僕の好きな詩について 第二十六回 宗左近
僕の好きな詩についてお話しするnote、第二十六回目は、宗 左近 氏です。
谷川俊太郎さんが若い頃好きだったと仰っていたので読んでみたら、なるほどなるほど、となりました。
では詩をどうぞ。
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「ひかり」宗左近
おぼえていておくれ坊や
あなたのお父さんが見つめている
ご近所のおばさんがそのおばさんのお子さんが
そして知らないおねえさんがかけよって
そしてみんな吸いこまれてのぞきこんでいる
この瞬間のひろがる明るさの波の渦
あなたから立昇る真新しい虹を
きっとおぼえていておくれ
わたしの胸のなかではじめて笑う坊や
あなたは弾む匂いです輝く息吹です坊や
たなたは膨らみやまない肉ですさわれる光です
あなたに夢を注ぐすべての視線と母乳の持ち主に
逆に夢を注ぎこむ夢の哺乳器です同時に夢です
その頭のひよめきその瞳の灯りその頬のふくらみ
あなたはどこからきたの何を照らす光なの
この世には悪魔みたいなものはいるけど多分
神様なんぞおいでにならないにきまっている
畏れげもなくそう思い定めてきたわたしだけれど
でも坊やこのひろがる明るさの波の渦をうむ坊や
おいでにならない神様もこの瞬間だけは特別に
おでましになっていて下さるからに違いない
みんなみんな吸いこまれてのぞきこんでいる
この不思議この奇蹟このひよめきこの灯りああ
おぼえていておくれ坊やいつまでも幻でないと
逆しまにしてのぞく望遠鏡の奥みたいな
近くて遥かなほの暗闇のなかからここだけ鮮明に
切り抜かれたわたしの心よりも小さなこの光の渦の
ああ中心の坊やあなたの目がやがてまともに
のぞくでしょう人生の望遠鏡の視野よりも近々と
しかし視野に決して入らないでしょう外側で
おぼえていておくれ坊やわたしたちみんなみんな
のぞきこんでいるのです見つめているのです
はじめて笑うあなたの瞳の奥を光らせるもの
おいでにならないかもしれないお方の涙を
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金子光晴氏の時もそうでしたが、メッセージ形式の詩に弱い僕です。
ペンネームの「宗左近」は「そうさ、こんちくしょう!」から来たとか。
野坂昭如が妹を失ったことの自責の念を創作活動に昇華させたように、宗左近も母親を戦争で失い、その事で自分を責め続けました。
戦争は街や人体だけでなく芸術にも火を点けましたが、そのことが良いことかどうか、今も僕には分かりません。
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