猫町フェスのオープンマイクで朗読した詩
詩人にならなければならない
おまえは 詩人にならなければならない
詩人になっても
詩は書かなくて良いのだ
その生き方で月に栞を
はさむことかできる
詩人になったら
傷付いた言葉を慰めなければならない
交換に欲望に差別に裏切りに力に
傷付ついた言葉を
癒し、撫でなければならない
よじれる言葉を抱き締め
その背中を優しく叩き
泣きじゃくる韻律の滴を
そっと拭く役目を担う
詩人にならなければならない
おまえは詩人にならなければならない
夜の洪水が耳から脳に及んで
心の深い部屋がじっとりと腐ってゆくとき
その一番はじめの水門を
丁寧に叩かなければならない
光輝く嘘を
踏みしだかれた虹、
燃え尽きた約束を
自由な意味の海に
放流しなければならない
故郷に帰る言語の
苦しく卵を生むさまを
見届けるしごとだ
詩人にならなければならない
おまえも詩人にならなければならない
誰もが言いたいことと 言われることの
隙間に傷口を開いている
語彙の波のなかで
剥き出しの粘膜を震わせ
正しい泳ぎに怯え
寂しく息継ぎをしながら
黄金の海原の途上で
愛してる と祈らなければならない
振り向いてほしい帆があっただろう
下げてほしい錨があっただろう
言葉と言う生き物の
頼りない呼吸に
うちひしがれたことがあっただろう
かえって口をついた鋭さに
戸惑ったこともあっただろう
知っていますか?
言葉は恋をしてセックスして
子供を産み
勉強し
遊び
泣き
時には罪を犯し
必ず天に帰る
その途上で人間と人間の
暖かい甲板を
もやい合わせる音楽になる
詩人にならなければならない
おまえが詩人にならなければならない
甦る言葉の一回目の出航に
立ち合わなければならない
そして美しい意味たちの結婚に
祝福のメッセージを送る日
生まれ来る次の言葉を。
#詩
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