twitterにアップした詩たち。2018/12/18~2018/12/31

40

時間の皮を剥いて
親指を差し込む

丁寧に12に割いて
白い筋を とる

年々歳々 
味と形と大きさが
変わるのが 分かる

いつまで
綺麗に食べてしまっても
気付いたらポケットの中に

あなた
の実は
随分 小さくなったね

涙が止まらないのは
酸っぱ過ぎるから

それだけだから
笑っていてね

41

アナトール フランス
のように
美しい朝でありたい

濡れてしまった蜘蛛の巣
陽に染まった駐輪場
鳥達の歌、さむいさむい、と
冬に咲く花 その香り

地球という眼球
大気という網膜に
モノクルをかけて見る
真空と将来

どこか遠いところで
もう片方の瞳が
寓話を朗読するのが
聴こえる

42

手袋のパイルが可愛らしいゆうべ

タブロオから躍り出た少女の

右手だけぬくめて羽撃たく

(転がるエッグ ヨーク スポイト

卵と鳥の解離はすごいね)

バスタオル持ってくるから

いつまでも裸でいないで

夜更け 少女は絵に帰る

タオルと殻が絵の具にまみれて

光っている 星みたいに

43

透明なイヤフォンから流れ来る音楽

東雲色が沁みる車輌の往来

飛翔する竜神さまの和毛

牡鹿の刻まれる骨のにおい

欲情する倦怠

配達夫の郵便

読みさしの詩

横たわるコギト

言葉は流れる

出来るだけ受け止めなければ

時の底に逃げた それを

掴める腕は 無いのだ

どこにも

44

鬣をふるわせ
刻の獅子が叫ぶ その咆哮

ケラチン質の刺が
勃起した秒針に咲く

昨日と明日のあわいに
体液を注ぐ牙がある

次元の持つ乳房の剛性
滑らかな飛沫と悦楽

硬直する背骨
日付が変わる瞬間に力尽きる
昨日という名の獅子

炎の中から生まれる
新しい獣

そうして静かに歴史が生まれる

45

土という字が
地面に刺さる十字架に見える

文字の置かれる
荒涼とした架空の紙に
密やかに立つ墓標

そして
そこに眠る
知覚と誤謬

俺はそこから
卵膜の棺を突き破り
腕を伸ばす

土壌の下面を削り
あたらしく
生まれ変わるため

無限の自由から虚無を抉りだす
ひとりの戦士として

46

美しい海と朝陽
美しい優しさ
美しい音楽
美しい絵画
美しいマフラー
美しいミトン
美しいキス
美しい指輪
美しい食事と
美しい運動
美しい記念日
美しい映画
美しい氷
美しい雨
美しい動物
美しい雨
美しい言葉
美しい雨
美しい本
美しい詩
それらが全て
およそ360日のうちに
僕の血を渡った

今妻が夕餉もとらず
23時の僕を待っている

電車が揺れる
それさえも美しいことを
去年の僕は知らない

47

暮らしという記号が
こめかみを航海する

暖かさと寂しさが
季節のように振り幅を拡げ
互いに補完し合う 冬

泣きながらの朝食/泣きながらの抱擁/泣きながらの献身/泣きながらの修身/泣きながらの欣求/泣きながらの就寝/泣きながらの覚醒と生誕

大気中の海を
結晶させる涙腺が
美しく生活する 冬

48

美しいシニフィエ
雑駁たるパロール

ラングが破られて
言葉たちが蟻のように
流れてゆく

イマージュと結びつく牙
蟻を噛んだときの酸っぱさ

言語がその酸を与えるのに
どれだけの地獄を費やすのか

私には届けたい言葉がある
そしてそれを届けないコードがある

蟻をまもる有契的自由が

ある

49

チェンバロの内部を燃える電流

光るゲシュタルトが整う

チェロ色の孤独が

網膜でハレーションを起こし

未体験の記憶が

むくむくと歌いだす

未来が過去になるために

消費される倚音

切り分けられたバンジョーが

優しく分泌する針葉樹

いま デンバーの山奥みたいに

音楽が風になる

50

わだかまる
少女が蟠り
トポスになるとき
冒涜 と 自涜の生地が
僅かに でなはく 蟠る

倦ねる堆積は
明け方の しぼ と
あざやかな サージ

わだかまる
暖かく濡れた流氷に蟠り
かつて鋭利であった突端が口と
心臓から飛び出る

あや織りの言葉が
びしょ濡れで破られる

夢のように破られる

51

余命一年と言われれば
誰しも優しい

撞着する者や 泥棒や
商人や 小鳥や 蔓草や 天体も
皆 死の前に友人である

雲の向こう 裸の朝が燃える

明日
あなたがここにある保証を
焼き尽くして精製された
フュール

それこそが
愛の機関である

52

イブ、はイブニングと同じ幹から
生れた言葉でした

それは"夜"を意味して
聖なる時でした

燃えるようなサンタが
プレゼントを枕辺に、
そして髪を撫で
その日だけの特別な光に
なります

オーナメントが空に昇って
すんすん 雲になる夜
全ての幸せが
六角形です

53

逆光のうさぎが
空を游いでいる

縹色の音楽
眠るタングステン

冷たい風を横切る
朝のライオン

昨日と同一に見えて
透明なベールの厚み


宇と宙に刻まれた思い出 よ
お願い僕を
絆して/絆さないでいて

54

心の奥の虹に逃げ込む

優しい久遠の歌

あまやかな光の鼓膜

洗い立ての熊の手触り

野菜が煮崩れるドレス

茜色の香り

エクレアに蝋燭を立てて

チョコレート 涙みたいね

時間の森に住む

柔らかい矛盾が

たくさんの楽器の音で

さやさやと 笑った

55

左利きの宇宙が
朝になりすます
冷えてしまった炭酸水
その中でもだえる金星
ずれていく地軸
噛み砕かれたオポジション
水府の底の天体が
発行している海洋
メティスの軌道から
あなたの心臓に
突き刺さるさよなら

空に立っている俺を
置き去りして精神は
公転する 
なんの未練も無いかのように

56

嗚呼 俺たちは挽歌に過ぎない
万朶の燃焼に過ぎない
馬上の虹に過ぎない
万里の砂鉄に過ぎない
晩夏の蜉蝣に過ぎない
万象の誤謬に過ぎない
晩餐の残滓に過ぎない
盤上の雪片に過ぎない
罵詈の止揚に過ぎない
Bachの福音に過ぎない
馬謖の落ちた首
莫迦げたしかし美しい
生理の炎に
過ぎない

57

一番陽の短い日に
グノモンが倒れ
下敷きになった
嬰児の頭ほどの 柚子

栓の抜けた湯船
【合】の位置にある香気
遂に詰まって
がぼがぼと音を立てる

いつかはいなくなってしまう
お前のことを慮ると
空の浴槽に
涙が膠着く

鮮血のような日時計の影が
過去でも未来でもない方角へ
無限に伸びる

58

キラライロノユウグレ
キロニツク モノノケ
キミノワルイ カワベニ
キノチガッタ オサカナ
キミドリノコクテン
キザミコンダ ウロコガ
キズツイタ ユウグレ
キノウサエ クイツクシ
キガジョウタイ モノノケ
キビナゴノ セナカヲ
キモソゾロ オイカケ
キヅイタラ ミナゾコニ
キンイロノ ヒガオチル

59

顔の左は朝
顔の右は夜

左目は太陽
右目は瞑る

星の雀斑
耳は何処に

神様は
人類を自らに似せたもうた

それはナルシシズム?
さもなくば、愛の暗喩?

昼夜問わず
天を仰ぐことのできる歓びと恐怖

ブラックホールの鼻息
揺れる電磁波と
性器

60

おやすみ ファムファタール
夜の井戸から汲んだトルソには
ジュヌコンプランパ、とだけ
刻まれている

キエスとケスクセだけで
どうにか消化したヴァン
精神の腫瘍にパン粉をつけなきゃ
って悲鳴が厨房から

ヌーヴェル チェスターコート
オブスキュアなシャッポ

記憶の西欧は
いつも裸の晩餐

61

黎明の稜線から奔る
朝の鱗粉の連絡

透明な精神の器は
日々の張力に依り
一滴の光で溢れ

例えば真鍮のおりん いっぱいに
注がれた波涛が
ざぶん


時に
木に
街に
道に
枝に
肌に
肉に
臓腑に
風に
川に
言語に
脳に
心に
関係に
宿命に
刻まれた
煌めく泥梨

滂沱の境界が
浸潤する
朝の奈落

62

渝われない俺達は
涸れない食器に唯
俯いて向かい合う
脣を引き攣らせ
対面していて していない

沈黙などと言う
柔らかいものではない
言葉の無い地獄
聲が在ったところでどうせ

発端など疾っくに
亡びてしまって
何処までも蹤いて来る
独善と不遜の月

食卓には
血のような孤独だけが
煮詰まる

63

血を流した罵声が
夜の線路に娼婦の様に
寝転んでいる

警報が鳴り
遮断機は墜ちる

興奮した最終電車は
何にも気付かない

誰かが叫ぶ
それは轢かれ
粉々になった声が
車輪に車体にライトに
パンタグラフに砂利に
きらきらと飛び散る

初めからこうしておけば良かった

意識の底で 皆がそう思う

64

堰かされて
杯を干す
風白く
肌硬し
寿いだ
あの夏が
死んでゆく
過去だけが
頻々(しくしく)と
痛んでる
冬の瀬に
波爆ぜる
透明な
海の凪
俺たちは
冥界の
暑い日を
焼酎の
端に浮かべ
世はすべて
事もなし
いつの日か
また遊び
語ろうぞ
我が友よ
さようなら
お元気で
また来世
また来世

65

ディオティマは恋をしない
なよびかな名に靡かない
蹌踉めきなど唾棄である

しかし
聖なる旋律が
美への希求を歌えば
その胸には確かに2つの

ディオラマに過ぎないのだ所詮

肉体の神殿に使途が蔓延り
それは月齢28日毎に
諸声で真実を衝く

撓るなら飛沫けばいいのに

神は嘘を隠すか?

66

滑らかな寒い道が
黒目を嘗めている

鼠径部の標識が
未だ鰐と呼ばれていた頃
俺たちは路側帯のように堅かった

お前はどうして
眉間から蛎殻を零している

静電気で吹き飛んだ爪が
信号を不器用に右折する冬が闌け

悴んだ貝だけが
瑞々しく燃えて奔る

67

雲は空気のうた
水滴が朱華の陽を受け
ことさらに顕在する

すべすべした緋色の奇跡
鼓膜を打つ香りの軌跡
こんじきの音の奇蹟

神様の鳩尾と鎖骨のあわい
風に戦ぐ乳房が
朝を調律している

#詩

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