表紙を開く者への前書き
『マイロウドの手記』
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今でないとき、此処ではない場所に、自分に関する記憶のすべてを失った男がいた。自分が此処にいる理由も、家族のことも、己の名前すらも、すべて。
しかし、それでも彼は歩き出す。
記憶を取り戻すためではない。
ただ、〝自分〟になるために。
そして彼は、その旅で出会ったすべての者を、自身の手記へと書き記した。
自分を自分にしてくれた人々のことを、もう二度と忘れず、もう二度と手放さないために。
彼の遺した膨大な手記。
読んだ者が彼の記憶を追体験できるという、不思議なインクで書かれたその手記は、後世、多くの者にこう呼ばれた。
〝マイロウド(彼が信じた道)の手記〟——と。
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