睡る雀 電子看板の粒子
車から流れる詠唱
硝子が戯れる天空
欲望で膨らむ風船が
放される
声が聴こえる
夜に紛れる睦言
静かな哀しみの顕現
消えては耀く期待
ゆっくりと滲んでゆく記述
暴かれてゆく重さ
眼を瞑ると逃げてゆく
閃きや激しさ
声が聴こえる
お前の声が聴こえる
いつも透明な膜のように
世界を赦している
お前の疚しく暖かい遠吠えが
680
【夜】
お前を夜からを護る
それは甚だしい感傷だろうが
少しの火と潮があれば
闇は清潔に眠る
そのとき背中には
美しい森林が響くだろう
心にはいつも夜更の血が流れる
朝が誤解される
言葉が涙を流す
蝋燭が溶けてゆく
空が弔問される
そうして消え去った夜の
遺していった疵が
静かに埋まってゆく
痛みを残したまま
お前を夜から護る
精霊の途とおれの
熱い肌のかおりだけが
詩に終わりを告げる
漆黒の空を龍がはしってゆく
心臓に手を当てる
遠くで警笛が燃える
月がお前を目掛けて落ちるまで
鼓動に耳を傾け
森の寿命について
静かに考えながら
681
【四季】
きみは忘れたろうか
はじめて指を繋いで
暖かい気流を交わした冬を
きみは忘れたろうか
唇の乾きを優しく癒した秋を
きみは忘れたろうか
悪に流される意味を
ただ諦めた夏を
きみは忘れたろうか
光る森の中で
芽吹くように求めあった春を
四季が瀧のように落ちる
その美しい湖
きみは忘れたろうか
未来を游ぐために
682
【ヴァン・ゴッホへ】
火が生まれ落ちる
油絵の歌が鳴る
サイレンと遥かな海
酩酊する街角の嗚咽
詩はいつも叫びを隠し
耳のあった部分が闇るだろう
声にはいつも色が混ざり
ゆっくりと濡れる透明が笑う
弾ける落日とその音程
なぜこんなにも揺れる
言葉に感傷はない
ただ淡々と刺さり続ける
燃え残る余韻
火が生まれおちる
糸杉に雷が降り
美しい怨嗟が
愛を言い訳にする
また会おう正しい狂人
終着するイエローに
バラはいつまでも蒼い
683
【誰何】
立ち上がるもの
立ち去るものが
美しい蝋を流しても
おれには何もできない
炎の視えない部分に
熱があることを
静かに確かめながら
変わっていく青から
目を背けている
ゆっくりと融けてゆく傷
花のように燃える時間を
見詰めてはならない
燭台が皮膚と心臓を超えて
本当の芯を誰何する
684
【追憶】
大好きな幹に
黄金の西陽がかかる
音楽が光源になる
哀しみが過去の表情(かお)をする
帰ることと進むことが
背中合わせではない街
ふるえる心臓の景色
夜がゆっくりと傾く
流れてゆく雲の血
煌めく梢が泣く
追憶の影のなか
僕は美に立ち尽くす
685
【オベリスク】
景色の奥で
瞳の裏側で
無言のオベリスクが
氷雪を待つ 色彩もなく
誰の眼に入ることもない
飾られた苦しみの記念にーーー
いつかゆっくりと
哀しみが下ってゆく螺旋に
果てしない詩が復讐を企てる
そのとき降り積もる雪に
誰も血の意味を
流すことは出来ない
686
【枯葉】
水を含んで柔らかい土の
その炎に眠る枯葉
踏みしだかれている間も
哀しみは音もたてず
地中の季節に寄り添い
自らを慰めている
きみが冬を夜と間違えても
僕は諦めることも出来ない
世界が冰り始める
その前に枯れる葉が
葉脈に隠している意味を
数えあげるいとまもなく
687
闇の底をゆく光を
追い掛ける鳥たち
視えない眼を潤ませ
風はただ鋭い
言葉の河をくだる魚たち
入江に光る黒
名前の無い神に
灌ぎ込まれる地殻が
冬のように蒼い
何処から来て
何故ここにあり
次に眼が覚めたとき
この胸の霊は何処にいるのか
夜を何枚も重ねた闇が
源流に還ってゆく夜に
688
【とける】
光、光の呂律、が、
風の余韻を燃やす、
まだ、星辰は、泣いて
いない、気圏
最果ての、微少は
飛行す、る
その儘、そのあと
裏声を埋葬す、る。
哀しみ、は、
いつも
翡翠色、の響き、
ながれてゆく、
炎?さもなくば、
湧き出るこおりたち。
熔けてゆく
溶けてゆく花
これは命だ。
689
【追憶】
追憶が散るのは幸い
安寧と皮膚のぬくみが
確かに咲いたものに
それは訪れるから
覓めるべきものが
路傍にあること
その幸運にしずかに
膝をつく
追憶が散るのは幸い
闇と海の境に
宝石の嬰児が生まれ
神の画力の上で
正しい言葉が降る
待つということの
豊かな朝焼けのなかに
還ってゆく足取りが
耳をすます
空が割れる正午
とても大切なものが
聴こえる
690
【帰還】
こどうがひをくらうまち
鼓動が火を喰らう街
うさぎがうつぶせでなく
兎が俯せで鳴く
むごんのしきさいがはんしゃし
無言の色彩が反射し
かなたにはむすうのながある
彼方には無数の名が在る
ぶんきするゆまにて
分岐するユマニテ
うたい なく うさぎ
虎狼たちの晩餐
おわりが はじまる
物語が濡れた詩に挿入され
たましいがかえってゆく
正しい炎が歩き始める
魂が還ってゆく
691
【輪廻】
言葉だけが優しかった
哀しみの貌の上で
頼り無く滑ってゆく
秋の終わりの馨りに
なめらかに包まれて
譬えば僕たちから
離れていった風の
燃えるような源に
翻弄された歌たち
その定期的な疵
そこに這う追憶
寂しい鈴が鳴り
かつて名前だったものが
もはや外套を纏う季節
いつの日のページも
暖かい響きを隠し
僕は君の死を抱き締める
すべてながれてゆく
崩れ去る時の中
言葉だけが優しかった
692
【夕鳥】
夕陽が眩しすぎた
孤独へと吹く風の
間隙に立ち竦むには
夕陽が眩しすぎた
去っていった親愛に
場所を与えてやるには
夕陽が眩しすぎた
哀しみに擬態したものの
翼を抱き締めるには
夕陽が眩しすぎた
笑顔や歌声の堆積に
与えられた夢を廃棄するには
夕陽が眩しすぎた
未来に濡れた路面を
俯いて通り過ぎるには
光が呼んでいるような
鳥たちの晩鐘
涙を詩に帰すには
693
【無垢】
クラックが出来る
指先で段差をなぞる
確りと、深く、長いーーー
時と共に
幼い月は増殖してゆく
最初の皹はいつか
光に紛れる
クラックが出来る
その事に慣れてゆく
柔らかい街に立ち尽くし
軋む音を聴きながら
無垢の中に還ってゆく
694
【記憶】
雪が
密かに近付いてくる
喧騒を食む白い虫たち
冬には
秋の匂いは思い出せない
すべてを寝かし付けて
もうすぐ
過去が風にまざる
蜜蝋の気配
時が遅くなってゆく
音に火が灯る
馨りを忘れたことだけ
甦る 寒く
695
【都市】
皮膚のゆらぎのなか
抑えていた街が
血の顔をしていた
交差点には異人たちの群れが
未来の眼を漁り
未だ名前のない
何か大事なものを
瞑ったり入れ換えたりする
孤独には表情が無いから
言葉すら零れてゆく
信号が変わるように
風が変わってゆく
季節が棲む都市には
今年も貌が無い
696
【滑らかな夜】
光は膝の上に眠る
暖かい喉を揺らして
和毛を濡らし
分離する様相を
かすかに燃やしながら
爪には
美しい残滓が掠め取られ
鳴き声の代わりに
閃光を踏みしめている
眉間から漂う冬
いつも優しい場所を視ている眼
少しずつ閉じてゆく月
膝から消えてゆく詩が
697
【鳴き声】
孤独が街路樹に停まる
オノマトペにも出来ない
鳴き声で鳴きながら
その前肢と美しい髭
はらはらと抜け落ちる羽根
金色の朝に濡れ
誰の眼にも入らない
寂しさに喉が詰まる
いつの間にか
視る側と視られる側の瞳が
象嵌される
孤独が飛び立った後
透明な空間がその形に残る
僕は文字に出来ない言葉で
少しだけ鳴く
昇陽とともに透明な器は
柔らかいゴールドに充たされ
僕はまた
少しだけ鳴く
698
ピアノの連弾のように
四季がわたってゆく
風の中の種子が
夢から覚める頃
芳しい髪の女性が
草原に寝転ぶだろう
それまではまだ
翡翠の枯れ草を踏み
風の音階を駆け昇る
取り留めのない顔をした絶望が
短調の振りをしている
恋が始まって終わる
どこか爽やかに
死の馨りさえして
699
素晴らしい明日が
虫眼鏡に照らされ
もうすぐゆっくりと
熱を持とうとしている
晩秋の陽では
火を出すこともなく
ことことと時間が
煮詰まってゆく
金色の11月が
すべての鳥や木々を抱いて
ゆっくりと目覚める
拡大された過去が
優しさに似た
何かを忘れる
700
【落日】
地下には海があった
滾々と汲まれる記号
その下流にゆく窓
そこから覗く遥かな過去
魔法とは孤独であったか
変遷が滝を赦す
天に聳える血
夢から手が伸びてくる
びしょ濡れの夕陽が
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。