twitterにアップした詩たち。2019/07/16~2019/07/31

473

【裏面】

命について
新しい言葉が要るだろう
おれたちは
視えるものしか知らない
たとえば普遍と個の識閾について
その周縁をなんと呼べば?
たとえば海とその洸の位置
たとえば言葉と声の癒着
たとえば記憶と現在の稜線
たとえばおれと神様の浸潤面
あらゆる裏面に
名も無きものが無限に存在し
そのひとつひとつが
鼓動を伴って
おれに迫る
季節を演じながら

474

【接吻】

光の嘘が
屑みたいに跋扈してさ
世界は疑似善だらけ
定款が所与を濡らす
初めて受け入れた潮流は
悦愉と対峙していた
詩は音楽と交歓して
背後に通奏低音を獲得し
エピソードを捜す
言葉が揃ったとき
嘘の定義が
ゆっくりと唇を冒す

475

透明な音楽が
言語の雪を融かし
静かなる貨物が
休符する路面
地下茎から湧きおこる
神々の黄昏
蒼白い笑顔が
仮面を喪い
論理とも観想ともつかない静物が
たしかな音程を周期するだろう

焔の歌を聴いたことがあるか?
あの澄みわたる余韻の寡言を?
永遠に焔える朝
その愁しみの歌を?

476

【色彩論】

式神の色彩が
臆病な死人を嘗めるように
慰める
ずれてゆく断層を
そっとなぞる仕種
今まさに夜更は傾く
使役されるものたちの
託つ声が
性欲を伴って
清潔な床に飛び散る
背後から抱かれたときにだけ
聴こえる悲鳴
緑色の精液が
あり得ない過去を精算する

477

【均衡】

仄赤い水辺に
遣る瀬ない磁場が
原罪を赦し続ける

疲れ果てた少女が
天国の言葉を信じる時
水面の裏側の幸運が
にんまりと笑う

喪うことと獲ることの
その均衡に かつて名前が無い
純潔を売却した対価が
時の下流で
子宮のように光っていた

478

【リグレット】

どのようにしても
覓めてしまう
食われてゆく花束
その散る花弁
蟲達のわかれ
変わってゆく命への
黄昏の喩えや
実るはずだった自分の
掠れかけた指先
花には
摘まんだ指を
花粉でけがす力があった
どのようにしても
覓めてしまう
咲かなかった花の
その疚しい馨りを

479

死について語ってはならない
それはうたわれなければならない
それは断言されてはならない
黄泉について創出されたのは
去りゆく愛しいものの幸福を
想像したからだと
そう信じなければならない
優しさが思考と行いであるなら
去っていったものの
その顛末のせめてもの幸せを
産み出さなければならない

さようなら
あなたと会えてよかった
いつも正しい背筋で
月蝕してゆく未来と
彫刻刀で抉られた過去を携えて
猫のように
誇りを咥えて生きたものよ
静かな畏怖のなか
勁い瞳孔を閉じたものよ
死について語ってはならない
それはうたわれなければならない

永訣が並べ立てられ
聴こえない音楽が聴こえる
そして闇が払われ
途がまっすぐに光る

480

【塗装】

割れてゆくカルマバート
その決裁に耽溺する
緘黙より美しい樹海
言葉より寂しい接合性
光はいつも暗喩する
そして地下には
隠された光源が眠っている
ねえおまえ
夜が濡れている最中に
真っ直ぐな真鍮を震わせて
陰惨な季節の境界で
冷たい路地を噛むおまえ
誰にも似ていない
はっきりとした皺で
俺の蟀谷を射精させてくれ
薄く塗られたウレタンの
その濡れたように視える
罅の中で

481

【復活】

夜を湿潤させる
苛烈なリザレクトが
甘い声に紛れて
矛盾を曝け出す
ブロンドの毛髪のような星辰が
無邪気に夢を圧し殺し
インスタのストーリーで
美しい摩擦とその擦過を
踊らせるのだ
掃け口の無い怒りが
承認されてゆく課程
滅んでゆく色相
今命にしかない苦渋を
性に蘇生する

誰もが擬態する
暗い湿度のなかで
飽くまでも
厳かに未来を冒す

482

【契約】

書面上の炎が
三日月の比喩をメンションする
路傍の詞が
長期的に視れば煉獄である
音に依ってゆく
その裏に流れる匂い
修辞に何が出来たか
そして出来なかったか
わたしたちが泣くとき
言葉はいつも無力だった
光を握り潰すように
ぬめらかな手触り
すべては心拍である
その中で語られる
流れ出す永遠
今 言葉の世界で
優しい契約が
鈍色に叫んでいる

483

【睡眠】

少しずつ眠ってゆく風が
溢れだす感情を音楽する
ゆっくりと下がってゆく緯度を
縫い合わせる街
マナーが破られて
烙印は無限である

逢いたい人に逢い
泣きたい人を泣く
そのような夢の中で
批准される約束

疲弊するシーツの下
一人ずつ
まだ目覚めない

484

【惜別】

時間が
消えてゆく
虚しい漣のなかで
呪文のように
風に堕ちてゆく
涙が
流れては
揺れるその前後で
魂の角度が変わる
生きるほど
磨耗するほど
坂は急になる
様々な途の隙間に
光は淀み続け
火時計が
水のように
歳月を
吐く
どこにも
留まることなく
別れ続ける

485

【無について】

白い黒が
三角に濡れている
可愛いらしい微分が
音程を証明する
苦しみの中に
没入する快感
その余韻と要因
赤い青が
質量を解放する
繰り返される
神々の演算に
感情を殴られる
冷たい瞳の下
真実は鏡像である

486

【図形論】

トラピゾイドの
柔らかい
鎖骨
病について
赤いrondoが
ソーダ水

溶ける
光と
あらたかな

喧騒に
ブランデーを垂らす
死が
固陋しない
夜が
季節に
なる
矩形に
なる

487

【夜】

甘い太陽が昃くとき
惹句が響き
音声に
指が立てられます
(哀しみばかり光るのでは
音楽と云えるでしょうか)
夜の風が靭やかに唄います
少しずつ撓みが
魂を煮る前に
わたしの顔は
斜めにゆがんで
美しい音程に
似てゆくでしょう
本能の周縁に
揺蕩う羽虫
そのように
沈んでゆくでしょう

488

【呼吸】

伝説が少しずつ傾いでゆく
都合良く陥没する路面の
儚い澪の先に
雨脚が強くなる
遠い国で噴火した夢
その赤い残滓
わたしの視た景色は
本当ではなかった
焚べられてゆく言語
共有される死
脳裏を冒す色相
探していたものは
本当ではなかった
何よりも美しいクレーター
その陰鬱
伝説が傾いでゆく少しずつ
わたしは呼吸を忘れる

489

【祭祀】

幸せな旋毛に
挨拶を贈ろう
悲しいだけの修辞に
餞別をやろう
宇宙の真理に
鶏鳴を放とう
木漏れ日は薫り
柔らかに移ろう

ああ、世界なんて
すべて幻
地図のように
正しい神話だけを
選んびだす所作

その中で神酒を
滑らかに飲みほす祭祀

490

【クロノロジー】

時系列の地盤が
記憶の断崖で沈下する
炎の行く末に
建立される静脈
咀嚼される寿命
カウントされる壊死
真っ赤な性が
明日を捏造する
"どうしてわたしは
わたしに生まれてきたの?"
解答を選択する遍歴が
宇宙の残像と相似する
正しく列べられる過去
正しく滅ぼされる家系図

491

【Envelopper】

ねえトロン
繋がる星の死を
見詰める視線がある
可視化されない連続を
言葉にすることで
憐憫される事態
柔らかい夏が
夜を包括するとき
人間は包んでいるか
包まれているか
無数であることの
恐ろしいまでの使命が
空間の泥土に掌を突き入れ
巨大な芸術を
掴み出すのだ

ねえトロン
ぼくたちは無限に近い量の
惑星を浪費するだろう
視えないものを
あらわすために
何らかの譬喩を
傷付けるだろう
そして今までにない文法の
耳の上を優しく撫でるだろう
それから、死について
そっと話し合うだろう

ねえトロン
きみのか細い骨髄は
いつもゆらゆらと
冥府を往復している

次に逢うときは
夏に包まれて

492

【鎮魂】

静かな骨に
残っている肉を
こそいでいる女性の
燃え盛る固執が
新たな宇宙の
孔を振動させる
青い瞳に
ゼーレは
不定である
その色彩

質量について
感情は煮沸する
孤独はいつも
炎を叫んでいる
わたしは立ち尽くす
風にまみれ
自転する天体の表皮で
桃の馨りに
幽かに浸りながら

493

干からびた光
その柔らかな付着
品のある剥離が
視界を止揚する

睡眠が優しい結合になる
穹窿がハードレンズである
改訂される夢の語法に
肉体が呼応する

誰しもレムに死んだのだ
そこから神経を巻き取って
魂魄を丁寧に仕舞う

あなたが瞳孔の夜に
溺れてしまうとき
せめて光に横たわっていたい

494

静止する喊声
土煙が罷免される
遠くまで届く毒
裂かれた時間
から垂れる欲望
ああ、雨が降ってきてしまった
詩の上に
言葉の上に
墜ちた雨滴に羽根が生え
再び飛翔する
眩しい鼓動
シンプルな呂律
購いきれない白銀
蘇る黒
誓詞する歓声
正視する 静思する
制止する
陥穽
再び死ぬ黄金
完成

495

【夏のイディオム】

飛行機の生殖器の
速いうたが
喉を凍結させ
ランディング
する頃には
胎内に星が宿る

馴染みのあるエクリプスが
破線から踝を出すとき
疾駆する薔薇が
夏を捕縛する

声、それから声
空気の無い地層で産気付く
天体の散佚

496

【顔の中の花火】

力学的の晩餐が
リビドーを表情する
亜鉛のサナトリウムが
ノワールの花火であり
論文の最期には
直線が垂れ下がる
凍結する理不尽
乖離する蛇の滲んでゆくきざはし
豪放な靴の
ポエティックな螺旋
広がる視野の群れ
連祷される砂漠
汗が這う内腿
帽子が焼却され
夏の花が厳かに離陸する
世界の果てに踞る少女が
フォセットを
優しく優しく刻む

497

【ライン】

蝶が啼く森
木漏れ日が
疲労を埋葬する
獲得される
亜熱帯の境界
資源を砂にして
虹になる植物
美しい毒が
越境を詠いつつける

498

【まどろみ】

哀しみに色は鮮やか
光は今も抒情を躊躇っている
変わってしまったものの
原型を想いださせる庭に
愛おしい生き物が
一日中
睡る

夕焼けに凭れて
心をうたわせる
時とともに
少しずつ堕ちてゆく恐怖
空咳が止まらないのは
空調のせいだろうか
眠っていたものが
わずかに瞼をひらく

一日が一年になるとき
風が軋むだろう
噎せかえる夏の心境
音に驚いた猫が
素早く庭を立ち去る

499

光る森林が
心の奥に 今朝 急に
拡がっていた
わたしは主語を埋葬しに
羅針盤のまま 森を彷徨う
報いの樹が無数の果実を宿し
土の香りが朝を穢す
この森で聖らかなのは
乾燥だけである
瑞兆が樹の虚から
洩れ出す時刻に
そこは美しく乾いている
フロマージュのような朝日に
鳥たちは絡まっている
梢の向こうで号泣しながら
相応しい場所には
いつも目印がある
わたしは透き通る墓石
その下にかつて主語であったもののために穴を堀り、両手でそっとそれを落した

まだ体毛が濡れている
泣きながら土をかける幻視
ここに樹が生えれば良い
無数の果実を宿し
懐かしい薫りを放ちながら

500

【オペ】

優美な検査が始まる
冶具は怜悧である
便宜上の愛撫が
オーナメントを隠す
おれは真っ赤な検査服を
32個に切り裂く
名前の無い色をした水薬を
おくびを禁じられながら
浸潤するまどろみ
サルベージされる患部
ネオンが中和する空間
姿見が端から順に割れる
おれの背後に立つ女が
口だけでわらう
傷が露出する翠の布
その下から聴こえる
儚い水晶
あまりにも永い殴打
まだ目覚めない書物が
静謐の刃物を濡らす

麻酔の後
鋼の脚の赤だけが
腹に停まっている

501

【機密】

その店は
白い名誉に睡る
光の波動が鳥の鋭角である
名前の中枢に安らぐ
宝物が心理である
反響のアドレッセンスが
定期的に美を形容し
調湿された商品を抽出する
滑らかなはだえに刺青が降る
倍音から倍音へ
愛情表現があり
地下の深くから突き上げる
知悉されない波動がある
喜びが決済され
世界は螺旋を階段する
感情が伝播する梢に
スライスされたスタッカートが
煌々と刻印される
強いことばが放たれ
機密が護られる
今日も高価な神話が
持ち帰られるだろう
荒れ易い
透明な庭に

502

地下鉄は転がる
全裸の女性を睡らせ
彼女は誰にも視られない
習性を安置していた
馨りが毛髪の存在を誰何する
パンタグラフから
嬌声が聴こえる
床には無数の花が刻まれ
駆けるのに心苦しい
トンネルが魚影を撒く
餌をねだるビーグルの瞳孔が
客席を支配している
忍耐が殺し合う戸袋に
菊の匂いの女が酩酊し
目的地が淡々と消失する
ルビー色の汗が
脇の下を濡らす
脱ぎ棄てられた衣類が
窓の外に鏤められ
視えない指が膨らむ
急停車する詩が
線路を光らせている
次の次が目的地なのに
次が終着駅にしか視えない
光はとうに途切れている

503

【明日の追憶】

意味が焔になるとき
意味は滑空する
空白が露出するとき
空白がわたしを扶ける
いかないで、いかないで
空間よ
偶数の亀裂
あたらしい石が割れ
内奥が輝いたとしても
涙が路面を淡々と割り続け
天使にリストを手渡す
常温で透明な地の光が
焔になる 滑空する
露出する 扶ける
かえりなさい、かえりなさい
もと来たフィールドへ
粘土のように高い音を鳴らし
いちばん底にゆっくりと
ゆくから

504

【ダイブ】

海域に潜ることの
僭越な管楽器が
黄金の呼気のように
排他的である
路面を凍結させたその滴が
海底を構築するアヴァロン
それは
碧に光り続ける
闇が届いているのに
地球の生殖器を浸潤させる
ユビキタスの擬人化
汗をかいたって
深海では無かったことにされる

涙を流したって
暗闇では匂うだけだ
空洞はいつも些細である
そこに揺蕩う者だけが
食餌である
五体投地する深海魚に
今はもう焔は濡れている
今生の別れでもあるまいに
プランクトンが裂け続ける
弱いWi-Fiが深海を刺殺する夜
美しい女が
レンブラントに描かれながら
海を論破する

菅田将暉の歌のように
透明な崑崙
宇宙飛行士の襁褓のように
麗しきバビロン
海女のように
濡れそぼつアヴァロン
嗚呼、どうして世界には
ほとんど空気が無いのか

不思議なことが
海溝であった試しがない
海にさえ樹齢があり(潮齢?)
そこはたおやかに
柔らかく濡れていて
水圧がだらしなく
悔い続ける
いくらでも涌き出るのだろうね
無限のコンフィデンスがある冥府
花束と黒い月
泡沫のレストア
呼吸

#詩


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