twitterにアップした詩たち。2020/02/01~2020/02/29

844

生まれかわる季節の詠嘆を
わたしはそっと聴いた
輝くものが
何処から来て何処へゆくのか
知らぬものは無い何故か
空が声を降らせる
角膜に反射する陽
幻惑の奔流に呑まれ
風をゆく光を
喜ぶ耳たち
波に触れる手付きで
音楽を撫でるもの
が再び言葉を寝かしつける

845

あまりにも美しい季節が
腹の底から言葉を芽生えさせる
失われたものたちが静かに
夜を終える
もう戻ってこないものが
戻ってこられないように
抑えこむはたらき
や可能態を
今に変えてゆく連鎖
反射する朝
普遍が咲かせる花に
影が出来る
あまりにも美しい季節が
もうすぐ咲き誇る
白い言葉のなかに

846

明日から春だから
今日は最後の冬を泣こう

夢を見た
何人もの異なる海と
いさかいあらそう夢
心のどこかに
罪を抱いている
正しい道を歩こうとしたのに
世界はゆっくりと崩れた
花のかたちの眼球
その透明な語彙
記憶はいくらでも
美しく改竄できる

だから薫りを滅ぼすことの
たしかな手触りを
風に埋葬する手付きで
その首を締めよう
赤い指あとが
しっかりと残って
その口や耳や鼻から
悪魔が逃げていくように

明日から春なのだから

それから白日夢に
しっかりと止めを刺し
後悔の数だけ
錠剤を噛み砕く

涙をボロボロこぼし
心は自分から剥がれ
過去が絶叫し
大地と信じていたものが
立てないほど揺れる

年々暖かくなる比喩
年々短くなる夢
年々剥がれてゆく人々
年々衰えてゆく闇
年々睡りにつくいきものたち

指の間から逃げてゆく
季節外れの蝶が
翅に数字を刻む
その星の運行

明日から春だから
この冬は死んでしまうのだから
もう泣くのは止めよう

明日から春なのだから

847

地球より果てしない果実が
事象を喪うだろう
暗喩としての朝が
脆くも崩れ去るとき
悲しい冬の樹が
記憶を求めている
暗礁は陸地にも見上げる
疎らな精霊の伝言
匿されていくものが
匿されていくままに
光り続ける

848

火が
叙情であるとき
街は些かも
弁明しない
光明が
水泡を散らすとき
山麓は
静かに撫でられている
風が
ゆっくりと代謝する
過去はすぐに
教えたがる 言葉を
それから
畦道を通って
どこかに還ってゆく雨
灯がともってゆく時刻
街はいつも
言訳したりはしない

849

この生にログインした時
かすかな記憶があった
どのように振る舞い
何をするべきか
緩やかな示唆があった
いつか僕が
ログアウトするとき
このパスワードは
誰が引き継ぐだろう
その存在を
光の射す方へ
導くことが出来るか
大きな河をわたるように
命が横切ってゆく
血の影に
美しいものを隠して

850

灰色の風が
耳を冷たく洗う
夜が遺したものを
慌てて拾いあつめる
美しい聲の欠片
季節の膝が曲がり
跳躍の気配
燻る街の南端に
海に続かない国道
遠くから聴こえる音楽
始まりが終わってゆく
視えない太陽が
土の下にまで
言葉である

851

掠れゆく地層のなかで
ヴェールが風を受ける
忌避されていた記憶に
懐かしむものが潜む
絡まった精神が
日向を経由してゆく
地の揺れの言葉
手紙は届いていますか?
遺された挙措と
眠りにつく液体
拡げられた空から
無数の窓が翔びたつ

852

言葉を望んでいた
ただ美しい言葉を

悲しみが稜線を背負う
その寝具のなかで海が拡がる
峰から墜ちる河に沿って

男は右手を喪い
空からの言葉を待つ
女は過去を売り払い
音楽を買った

誰もが
美しい言葉を
ただ望んでいた
円環する
地図のなか
神の宿る街で
さかなとなって
森を夢みて
せめて番いで

853

杳かな生命線に
甘い雷雨を握らせ
それはあまりにもか細く
冷たい漆器の群れ
未明
その指がすんなりと伸び
美しい楽器に触れると
充足に暗喩して
何を調えるだろう
さしあたり
掌ほどのギターを
空洞に寝かせる
調律はおこなわれる
鳴動とリバーブが
響きあい
美しく沈黙する

854

ユージェニー
あなたが愛した弟の
空は何色だったか
マカロニの雲
地平線に傾くトマト
大きな匙の上で

ユージェニー
あなたが手を引いた弟は
風の音を聴いたか
冷たさに馴れるまでの駆引き
その透き通る言葉を

ユージェニー
あなたが抱き締めた弟の
夢はカラードだったか
暗黒の中にさえ虹は
睡っている

ユージェニー
あなたを抱き締めた弟の
魂は何処にゆくのか
記憶と光だけを遺して
一人の食卓は湯気を立てる

855

空間を彫るものに
道具が与えられる
世界の裏側に
納められた灰色の
そのざらりとした馨り
盲人が塑像をなぞる指
哀しみに名前がつけられ
ゆっくりと割れる朝
何処にも往かないだろう鳥が
向こうから翔んでくる
表裏の境界を超えて
巣が造られる
そのような道具が
与えられるのだ

856

夜の星が歌う
魔女たちの懺悔
その薄暗い餌食
哀しみには薬がある
温度が流れてゆく
闇が赤く焼ける
速い言葉が
地の底を游ぐ
最後のあなたの手を
僕は思い出せない
光が揺れ
そして落ちる
音符の様に
地を濡らすものが
記憶の眼を
隠してゆく

857

ひかりが
そらを ゆるしました
なみだが かわいてゆくので
そらは とてもたかいのです
みえない ものたちが
かぜを うたい
ゆるやかに そして さやかに
きせつを たしかめています
たかい した ことばたち
その あたたかい ゆきさき
もえてゆく にがつのそら
ふかく かくしています
ほのお と
きのめを

858

無意識の月光が
落ちてゆく窓を受け止め
歴史に名付けられた血を
聖なるものとして崇めた
過ちが楔を折り
虚しく喩えられてゆく息
深海を翔ぶ鳥たちの
自由が泡になる 水面にゆく
撹拌された真相
慰み物にされる季節
世界に充ち充ちた冥い黄金
それは孤独の暗喩である

859

寒い世界が
長い夢を濾過する
あどけない渉猟
何も変えられなかったあの頃
秣から離れてゆく馬たち
壁の中に平野が拡がり
宝石のような雨降る
一本の樹が裂けている
落雷をまともに受けて
割れながら冬を過ごす
しずかな銃声
聴こえない程かすかな

馬が還ってくる
血の匂いを
漸く洗い流しながら

860

白く輝く夜に
意味だけが埋葬される
揺るぎない情緒無くして
再臨は成就されない
選んだわけではないものと
生き続けなければ ならないとき
人は墓石を倒して
掌でその名を掬い上げる
吹けばとぶ 沫のように
灰が舞う闇
次の四季に向けて
視えない短針が
疼きはじめる

861

花の馨りを忘れて
夢が眼を眠る
音楽をつくるように
枯れていく風
それから些細な味蕾を
楽しみにしている午後
喪われない陽射し
幸せは遍在していて
哀しみも そう
ビーズの群れに入れた指を抜くとき
戻ってゆく流体
埋められてゆく今を
決めているもの
その采配が
美しく西に落ちてゆく

862

微小な哀切の
美しい空への弛緩
パロールばかり荒野に遺り
意味は容易く組み換えられる
罪は心のクローゼットに
綺麗に畳まれ
広い愛の者に
出逢うたびに想う
心の底部
その泥土との慥かな関係
それは
調っていますか
積み重なっていますか
過去を赦せますか
与え得るものは
どこから来るのですか?

863

海風が街を乗っ取り
ばたばたと美しい季節だ
飛沫を聴いたことを
忘れてはいけない
それは月の言葉だと
祖先の窓に教わったばかりだ
乱反射する潮騒
昇ってゆく閃光
あなたは輝く鳥
その当て所無い空間
真っ直ぐに滑り落ちる船
微笑む魚たち
夜が貝に染み込む
隙間から
星くず零れる

864

今日が駆けて去った

はじめて往く場所の
帰路がはやいように
いのちも折り返せば
往きより遥かにはやい

われわれは還ってゆく
その途上のなかで
光をのぞむもの
現在に躓くもの
亡んでゆくことの
甘美な馴致

今日が欠けて
また膨らんでゆく

突沸を待ついま
夕暮れを指す
鐘が鳴りはじめる

865

さよならの朔日
はじまりの太陽を
凝視するものたち

あなたはもう二度と
朝を視たりしないだろう
叶わなかった願いを
優しく暁のせいにして

思惟の果ての精度
その半鐘としての
不条理な掠奪

どうか幸せに。
「それは瞋恚の果てに」
再び、の無い空
無限の東雲を
ぼくは背負ってゆく

866

花弁の手触りを
護符にする電気の
秀麗な窓に
まだ洗礼名が無く
長い息継ぎの
閃く布には
旅館にも似た
払暁が駆けていた
音素に擬態した
セーブルたちの語彙には
既に鄭声は無い
終焉まで覗きこまれる
あの古びた太陽

トロピズムの
落成式が近い

867

の中に睡る

美しい暗黒

忘れては想い出す

不確かな手つき

で 冒されてゆく森

輪郭が音になるから

齟齬をしまってゆく

何者でもない夜更に

鉱石がくだってゆく河

柔らかくなってしまった場所から

甘い匂いがする

野生のいきものが囀ずる

朝にまた逢おう

868

朝の中に墜ちてゆく
その葉脈と視線
新たな悦びが咳を払い
空は意表を突かれる
名前を忘れた光が
風に掻き消され
河はどこまでも血潮であるから
砕けてしまった導管の
その美しい末路に
手を合わせるだろう静謐の中
天に還ってゆく
樹々のアルペジオ
絶唱が
少しだけ零れる

869

風の抜ける森に
少女は座っていました。
きっと美しい闇が
彼女の底の泥濘を
優しくかき混ぜて
ほんとうは綺麗だった系譜を
静かに赦してくれると
無邪気に信じていました。

透明な檻に囲まれ
安全と束縛を同時に綻ばせ
淡い生き物たちの
咆哮を卵子に抱き
少女はワンピースを
揺らしていました。

荒らげた姿勢の
無惨な腹痛が
音もなく背中を
却って さするのです。

風の抜ける森に
少女は座っていました。
遠くで聖なる水音がします。
夜の跫音がするので
彼女はようやく
立ち上がりました。
中心の湖で
まだ渇かない
たましいを脱ぐために。

870

線路がギロチンのように光っている
わたしは速度を虚数にする
負の質量に凭れ掛かる
定理された罪を味わい
列車は判決する
ふっくらと下唇を濡らした
青い架線
河を渡ってゆく翅たち
水の中の宇宙には
晴れあがりの瞬間があっただろうか
世界が仮定の上に成り立つ
朝が美しく執行される

871

灼える庭で
渇きが虐げられる

凍れる空で
心理が韜晦する

雷樹の海で
不条理が果実を奪う

揺れる森で
回折する悪意

哀しみは訪れる
理由もなく

静謐がそれを視ている
鳥が叫ぶ
唱う子供たち

それから水門がひらく
天秤が少し傾いて
充分に有り得る/ない
ミルコメダで
止まる

872

独楽が
ゆっくりと倒れる
ひらいてゆく歳差
滑走する来歴
摩擦が地球を責める
大気が吹かれるだろう
そして、それも役には立たない
失明する回転
理との束の間の邂逅
美しい静止
沈黙の中にこそ
均衡がある
自転する宇宙に乗り
待つだろう
次の軌道の朝を
永遠の
夢を視ながら

873

白雪の中を往くように
いつか消える足跡を
ひとつずつ遺してゆく

ゆっくりと堆積が
喪われても
それは構わない
春が来るのだ

さよなら
美しい履歴
終着を視るものは
孤独ではない

874

かゆい森のなかに
美しい階段がある
何処にもつづいていない
つきあたりさえ無い
その暗黙の膝が
濡れていく季節
清らかだったクォークが
不規則に涙を浮かべる
その湖の上で
森は静かに笑っている
動物たちはまだ名前も無く
朝の残滓ばかりを食む
一番高い樹にのぼる
階段は神様のなかまで
ゆったりとはいってゆく
手を放す
逆しまになった世界
物凄い速さで
街が近づいてくる
ぼくは受け身を取るかどうか
いつまでも考えている


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