twitterにアップした詩たち。2019/1/17~2019/1/31

101

伽藍の中を
ポルシェみたいな顔して
通り抜ける男

刃文の上
ヨキシリの背に乗って
善がる少女

二人をくるんで
圧すような猫の愛撫
美しい涎

彼女達を乗せた
騎乗位の地球

遠心力
加速度
遠心力
夢の内容が
二人と一匹でシャッフルされる

猫の夢みたの
だーれだ?

102

少女が

ダッフルの下に隠す

あざやかな暗黒

その滞空時間

光る殻を

掘削する夜

銀河の別のどこかでも

触は起こっている

少女が闇を宿す遊星が

他にあるというのか?

他の世界の涙は

何色だというのか?

朝の破瓜

その憧憬

輝きながら

音が燃える

蝶に似た 星図

103

精神のカーテンに
柔らかいWi-Fi
色の少ない部屋に
浮遊する常夜灯

肉食の毛玉が
ふわふわと交尾する
性器の先端を照らす
光、、光

後光が枕に擦れて
手首も首も赤い

夜が開く感度

そこから溢れ出る声
誰でもない二人称

俯瞰する愛が
美しい自慰で果てる

104

はしる
アイスが はしる
えきたいに むかい
はしる

はしる
たそがれ はしる
よるに むかい
はしる

はしる
おんさが はしる
ドレミにむかい
はしる

はしる
かぎあな はしる
かぎに むかい
はしる

しんぞう はしる
きみは しる

ほとばしる
ことばがとじる
こいと しる

105

サンバーストの煙草
コートの襟を掻き寄せ
頬を切る風を爬く

雑踏のなかで夜は
コニャックの瀞みを嗤い
懐にしまった透明な銃が
静かに焦らされている

鍵穴のない鍵
名前の無い弾丸
トランクの中の
フランクリンが
縊死する

踏み躙られる
多孔性のタクシー
吸殻の冷たいオーガズムが
匂う

106

渇きが
光っている

自分が正しいというように
風を 光らせている

それが却って
雨を
思い出す

いまに
渇きは砕かれて
そのひび割れから

優しい闇は
身を冷やしてまで
濡れようとするだろう

次の光が
幽かに咳をしている

107




ひかり






し ず か に


割れる




冬の
ふうりん



夢、


努々


忘れない




で、

108

臆病な惑星が
アルコールで紛らす さみしさ
優しいビジターが
内側から嗚咽する

半端に救いの手を
差し伸べる非道は
融けてしまった氷を
元に戻せると思っている

過去の衝迫 現在のディストート
未来は加水分解 され る

まだ幻影は訪れない
グラスの中 罅割れて鳴る 地球

109

古のシニフィエ
人見知りの死神
知りかけたシリカゲルの尻込み
支離滅裂のシニフィアン 詩になる

死に急ぐオシリスと
生き急ぐメスシリンダー
識閾 殺ぐ謗りと
粋に禊ぐSiri,Hey!

息をも衝かせぬ衝迫
強拍とリズムの天稟
天秤に乗らない分銅
寸胴 っと しりとりの詩となるや?

110

朝焼けが 瞼を燃やす

道をゆく街路樹が

肩にとめる静寂

伝播する北風

それさえも燃え尽き

二月の寒さだけが

会釈する二車線

この朝はいつか

あなたに届くだろうか

優しい髪の 暖かい脚の

光る鳩尾の 白い子宮の

透明で もういない

あなたに届くだろうか

あなたに 届くだろうか

111

膨らむハイビームの夜
海沿いを曲がりくねる言葉
車内に匂うカラヤン
目的地はまだ遠い

いつしか会話は揮発し
信号も対向車も少なく
助手席のガラスが
眼差しを写し続ける

朝は来るだろうか
ダッシュボードに
覚悟は見当たらない

静物画のドライブ
三人目はまだ
喋ることが出来ない

112

不思議なことがあった

吉岡実の詩集を借りに
近所の図書館へ行くと
例外的に休みであった

そこで
入口で配布していた古本の中に
「國文學」昭和59年12月号
を見つけ
只で帰るのも癪であるから
持ちかえらせていただいた

その号は「詩集とはなにか」
という特集が組まれており

中原中也「山羊の歌」、吉岡実「僧侶」、三好達治「測量船」、西脇順三郎「Ambarvalia」、大岡信「水府」、田村隆一「四千の日と夜」、石原吉郎「サンチョ・パンサの帰郷」、吉増剛造「王國」、金子光晴「落下傘」、石垣りん「表札など」etc..についてのエッセイや評論が掲載されていた

私は丁度その数日前に別の図書館で中原中也の小さな展示を楽しんだ後であったから、その國文學を楽しみに家路についた

先程、その吉岡実の頁を開いてみたところ、そこから二枚の紙片が

その一枚には誰かの手書きの
中也の「サーカス」とその注釈

最後に「中原中也は難しいです」

もう一枚には「どうも ありがとうございました また 見せてくださると うれしぃなぁーと 強要してしまった、、」と有り
その文言の下に少し珍しい女性のフルネーム が

その
女性の名前は
名字こそ少し異なるものの
私が初めて
セックスした女性と同じ で

私は自室で無表情で
鼓動を荒くし、
そっとその紙片たちを
元の頁に戻した

そして私は國文學を持って図書館へと向かった

彼女は遠くに住んでおり
もう15年は会っていない

携帯電話の番号だけ
未だに記憶している

113

人々が手にした流星

奴隷が命を懸けてやっと
制御出来る夢を見得る
人工の雷鳴

夜を燃やす痛み
人間存在の凍結
不断の営為の痺れ
空白の流通
どれだけの自我が
恩寵を授かり
どれだけのesが
剥落しただろう

冬のポエムの剥製
人々が手にした流星

愛の天寿が
すぐそこまで来ている

114

月は空のドアノブ

つかめば 空が

ぱかりと あいて

もう会えないはずのひとたちに

じっくり再会できるのです

でも 月から見れば

地球こそがドアノブ

今 ゆっくりと 空を覆う

おおきな 手

(以下推敲)

月は空のドアノブ

祈る掌から

夜がひらいて

もう会えないはずのひとたちに

じっくり再会できるのです

けれど 月から見れば

地球こそがドアノブ

今 ゆっくりと 空を覆う

おおきな 白い

115

溢れる nectar
に触れる ネクタイ
ニヤける 肉体
見蕩れる 肉塊
に溶ける 深海
肖ている 心肺
に惚れる 困憊
匂える 痕跡
に燃える 縁石
悶える 艶冶に
絆した 松脂
化野 待つ闇
裸足の 愛病み
あたしの 愛液
浸した 駅間
に足した 王冠
只管 おおあま
其れすら 普く
反らせる nectar!

116

この邦の 孤独に

何を捧げられるか

八百比丘尼の死角に

名も無き放埒が

響く肉声 灰汁に散る

皆気付き始める

無垢に見える地獄に

皆 気付き始める

(外つ国は疾っくに―――)

寂寥と無聊の海で
光は可能であるか?

言葉だけが知るのだ

自業自得に 泣く虹 を

117

笑い声
択ばれる
ルビーさえ
液体の
野分から
落日が
がなりたて
掌(て)のなかの
祝詞だけ
閲しても
黙すのみ
水際の
ノエルより
鱗粉の
残り香か

神様は
晴れ渡る
坩堝から
雷鳴を
折り節に
煮え立たせ
セックスと
戸惑いの
濃紺な
ナルキスが
顔面を
置き去りに
逃げ出して
天に咲く
栗の 花

118

【儀式】

詩を書くことは
まだ名前無き
美しいもの
恐ろしいもの
その命名の
儀式なのだと

たとえばそれは
寄る辺ない夜
麗しい嘘
朝焼けの畔
咲かない桜
泣けない涙
揺るぎない雪
子供らの声
過ぎてゆく鈴
溶けてゆく棘
虚しい胸の
鮮やかな愛

輝く影に
言葉を零す

儀式 なのだと

119

神様 てにをは
並べて 微笑む
土曜日が眠り
星は 燃える

神様 てにをは
摘まんで 転がす
閏年 焦がし
朝が 溶ける

神様 てにをは
しゃぶって噛んだら
立春 罅割れ
風は 吃る

神様 てにをは
甘えて 泣いたら
黎明 優しく
森は 光る

神様 てにをは
選んで 棄てたら
正午の戦争
虹が 凍る

120

苺 食べる

一期一会

朝の 競りが

市に 光る

一語一句

違いないよ

競りに勝って

たんと買った

苺 甘く

一期一会

思い出した

苺つみに

冬の終わり

姉と二人

夢の彼方

甘い記憶

眠い月が

朝を見てる

甘い苺

春が近い

121

海猫の 鳴き声 響く段差さえ
鬣になる 朝の月かも
煌めきのまどかな地獄 風のうた
それらが全て波を統べてる
透き通る月の兎を観る人は
体の洞が空腹であった
ハイヒール朝の光が海に差す
踵を上げてぬくみ求める
経血のぬめり密かに輝いて
潮の匂いが月に紛れる

122

透明な森 火の梢
光はさやぐ 幹の下
悲しみ歌う 朝でした
神様ひとり もう明日(あす)へ

螺旋の河の 夕まずめ
魚の食べる 羊歯の舌
小石の遊ぶ ユキノシタ
優しい歌に 翔ぶ雀

どれほど水が 流れても
風が昨日を 渇かして
朝は静かに 今朝の顔

冬の花弁が 薫る瀬も
いつか海への 砂として
神様だけが ひとり 蒼

123

抽象画みたいな猫
撫でながら見る正夢
少女が誘うソナチネ
忍冬毟る夜更け
柘榴の色を忘れた
盗賊の割れた額
鼠径部に咲くトレモロ
猥雑な木目の椰子
縫箔が映える列車
火炎と後悔の風
魯迅と勝ち取った梁
矛盾と光沢の鞭
ルカデラロビアのペニス
サモトラケの妖しい芽
優しく勃起している

124

悲しみの漆を
重ね塗る器よ
朝と夜(よ)が来るたび
厚く おもく 光る

禁じられた声や
赦されぬ嘆息
忘れられたぬくみ
その歌をよそって
どこかに流すため
そこにある汁椀
歌が降り積もれば
浅くなる器よ

悲しみ塗らぬなら
渇いてただ 割れる

美しければ なお
寂しさ 深くなる

(以下推敲前)

悲しみの漆を
塗り重ねる器
朝と夜(よ)が来る度
厚く 重く 光る

禁じられた声や
赦されぬ溜息
忘れられたぬくみ
その歌を盛り付け

どこかに流すため
生まれてきた器
悲しみが積もれば
狭くなる器よ

美しければ なお
深く さみしくなる

漆を塗らぬなら
渇いてただ 割れる

125

昨日から今へ
季節は韻を踏むのに
君は希望している
日々の意外な響きを

去年の今日は曖昧
去就の導く挙動
去来する言葉の流れ
昨日の潮のみちひき

生理現象や挨拶
生活と登下校
星辰と海と夕焼け
清潔なうたに生まれる
わたしたちは 今日
わたつみの詩中詩

126

昨日今日あした と
生活が韻を踏むこと
君は退屈する鳩
変哲もない火処(ほと)

去年の今日の糊塗
今と同じ男と
あの日と同じ歩行
無意識の淡い模糊

挨拶やいのちの使命と
仕事や学校や使途
朝と夕焼けの糸
日々はうたっていた
わたしたちは いま
詩の中に在る詩と

127

昨日今日明日と
生活が韻を踏むのに
あなたは退屈している
何か特別なことはないかと

去年の今日は曖昧
それでも今日と同じ営為が
今日と同じ言葉が
ひとつは繰り返されたはずだ

挨拶や生理現象
仕事や学校
朝と夕焼けと星
日々がうたになる
わたしたちは みんな
詩の中に在る詩

128

サターン黄昏
人工衛星
正午に輝く
海が燃える

星座のおはじき
神話を創って
土星のこころは
うたをうたう

そらの輪 降り積む
静かに燃えてる
軌道は枉げない
風が荒(すさ)ぶ

衛星 惹かれて
灰色 はらはら
あの夜 あの雪
音符に なった

129

そらの輪すべて墜ちる夜
硬くて熱い雨が射す
軌道は軸をへし折って
風の刺青吹き荒(すさ)ぶ

衛星たちは引力に
惹かれ燃え尽き灰になる
あの夜降った雪だけが
土星の音符の月だった

130

サターン死んだ黄昏に
ひとり輝くカッシーニ
5時間あとの正午には
タイタン 海を焼べている

星座を指で摘まんだら
新たな神話を配置する
土星の内なる旋律は
そういう歌を奏でてる

131

サターン墜ち
カッシーニは
5時間後の
午後に光る

星座抓み
並べ直す
土星は今
歌をうたう

そらの輪たち
すべて砕け
硬く燃える
雪になった

太陽系
六番目の
あの日降った
音符だった

132

そらの輪がすべて墜ちる
硬く熱い雨が射す
軌道は磁場をへし折り
風の刺青が荒(すさ)ぶ

衛星たち引力に
惹かれつつ灰になれ
あの夜に降った雪は
サターンのうたの音符

133

サターン死んだ黄昏
カッシーニは輝いて
5時間後の正午には
タイタンが海を照らす

星座を指でつまんで
自由に配置しなおす
土星の内在律は
そのようにハミングした

134

砂時計に潮水をそそいで
小さな海にしている
草も浮かべよう
小さな貝殻
熱帯魚

抜ける
大きな闇夜
底にこずむ時間
岩影に紺色の悲鳴が
巨大な蛸に太陽が燃える

135

さよならのかわりに

手をつないで歩こう

さよならのかわりに

帽子を少し上げよう

さよならのかわりに

光る浜辺にすわろう

さよならのかわりに

優しい嘘をかわそう

さよならのかわりに

あの鳥の歌を聴こう

さよならのかわりに

縫いぐるみを抱こう

さよならのかわりに

思い出に封をしよう

さよならのかわりに

両手をじっとみつめ

さよならのかわりに

ゆきに傘をささない

さよならのかわりに

雲のおはかを見上げ

さよならのかわりに

あなたのいない世界で

さよならのかわりに

あなたの歌を歌おう

さよならの

その かわりに

136

2本の包丁が 名前のない男によって
コインロッカーに秘められる

雨夜を斬ったばかりで
いまだ錆びる気配はない

男はそっと濡れた鍵を抜く
窖のなか、袱紗に包まれたそれらは
無言で目を閉じる

2本の包丁は暗闇の中
互いの刃紋を暖め合う

睦言に今まで斬ったものを
告白し合う

肉、骨、皮、葉野菜、根菜、果物、指、命、

抜かれたとき付着している血液、

鎬の摩擦
柄のふくよかな硬さ

細身の甘い菜切り包丁が
絶頂を迎える

出刃包丁が肩で息をする

朝、コインロッカーの中で
勝手に刃零れする包丁を
男は不思議に思う

朝陽に晒された菜切りが
啜り泣いている

137

ぼくのみえないひこうきが
いまとびたとうとしている
こどもとおとなのあいだで
りりくとちゃくりくをしる
もくてきちはそのひまかせ
みらいはみえないけれども
すぐにもくもをつきぬけて
かなしみのおーろらもやし
ひこうきぐもをたなびかせ
あなたのふくよかなもりに
やさしくふじちゃくしたい

#詩

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ハル(黒崎晴臣)
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