神様に媚を売ろう

3月20日
午前中、受け取りを頼まれたチケットを片手にPと待ち合わせをしていた。

「明日朝10時に〇〇前集合でお願いします」
そう言われたので数分前からスタンバイをしていたのだが、突っ立ってから気がついたら30分経っていた。
あれ?私間違えた?今日じゃないんだっけ?集合時間が違うのかな?そもそもここ集合じゃなかったりして……。
何度もLINEを開いては、この時間・この場所で間違いないことを確認するが、疑心暗鬼は収まらない。
Pにそれとなく連絡を入れると、「ああ!今行きます!」という返事が返ってきて、その5分後には受け渡しが完了した。
忘れてただけかぁ……。
まぁでも、今日は幸運にも天気が良い。こんなに暖かくてお日様が気持ちいい時期なら、まだいいか。

お気に入りのカフェで原稿を進めたりして時間を潰し、夕方からのライブの撮影スタッフに備えていると、先輩から耳を疑うような電話が飛び込んできた。
「借りる予定だったカメラと三脚、急遽貸出不可能になった!」

何でも、昨日の段階では事務所から機材を借りて劇場を撮影する約束をしていたのだが、今朝急に先方から「夜まで撮影なので貸せない」と連絡が来たそうな。
そんなむちゃくちゃな……、と落胆している場合ではない。何とかせねばと必死に近辺の機材レンタル会社を調べ、今から借りれるか電話でリサーチ。なんとか1件見つかり、事なきを得た。本当に良かった……。

しかし、一難去ってはまた一難。
劇場へ入るとすぐに目につく舞台の様子を映し出すモニターの前に、どこかで見たことのある背中が2つ。片方の背中がくるりとこちらを顔を向けたとき、心臓がどくりと思い脈を打った。
なんてこった。
あれは私が担当していた番組の総合演出とチーフDではないか!

信じたくない。
でも、間違いない。確実に元上司だ。
何度もオフィスで顔を見合わせてきた。間違えるわけがない。
でも、嘘だと思いたかった。
しかも今、がっつり総合演出と目が合ってしまったではないか。
幸い、下っ端ADの私は、1番権力のある総合演出とはそう会話する機会がそう無かったので印象は薄かっただろうし、私はマスクをしていて顔の半分は隠れている。総合演出は特にこちらに何も言わず、すぐ目線をモニターへ戻した。
今日ほど、己の影の薄さと花粉症に感謝したことはない。
(ちなみにこの一部始終を見ていた先輩は「嘘みたいに震えてた」と証言している)

そんな運命のいたずら(もはやいじめ)を乗り越え開演したライブは最高に面白かった。楽しそうにトークする演者さんが撮影できたので、きっと素敵な映像になることだろう。

終演後は同じく撮影スタッフとして稼働していた同期と、終電までガストで作業・作業・作業。
トラウマに勝てずとも、目の前の〆切には打ち勝ちたいものだ。

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